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プロローグ:トラック野郎

新作です。


ちなみにですが、作者はトラックどころか車の知識すら有りません。

技術や知識を提供して下さる方は歓迎しています。


プロローグ:トラック野郎



 冷たい石畳みに顔を抑えつけられる。

 老人は一人の青年を見る、黒い髪の青年を、その青年は薄っすらと笑い、前髪を鷲掴みにすると顔の近くに手繰り寄せる。


「フムン、一刻の大使にしては張り合いがなかったな」

「くたばれ、悪魔めェ!」


 唾を吐きかけながらそう言う、青年はニコッとすると鋭い一撃が腹部を襲う。

 減り込み数本の骨が折れる音を体中に響かせる。

 息が出来なくなり、胃の中に入っていたモノが全て逆流する。

 青年は顔に付いた、唾を拭きとり、大使と呼ばれた老人に笑顔を崩さずに蹴りを入れる。

 顎の骨が砕け、激痛が走りその場でのた打ち回る。


「大使、おれは言ったハズだ、そちらが誠意を見せればいいと、貴国が保有する精霊石を全て引き渡せば我が国は国境から兵を引くと、しかし、約束の刻限が迫っているのに未だに精霊石は届いていない」


 どうして一国の大使がこの追うな仕打ちを受けているか、それは大使の国である、小国、パルメディオ王国にザスカ帝国が侵攻したことから始まる。

 戦いは一進一退の攻防戦が続いたが、ザスカ側が勇者を前線に配置したことにより戦況は一気にパルメディオ側が不利となった。

 パルメディオ側もブルタニオ連合王国と同盟を結び、それを後ろ盾にして和睦を打診した、ザスカ側も、超大国であるブルタニオと敵対することを避け和睦に応じる。

 和睦条件はこちら側で捉えている捕虜全員と国家の生命線である精霊石を全て引き渡せば停戦を認めると。

 パルメディオ側はそれに一縷の望みを託して大使はパルメディオとザスカの中間地点の砦にやって来たのだが、砦に入るなり護衛兵は討ち取られ、大使は拘束されたのである。

 王は必ず精霊石を届けてくれる、今は耐えるのだ。

 しかし、再び蹴りが飛ぶ、口の中は血の味で吐き気が込み上げて来る。


「必ず届く、必ずだ!」

「それは本当か?」

「ああ、我らの王は運送ギルドを通して凄腕の運び屋を雇っている、必ず来る!」


 言い切った途端に、蹴りが顔面に減り込み、鼻が明後日の方向へと曲がってしまう。


「今度は鼻の骨だな」

「それが、ザスカ帝国のヤリ方かァ! 一国の大使にこの様な仕打ち!」


 今度は膝が腹に減り込む。


「立場をわきまえろよ、拭けば消し飛ぶ様な小国の分際で、我が国の立ち向かおうとするの、愚かなことだ、言われた通り、降伏すれば隷属民として、生きられたモノを」

「我が国は、決してザスカに屈しない! 絶対にな!」

「そう、でも、荷物は絶対に届かない」

「何?」

「おれの部下が今頃運び屋を襲っている頃だろうからな」

「貴様は、停戦する気はないのか」

「無いね!」


 腹につま先が減り込む。

 段々意識が薄れて行く。


「き、貴様は勇者ではない、悪魔だ!」

「いや勇者だよ、おれは、ザスカは今、前代未聞の食糧難だ! 民は飢えで苦しんでいる、でも、農作をしようにも、農耕に適した土地はない、飢えで飢えで飢えで飢えで飢えで飢えで飢えでェエエ! 見んな苦しんでいるんだよ」


 大使の顔を踏みつけながら言う。


「だから、おれが召喚された、圧倒的な力で他国を支配して、ザスカの民に食べ物をってね、ねえ! おれ、嬉しかったんだよ、おれの居た世界はさあ、誰も、おれのことを認めてくれない、クラスの連中も、でもでもさあさあ! ここではおれは評価される、初めてだよ、こんな風に褒められるのは、国一つ支配するとさあ、皇帝がおれに跪いて感謝を述べるんだよ、本当に最高だよ!」

「貴様は狂っている!」

「そうかもね、もうさね、人を殺すのが楽しくって仕方ないんだよ! だから、戦争がしたい、戦争がしたいのに、あの皇帝さあ、ブルタニオとの戦を避けろと言ってさ、それじゃあ、戦争できないじゃあん、だからさ、戦争出来るように頑張ったんだよ、ねえ、褒めてよ、ねえ、褒めてよ!」


