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デッドラインは、すぐそこだ!

 須藤は始終力を抑え、抜き足差し足の移動も本来の半分にも満たない速度で行った。それでもミズキはとてもかなわず、拳圧をもろに喰らい吹き飛ばされる。

 と、吹き飛ばされた空中で、ミズキの動きが止まった。須藤の目に稲妻が走る、彼は迎え打つためであろう、静かに手を引いた。そこからカウンターの構えをとる。

 空中で、ミズキは体勢を整え足先だけ地面につける。思いっきりつま先で地面を蹴りとばし、須藤の懐まで一直線に飛んだ。

 はずだったが、須藤の姿はミズキの目の前から消えた。ミズキの感じている天地がたちまち反転する。次にミズキが見たのは、部屋の天井だった。

 須藤はミズキの後ろ襟をつかみ、背中を床につけさせていた。

「はい、勝負ありです。危ないから今日はこれまで。分かりましたね?」 

反応はない、やりすぎたのかと疑ったようで、須藤がミズキの顔をのぞき見る。

「あー、楽しかった」

 須藤はかかとからずる、と膝をつきそうになった。ミズキの表情が、そこでハッと変わった。

「あ、いや、すいません。これ、練習ですもんね。俺のせいで、人が一人倒れてるわけだし、あんま、楽しいとか言うものじゃないですよね」


 須藤が、やれやれとでも言いたげに手のひらを上に向けた。

「あれを楽しいと思うのがまず驚きなんですが、そこはこの際置いておきます」

ミズキの襟を離す。ミズキは解放された身体をだるそうに立たせた。

「あなたが楽しいなら、それでいいと思います。あまり、自分を抑圧しないでいいんですよ。ストレスをため込むと、精神体によくない影響を与えますから」

 よく分かっていなさそうなミズキに、理由を教えていく。

「超能力は質量保存やエネルギー総和が同じになる法則を超越します。だからといって、力をいくら使っても平気だということにはならない」

須藤が、自らの胸を指の先で叩いた。

「使えば使った分だけ、精神力が減り疲れる。さらに、使った力の、その強さの分だけ精神体が傷ついていく。そういうものです。等価交換にはなっていないようですが、支払うものは支払っているんです。というわけで、無駄に精神を傷つけないためにも、深刻になりすぎるのは禁物ですよ」

 分かったような分からないような、そんな説明だった。ミズキはそれでも「はい」と言っておいた。

「分かったならいいんです。まあ、衣笠さんのような考えなしもそれはそれで困ったものですが」

「おい!」

自分を引き合いに出された衣笠は立腹し、須藤の頭部に手を向けなにやら一撃を与えた。須藤はすこん、となにかが当たった頭部をさすり、衣笠をじとーっと見る。

「やめてくださいよ。後輩の前でみっともないとか思わないんですか」

「私に許可も取らず例に挙げるやつがそれを言うか!」

「立花くん、ああいう感情に任せて力を振るうような人間になったら駄目ですよ。正当な理由があるならともかく、ねえ」

「話を聞かんか!」

 もう一撃お見舞いしたようだったが、当たる前に須藤が上空に手をかざすと、「なにか」握りつぶした。衣笠が「ぐぬぬ」と歯噛みする。

 その様子を横で見ていたミズキはすっかりおびえていた。須藤が気づくと、恥ずかしそうに目をそらす。

「あ。……いやあ、その、立花くんはこんなみみっちいことでケンカするような人になったら駄目ですよ、はい」

「説得力があるんだか分からんな」

 衣笠と目を合わせると、バチバチと火花を散らす。比喩ではなく、実際に空気がバチバチ言ってミズキは縮こまった。

 この二人、仲がいいわけじゃないのか? ケンカするほど仲がいい、とも言うけど。それを言ったらめっちゃ怒りそうだよなあ。

 

 その日の訓練はそこで「そろそろ帰りましょう」とミズキが言い出しお開きになった。高校生二人もミズキの提案でやっと矛を納めると、無言で扉から出ていった。

 ミズキの部屋の前で、帰り際須藤が「そうだ」と言い出した。

「聞きそびれましたけど、身体の方は大丈夫ですか? いくらすぐに修復するといったって、限度があるでしょう」

「そう言われると、関節の方がまだ少しびきびき言ってるような」

「ええ!?」

「ああ、でも、平気ですよ。すぐ直りますから」

 笑顔でそう言われると、須藤は引き下がるしかなかった。

「それじゃ、明日もよろしくお願いします」

「それは構いませんが」

なにか言い足そうとしていたが、須藤は取りやめた。ミズキは須藤の後ろに居た衣笠にも声をかける。

「衣笠さんも、また明日」

「おう」

 愛想のない言い方にミズキはきょとんとしたが、こんなものかと思い直して「じゃあ」と扉を閉めた。


 扉を閉めると、扉から離れていく足音が小さくなっていった。ミズキが机に向かおうとすると、脳内に金属音が反響する。手で頭を押さえると、だんだんと音が形をもち始めた。

「衣笠さん、さっきから機嫌が悪いですね。言っておきますけど、僕は謝りませんよ」

「とことん性格が悪い男だな、というか、別に、お前は関係ない。お前とかどうでもいいんだ、問題はそっちじゃない」

「はいはいそうですか、じゃあ理由を言ってみてくださいよ」

 衣笠と須藤の声だった。ミズキが、止めようとして頭をぽんぽん叩いてみるが、盗聴が止まる様子はない。

 というかこの人たちは自分が居ないところだとこんなに険悪なのか。今日が特別なだけなのか?