 何を言っているのか理解できなかった。

 この青年は本当に狂っている、狂っているからこの様なことが出来るのか。


「それじゃあ、さようならだ」


 青年は剣を抜き取り構える。


「これで、おれが望む戦争が来る、大戦争! 一心不乱の大戦争をってか!」

「くたばれ悪魔!」


 振り上げれ天高く光り輝く剣、これが振り下ろされれば間違いなく死ぬ。

 王よ、わたしの不徳をどうかお許しください。


「死ねぇ!」

「報告!」

「何だよ、良い所でよ!」


 兵士の声に救われた大使は詰まった息を吐き出す。

 駆け込んできた兵士は顔が青ざめている。


「どうしたんだよ、何があったんだよ」

「そ、それが! 巨大な! 巨大な『鉄の大蛇』がこちらに!」

「はあ、鉄の大蛇?」


 その時だった、地面が揺れている。

 小ギザミな震動は多き唸り、まるで咆哮のようなう轟音が響き渡る。

 そして、それは現れた。

 石造りの壁を意図も容易く破壊して侵入してきた、地面を轟かせる咆哮のようなエンジン。

 真っ赤な車体に『Aチーム』と殴り書きとアニメのロゴが掛かれた荷台。

 鉄の大蛇。

 ザスカの勇者はそれを見て声を失う。

 大使は初めて見るそれに希望の光を見る。

 そして居合わせた兵士達はただ茫然と眺めていた。


「何故、何でこんな所にトラックが有るんだよ!」


 それは彼の世界、いや、彼の住んでいた国ではまず見かけることのない大型トラック。

 アメリカ等ででよく見かけるボンネットのある角ばった車体のハイウェイを走る大型トラックだ。

 青年は呆然としていると、ドアが開き大柄な男が降りて来る。

 歳は青年とはかけ離れ四十ぐらい、スキンヘッドに碧眼の瞳をしていた。

 男は小銃を肩にかずきながら言う。


「アールビーバックだ、こんちくしょう共!」


 某、ロボットの名言をドヤ顔で言う。


「な、何をしている! 殺せ!」


 青年の掛け声と同時に兵士が一斉に襲い掛かるが、男は素早く小銃を構え引き金を引いた。

 放たれた弾丸は兵士の鎧の隙間に吸い込まれるかのように弾丸は兵士を貫いていく。

 銃声と共に呻き声を上げながら兵士達が次々と倒れて行く、素早いガン裁きは見るモノを釘付けにする。

 男は空になった弾倉を交換しようとするが、その隙をついて兵士が後ろから切り掛かろうとしていた、咄嗟に小銃で受け止めそれを救い上げるように持ち上げる、腕を後ろに回し押さえつけ、盾にする。

 瞬きする程の速さの動作、そして人質に取られ動けなくなった兵士を尻目に男は弾倉を装填、再び引き金を引く。

 銃のパワフルな力に兵士達は圧倒される。

 青年は思った、ダメだ、こんな兵士の持っている武器じゃあ懐に入る前に蜂の巣にされる。


「弓隊、放て!」


 二階にいる弓隊が一斉に構える。


「おいおい、マジかよ」

「死ねェ!」

「ウォーン! まだが!」


 男の叫ぶ声と同時に褐色肌の少年が弓隊の側面の壁から蹴り破り侵入して来る、突然に出来事に唖然としている間に間合いを詰め、一人の弓兵が矢を放つがそれを紙一重で躱しそのまま間合いを詰め、左のハイキックをこめかみに打ち込む、打ち込まれた兵士は自分の身に何が起きたのか理解する前に闇に吸い込まれるかのように意識を失い倒れる

 意識を失った兵士にそのまま蹴り飛ばして、飛ばされた兵士を抱え込む様に倒れ込んだ兵士に今度は回し蹴り食らわせる。


「なあ」


 青年は開いた口が塞がらなかった、それに何より、その少年の動きが洗礼されていた。

 ネットで見たことがある、ムエタイだ。

 足技最強と言われる格闘技、生で見るのは初めてだったが、空気を切り裂くような音を立てながら振り回す足技は、鍛え上げた兵士達を次々とと吹き飛ばして行く。

 そして何より青年の目を奪ったのはあの少年の足に付いている、脛あての様なプロテクター、間違いないあれは『精霊器』だ。

 まさか、あの少年も、あの男も勇者なのか。

 そうこうしている内に弓隊は壊滅、男を取り囲んでいた兵士達も手や足を撃ち抜かれ、その場で倒れていた。


「さて、大使様を放してもらおうか、少年」


 青年は大使を突き放す、大使は重い足取りで男の元に行く。


「貴殿が、例の?」

「ああ、王様に頼まれて目的のブツを持って来たぜ、伝票にサインを!」


 そう言って男は大使に紙を渡す。


「ははは、こんなに有り難い紙は初めて見るよ」

「そらどうも、さてと、約束通り、お前さん方は国境まで撤退してもらうぞ、こいつを持ってな!」


 トラックの荷台を開くとそこには大量に詰め込まれた水晶の様な石が雪崩を起こして崩れる。


「これがパルメディオ王国が保有する、精霊石、全部だ、受け取れよ」

「…………ふ、フハハハハハは! 愉快だよ、オッサン! アンタも勇者か?」

「有体に言えばそうなるな」

「名前?」

「お前さん、お袋さんに教わらなかったのか、名前を聞くときは自分から名乗る、それ世界の常識」

「フン、おれの名前は榊原ハヤトだ」

「おれの名前は、コフィン・マーフィン。生まれはテキサス、育ちは横須賀の海軍基地のアメリカ人。住所は現在ない、バリバリのアニメ大好きのアラフォーオタクオッサンだ、うんで、あんたの後ろに居るのがウォン、タイ生まれムエタイ戦士、おれのチームの一人だ」

「アメリカ人か…… なあ、同盟国民どうし、仲良くやらないか?」

「仲良くって?」

「一緒に世界を手に入れないか、オッサン銃を持っているだろう、それが有ればこの世界を征服するのは訳ないぜ、どうだ、やらないか?」


 大使は唖然とする、この青年、まさかこの状況で勧誘するなどどうかしている。

 大使はコフィンと呼ばれた男の顔を見るが顔色を一つも変えずに、静かに言う。


「それで、おれになんの得が有るんだ? うん?」

「考えてみろよ、世界を手に入れれば何でも手に入る、金も名誉も、女も! 全部だ、なあ、どうだ!」

「貴様! この機に及んでその様な事を言うか!」


 大使が声を張り上げて言うが、青年は睨みを聞かせた顔でこちらを見ながら言う。


「大使のおっさんは黙ってろよ」


 その覇気に押され大使は黙り込んでしまう。


「なあ、どうだよ」


 青年は手を差し出す、すると、コフィンは青年の方に近づき差し差出された手を見ながら言う。


「綺麗な手だな、お前さん、学校には行っていたのか?」

「何だよ、行き成り」

「あんたの也と素性を知りたいと思ってよ、仲間になるのなら、知っておかないとな」

「なあ、あ、あんた、まさか」


 裏切る気か、大使が一歩生み出そうとした時大使の肩を掴まれる。

 振り向くと一人の少女が居た、銀色の髪にブルーダイヤの様な瞳。

 そして、彼女の背中には六枚の銀色の羽根。


「せ、精霊様」

「大丈夫だ、安心しろ」


 大使はコフィと榊原のを見つめる。


「おれは東京生まれだ、東京の普通の家庭だよ、普通に過ごして、普通に生きて来た、だけど、何だが刺激が足りなくてよ、つまらないなと思っていたら、こんな世界に飛ばされてよ、凄いぜ、ここじゃあ戦争で人を殺せば殺す程、評価されるんだ、最高だ、なあ、あんたもそう思わないか?」


 コフィンは手を固く握る。


「そうだろう、あんたもそう思うだろう」

「ああ、ハッキリとわかったよ、お前さんは頭のネジが二、三本お袋さんの腹の中に忘れて来たイカレ野郎だってことがな!」


 榊原の鼻目掛けて頭突きをお見舞いする。

 鈍い音が部屋中に響く。

 鼻を抑えたうち回る、突然の攻撃に成す術もなくまともに貰った榊原は鼻血を吹き出しながら、泣き叫んでいた。


「鼻が! 鼻がァアアア!」

「心配するなよ、鼻の骨なってすぐに治る」

「クソがッ! メリケン野郎! ぶっ殺す」

「その言葉そのままそっくり帰すぜ、クソガキ!」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスゥウウウウ!」