 ミズキは悩みつつ、そのまま会話を聞いていく。

「私はなぜ、組み手のとき立花くんに指名されなかったんだ、なぜなんだろう」

「ああ、そっちですか」

「むむむ……須藤より弱いと思われたのかな」

「そこらへんの事実関係についてはなにも言いませんけど、理由はそういうものじゃないと思いますよ」

「なに?」

「彼はあなたに遠慮したんだと思います」

 ミズキは、どうもこうもズレている衣笠の言うことに頭を抱えていたので、そこで思わずうんうんと頷いた。

「遠慮? なにを遠慮する必要がある、学年は一つしか違わないし、身分はバイトだし。正々堂々と勝負するのになにを気兼ねする必要があるんだ?」

 そこで須藤のものと思われるため息が聞こえてきた。

「いや、それはちょっと、違うんじゃないですかね」

「なんなんだ一体。いいからはっきりしろ」

「僕が思うに、……あなたは女性ですからね。そりゃ、遠慮もされると思いますよ」

 「は!?」と衣笠が叫ぶ、ミズキはなんだかイヤな気配が背後に迫っている気がして、恐る恐る振り向いた。なにもなかったが、それでも寒気はしていた。

「僕はあなたのことをまっとうな女性だとは思えないのでよく分からないんですけど、たぶんそうでしょう」

「お、おま、お前な! いやお前になにか言うのは後にしておいてやる! それでだな、そんな、なんで瑞樹くんは男じゃないと駄目なんだ!?」

「その言い方はちょっと、いや、大いに語弊があると思うんですが」

「うるさいぞ! なんでだ! 男同士でいちゃいちゃするのが趣味だというのか!」

「だからそういう悪意のある言い方はちょっと」

「ああもう!! 私じゃあ駄目なのかっ!? 私だって瑞樹くんとビシバシわいわいやりたかったのにー!」

 涙声になっている。ミズキは無言で自分の頭をべしべし叩き、早く能力が切れてくれるようにと祈っていた。が、祈りむなしく能力はなかなか切れない。

 須藤は須藤で先ほどの発言を趣味の悪い方向に解釈したらしく、怪訝な声になった。

「ビシバシって、衣笠さんってそういう趣味があったんですか?」

「ちがーう! なんだ、なんなんだ、男だけでつるんで楽しそうにやって、私をのけ者にするなんて……。おい、瑞樹くん! 聞こえてるんだろう! おい、返事は!」

 すさまじい剣幕で押され、ミズキはしらばっくれたほうがいいと分かってはいても「は、はひぃ」と震える声で言ってしまった。

「私も混ぜろ! 二人だけでやるなんて許さん、それともなにか、須藤の方がいいのか? 女と仲良くやるなんて軟弱だから嫌なのか!」

「あーあー聞こえません、聞こえてません、俺はなにも聞いてません!」

 ミズキは耳をふさいで首をぶんぶん振った。が、遅きに失していた。

「こーらー!! 私は分かってるんだからな!」

 そこで、「ふぎゃ!」と声があがった。

「おい、なにをする、止めろ須藤! 襟を引っ張るんじゃない、お前のバカ力で引っ張ったら生地が、ぬわっ!!」

「ええっと、僕は平時の場合感知能力が鈍いので分からないんですが、どうも聞こえてるようですね?」

 扉の向こうでなにが起こっているのか把握したくない。ミズキは心底そう思いつつ、須藤の声に耳をすませた。

「とりあえず今日のところは衣笠さんを引きずってでも帰します。明日は、ええー、覚悟しておいてください。僕でもずーっとこの人押さえ込むのは難儀なので」

そこで切って、息を吸い込む。

「明日からこの人の気が済むまで遊んであげてください、切実にお願いします。そうしないとこの人暴れ回りそうで怖いし、とにかく、そういうことです。それでは」

 能力はそこで切れた。ぶつん、と音を立て無音の室内に取り残される。どっと疲れたミズキはその場にへたりこんだ。 


 そんなことがあって、ミズキは衣笠のストレス発散に付き合わされるようになった。須藤が横から止めることもあったし、衣笠とじゃんけんをしてどちらが相手をするか決めるときもあった。

 衣笠が不機嫌になると本来の趣旨を忘れたかのように須藤に蹴りを入れようとする場面もあったが、須藤は蹴られても平気な顔をしていた。ミズキは須藤が背中を蹴られる際、明らかに人間の体からは発せられないであろう金物のような音がしたので、チタンプレートでも仕込んでいるんじゃないかと疑った。

 だったら衣笠さんの足を心配した方がいいのかなあ。いや、須藤さんが仕込んでるのを知ってて蹴ってるんだろうし、なにも言わなくていいよな。言ったら面倒そうだし、いいか。いいよな。

 そうやっているうちに、さらに一週間経っていた。そう、番匠茉莉が毒を浴びてから三週間経っている。


 一週間後がデッドラインだ。それを分かっているから、ミズキは自分を奮い立たせ須藤に声をかける。

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