 叫んだ直後、コフィンは見えない何かに突き飛ばされるかのように、真後ろに吹き飛ばされた。


「おっちゃん!」


 駆け寄ろうとしたウォンを手で制止する。


「大丈夫だ! これでようやくアイツの精霊とご対面だ!」


 榊原の足元に魔法陣が現れそこから少女が現れる、背中には赤い四枚の翼。

 ふわりと華麗に舞った少女は榊原の隣に静かに立つ。


「あれが、あの男の……」

「そだよ、アレがアイツの契約精霊だ」


 少女の周りには炎が舞い、周囲に熱風を振り撒く。

 その熱風で皮膚がヒリヒリと痛い。


「熱いな、おい、アポロ! アイツはどんな精霊だ!」

「序列十五位、炎の精霊カフ、特徴は他の精霊とは違い魔力は無尽蔵に近いぞ」

「おいおい、二桁台の精霊かよ、聞いてねぇぞ!」

「来るぞ!」


 精霊の腕の周りに炎が舞い、手の平に来ると同時に火球と化しコフィンに目掛けて飛んでくる。

 それを真横に飛ぶようにして躱しながら精霊に目掛けて引き金を引く、放たれた弾丸は精霊の目と鼻の先で溶解してしまう。

 それはまるで炎の結界だ。


「おいおい、マジかよ、弾丸が溶けちまった」

「無駄だ、カフの周囲は超高温、触れ様ならば一瞬で灰だ」

「ご丁寧に説明どうも!」


 コフィンは撃ち続けながら後退をする、一旦距離を取るためだ。


「逃がすかよ、鼻の骨を折った事を後悔させてやる、カフ!」


 精霊は榊原の隣に舞い降りると、彼と精霊を包み込むように巨大な魔方陣が出現する。


「契約者としてその力を行使する者とし、汝の姿を具現化し『精霊器』と生せ!」


 榊原が呪文を唱えると精霊が光り輝き、熱風が撒き散らされそしてその炎は榊原を包み込む。

 包み込まれた炎が爆散すると、そこから現れたのは鉄すらも溶かす灼熱の炎を身に纏った、赤い鎧の巨大な異形の騎士。


「これがおれの精霊器、 炎の要塞(フレイムフォートレス)、さあ、来いよ! メリケン野郎!」

「おう、中二病精神くすぐるネーミングありがとうよ」


 コフィンは引き金を絞る、放たれた弾丸は無情にも炎の壁の前では溶けてしまう。

 無駄だ、と言わんばかり拳が飛ぶ、自分と同じ体格の拳が目の前に迫り真横に飛び躱すと後ろに有った太い石の柱が原型を留めない程、粉砕される。

 まるで、粉砕機だとコフィン思った。

 立ち上がろうとした時、目の前に再び大砲の様な拳が飛んで来る、躱せない、そう思と同時に体がふわっと浮く、コフィンは実際に浮いていた、ウォンがコフィンを抱きかかえ、飛んでいるかのように跳躍する。

 さらにウォンは特殊閃光弾(スタングレネード)を榊原に投げつける、スタングレネードは榊原の目の前で炸裂、強烈な閃光と音が榊原を襲う。

 その間にウォンはコフィンと共に柱の陰に隠れる。

 視力を取り戻した、榊原がコフィン達を探すために所かまわず拳を振り、壁や柱、さらに味方の兵士まで粉砕している。


「どうするんだよ、おっちゃん」


 ウォンがコフィンを見ながら言う。


「今考えている!」


 そう言って銃を見る、何とかコレでやれないか、そう考えていると静かに、物音を立てずに無表情な顔で知らぬ間に隣に立っていたアポロがコフィンを見て、口を開く。


「撃っても無駄だ、説明しただろう、精霊は殺せない、と」


 そう、精霊は殺せない、いかなる武器でも。

 精霊は生命力の塊だ、どんな傷でも、例え体を粉砕されても直ぐに再生する。

 不老不死の存在だ。

 その精霊を殺す方法は二つ、一つは精霊王の『命の裁き』を受けることだ。

 精霊を束ねる王である精霊王は精霊神から精霊を殺せる力を与えられている。

 精霊王は生命に仇なす精霊を粛清することが出来のだ。

 しかし、粛清するには精霊を精霊王の元へ連れて行くしかない。

 だが、今の状態ではそれは不可能。

 そして、もう一つの方法、それは。


「時間がないぞ、このままでは、ここも見つかる、隠れる場所が無くなればこちらが不利になるだけだ」

「わかっている、だから、今、考えている……」

「何を考えると言うのだ、ウォンの精霊器は接近戦闘に特化したモノだ、彼ではアレの相性が悪い、残る方法は――」

「わかっているって言っているだろう! 出来る事ならアレは使いたくないんだよ!」

「何を躊躇う、アイツは『悪』だ、例え勇者として召喚されたとしても、自分の快楽の為に罪もない関係のない人間を殺して喜ぶ、そう言う男だ、勇者と言う言葉の『仮面を被った悪』だ、忘れるな、『貴様』が何の為に、この世界に召喚されたのかを!」

「それでも、おれは…… 子供を殺すのは嫌だ」

「……わたしにはわからん、主の考えが」

「奇遇だな、おれもお前の考えがわからん」


 しばらく見つめ合う二人、そして、何かを折れた様に小さな溜息を付いて、コフィンはウォンを見て言う。


「時間は稼げるか? ウォン」

「ふう、稼げるかじゃない、稼ぐんだろう、おっちゃん!」

「アポロ、力を貸せ」

「……了解した、主」


 榊原は敵を探していた。

 自分の鼻をへし折った男を殺す為に、どこに居ると叫びながら探す。

 見つけたら殺す、必ず殺す、そう叫びながら彼は居そうな場所に拳を撃ち込む。

 すると背中の方に障壁が反応する、振り返るとあの褐色肌のムエタイのガキが視界に入る。

 コイツを捕まえて炙り出す、榊原は捕まえようとするが寸前のところで躱されてしまう、この炎の要塞(フレイムフォートレス)は常人離れした怪力を発揮することが出来るが最大の弱点があった、それは機動力がないと言うことだ。

 だから、ウォンの様な小柄で素早い動きをする敵には、どうしても動作が遅れてしまう、動作が遅れると言う事はそれだけ隙が生まれると言う事だ。

 それを補う為の炎の障壁、これが有る限り敵は迂闊に近づけない。

 絶対の防御力。

 絶対の破壊力。


「おれは無敵なんだよ!」


 柱を粉砕してその破片を飛び散らす、散弾銃で撃たれたかのように拡散する石粒はウォンを襲う。

 ウォンも精霊器から障壁を発生させるが一歩遅れ、太腿と肩に石粒を食らい、その場に倒れてしまう。


「まず一人!」


 拳を天高く上げた振り下ろそうとした瞬間、その右拳に何かが貫き、その周辺から塩化して砕け落ちて行く。

 榊原は何が起きたのかわからなかった、精霊器はどんな武器だろうと破壊することは出来ない、そのハズだ、しかし、破壊された。

 破壊された箇所は見る見るうちに塩と化して崩れ落ちる、それに合わせるかの様に、榊原の精霊が悲鳴を上げていた。

 彼の意識の中に精霊の悲痛の泣き叫び声がこだまする。


「な、何だこれは?」


 振り向くとそこに居たのはコフィンと銀色の髪の精霊だ。

 コフィンの右手には榊原が見たことのない銃が握られていた。

 禍々しくこの世の物とは思えない異形の形をした銃。

 そして精霊の足元と銃口に、土、水、風、火の四つの四大元素(エレメンタル)の魔方陣が展開しいた。

 

「何だ、その銃は!」


 榊原が言うと、コフィンは静かに答える。


「コイツか? コイツは『精霊殺しの銃』とでも言っておこうかな」

「バカな、精霊器はどんな武器でも破壊することは出来ないハズだ!」

「残念だが、コイツは精霊王のご加護が有るんでよ、コイツに殺せない精霊は存在しない! ましてやそんな鈍間なお前じゃあコイツは避けられないだろう!」

「クッ! カフ! 炎の障壁を最大に!」

「無駄だ、コイツの前には効かない、アポロ!」

「全ての四大元素(エレメンタル)収縮完了、術式(スペル)の刻印完了」

「さようならだ、クソガキ!」


 全ての魔方陣が重なり銃身が輝き出す、そしてコフィンは静かに引き金を引く、放たれた弾丸は銀色の光を放ち、炎の要塞(フレイムフォートレス)の胴を貫いた。

 貫かれた鎧は塩と化して行く、その中から榊原と彼の精霊が塩と共に滑り落ちる。

 胸を撃ち抜かれた榊原は口血を吐き出し、そして胸から赤い血が流れ出していた。


「痛ッエエ! 痛いよ! 誰が助けてくれ、カフ! 助けてくれ!」


 呻き散らす声にコフィンは銃を突きつけながら近づく。

 この出血量はとても助かりそうにない。

 ふと、その足元に居た彼の精霊が這いつくばる様にヨロヨロと近づいて行く、既に右手はなく、体も半分から下が無かった。

 傷口からは血の代わりに光が溢れ出していた。


「カフ! どこに居る! おれをおれを! 一人にしないでくれ!」

「ハヤト…… 様」


 近づこうと必死に伸ばす左手をアポロは踏みつける。


「これ以上を近づくな、コイツは死ぬ、そうなればお前は契約解除となり、精霊の国に強制帰国してもらう、無論、精霊王イグス様から『命の裁き』を受けてもらう」

「放せ!」


 アポロは踏み付けていた足に力を入れる、アポロが力を入れる度に彼女の悲鳴が上がる。


「『精霊殺しの銃』は全ての四大元素(エレメンタル)を収縮して放たれる弾丸、その傷口は決して回復しない、そのままこの世界に居続ければ、数分とも持たない、確実に死ぬぞ」

「それでも…… ハヤト様の元に」

「……貴様、まさかと思うが、コイツに『恋』をしてるのか」


 カフと呼ばれた精霊は黙り込んでしまう。


「精霊は決して下界の者を愛してはならない、『人を愛してしまった精霊は二度と精霊の国に帰れない』わかっているのか」

「わかっている、わかっているからこそ、わたしは彼と共に!」

「理解できない、何故?」

「アポロ、その子の手から足を退けろ」


 アポロはコフィンを見る、どうしてお前はそこまで優しいのだ、と言いたそうな顔をしてこちらを見ている。

 

「アポロ!」

「……了解だ、主」


 アポロは静かに足を退ける。

 カフは必至に榊原に近づく、そして顔の近くまで行くと、左手で榊原の頭を抱き寄せる。


「カフ、そこか、一緒に居てくれ、怖いよ、死ぬのが怖い」

「ハヤト様、わたしも一緒に行きますので、どうか、気を安らかに」

「カフ、カフ!」

「はい」

「ありがとう、カフ、カフ、カ……」


 静かに榊原はこの世を去った、そして、その契約精霊もまた、体全体が光りが零れだして行く。

 カフの瞳には薄っすらと涙を浮かべて、そして、彼女もまたこの世を去っていた。


「終わったのかおっちゃん」

「ああ、後味の悪い仕事だよ、まったく」

「本当に理解できない、何故、この様な男に『恋』など」

「さあな、コイツ等にはコイツ等なりの絆があったんだろうよ、それこそ前がわからない何かだ」


 しばらく、榊原の亡骸を見た後、アポロは踵を返してコフィンの横をすり抜ける。


「まったく、ムカつく奴だ、お前らとは偉い違いだな」

「本当に仲悪いな、なあ、ムフン」

「うん、アポロ様もコフィン様も何を考えているのかまるでわからない」


 ウォンの精霊器は人の姿に戻っていた。

 あどけない子供っポイ感じを残した精霊は、ウォンの腕に抱き付きながら言う。

 そんな二人を尻目に、コフィンは自分が殺した榊原の遺体を見ていた。

 この遺体を見ると思い出すことがある、あの日のことを。

 コフィンは静かにそして深く溜息をする。

 よそう、考えるは、そんな事を考えても仕方ない。


「大使、帰りましょう、お宅の国へ」

「ああ、ありがとう、礼を言うよ、コーヒー殿」


 そう言われてイラっとする。

 大使とコフィンの会話聞いていたウォンも、ムフンもアポロもこの時ばかりは口を揃えて言う、いつもの言葉を。


「コーヒーじゃねえ! コフィンだ!」




 精霊神が創造したとされる世界『ユグ』

 この数多くの種族が住み、国を形成し、争いが続く世界である。

 各国は一騎当千の戦力、精霊契約により得られる力『精霊器』を求めて、

『異の世界』から唯一にして『精霊器』を操る為の精霊契約が出来る存在『勇者』を召喚し戦力に組み込んでいた。

 無論、『勇者』も人の子である。

 その力に魅せられ欲に溺れる存在も居る。

『勇者の皮を被った悪』

 そんな彼らを粛清する者が居た、彼らは運送ギルドに所属して、世界各地に飛び回り、荷を運びなら『悪に落ちた勇者』を抹殺している。

 勇者の間では彼らの事を畏怖を込めてこう呼ぶ『勇者殺し』もしくは『トラック野郎Aチーム』と。 

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