表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

顔が恐いって、それだけで身が竦むよね!

 希望が見えたミズキは、その方法を聞こうとしたが、ためらいがちになった。

「あの」

「なんだね」

「俺は危ないんでしょう。その、抑え方を覚えるっていっても、この部屋でやるんでしょうか」

 ミズキの問いに、今まで黙って壁に背もたれていた男、須藤が口を開く。

「いえ。外にトレーニングルームがいくつかあります。いつでも大抵一つは開いていますから、そこでやりましょう」

「え、でも、俺は」

 ミズキは続きを言えなかった。外に出るなんて危険すぎるんじゃないか。その懸念を笑い飛ばすように須藤がミズキを見る。

「おかしいと思いませんでしたか?」

「な、なんのことですか」

「僕たちが防護服を着ていない理由です」

須藤は目を閉じ、にこりとした。

「僕たちは感染可能性がないからです。感染したとしても、どうにか「直す」手段があります。ほかの人間への影響もまず防げます。ですから、僕と彼女が監督をする限りこの支部で文句を言える人間は居ないわけです」

 須藤はついでのように付け足した。

「君が気絶でもして念動が暴走したとしても、僕たちなら抑えられますしね」

 「あっはっは」となにがおかしいのか陽気に笑う須藤にミズキは面食らった。救いの手であるはずなのに、ただでは済まないような予感が、ミズキの背中を押していた。


 部屋を出て、トレーニングルームに向かう。廊下は掲示物もなく殺風景で、長時間人が居るような場所ではなさそうだった。

「ここは隔離棟なので少し歩きますが、ついてきてください」

さらっと言われた「隔離棟」という単語に眉をひそめつつ、ミズキは後ろを歩く。

 隣の棟に行くまでの間、他の人間とすれ違うこともあった。例外なくミズキを注視したが、隣にいる二人を見るとすぐに目をそらした。

 よっぽど偉いらしい。どう見てもただの高校生なんだけどな。エリート校ではあるみたいだけど。

 ミズキの違和感をよそに、一行はトレーニングルーム、表札には「調整技術室」と書かれている部屋にたどり着いた。

 

 部屋の扉が水平に開くと、廊下より照明が暗い室内に入る前、ミズキが目を半分閉じて立ち止まる。二人がすたすた先を行くのでミズキは立ち止まった足を動かした。

 室内は10メートル四方のこぢんまりとした造りだった。ロッカーはあるが、その他の家具などは用意されていない。

 須藤は部屋の隅にあるロッカーから荷物を取り出した。中身は皮が均一に色づいた林檎だった。

「そんなものをここに入れていたのか? うっかり腐らせたらどうするつもりだったんだ」

 衣笠が非難の色を含めて言うが、須藤は気にもしていないようだ。

「今日買ってきたものが即腐るような実験は行われてませんよ。少なくともこの部屋では」

 須藤はミズキに向き直ると、こほんと咳払いした。

「映像を見る限り、あなたは念動を実用レベルで出力出来るはずです。ただそれは制御可能かどうかという問題をさしおいての話で、つまるところコントロール出来ればいいわけです」

須藤はしゃべりながら、林檎を手の中で回す。林檎は指で押されているわけではなく、ひとりでに回っているように見える。ミズキにはそれが風のような力に押されているのを感知した。映像で念動を見たときのように視覚で分かったわけではないが、とにかくそこで力が働いていることだけは分かった。

「とりあえずということで、こんなものを用意したということです」

 隣の衣笠が林檎を見つめている。

「食べ物を使うというのは、もったいないんじゃないか」

「安心してください。うっかりつぶれたときのために移しかえる容器だって準備してあります」

 どこからか用意したプラスチック製の保存容器を衣笠に見せ、万全であることをアピールしている。

「無駄に、というのはなんだが用意がいい奴だな」

 衣笠はミズキの方を見ると、指だけで林檎を指した。

「というわけらしいぞ」

「ええ?」

「この林檎を、須藤の手から君の手まで引き寄せてくれたまえ。ただし、君はそこから一歩も動いてはいけない。もちろん須藤が近づいてもだめだ。おい須藤、こういうことなんだろう」

「だいたいそれで構いません。そういうことなので、やっちゃって下さい」

 話の流れが分からないミズキは困惑した。

「はあ、その、さっぱり分からないんですが」

「超常能力操作の初期段階、その練習です」

 須藤が目を閉じて、下瞼を上げて笑う。

「超能力を使う練習ということです。動かすイメージが沸かなければ、そうですね。見えない透明な手を伸ばす……でもなんでも構わないから、とにかくあなたの手に林檎を取ることを想像してみていください」

「……それ、ええと、毒がどうこうと関係があるんですか」

「あります。大いにあります。生体力場、じゃない、生体内の操作でもなんでも、基本はただの念動力です。すべての超能力はただの念動が基盤になっていますから、こうやって地道に念動を操る能力を上げることで他の能力も制御しやすくなるんです」

 須藤の言うことは半分ほどしか分からなかったが、この練習に意味があることは分かった。ミズキは、それなら、とやる気を出す。

「じゃあ、や、やってみます」

 

 やってみます、と手を構えてみたはいいものの、林檎はさっぱりと動かなかった。

「焦らないで下さい、出来ますから、集中です、集中」

「がんばれ! 林檎を握りつぶすぐらいの勢いでいくんだ!」

「衣笠さんはちょっと黙ってて下さい」

「なにを!?」

 だめだ。どういうノリか分からない。

 目の前で応援なのかなにがしたいのか不明瞭なコントが始まったことに力が抜けそうになる。それでもミズキは目の前の林檎に集中した。

 林檎がかたかたと揺れる。須藤が動かした様子はない。須藤が頬の表情筋をぴくりと動かす。衣笠も、「お」と声を出した。

「その調子だ。なんだ、私の応援もちゃんと効いたじゃないか」

「立花くんはスジがいいみたいですね。長丁場も覚悟してたんですが」

「無視か、おい!」

 須藤は横の衣笠を意に介さずミズキに向かって笑った。

 そういや立花さんって、俺の名前は知ってるんだな。いや、それぐらいは当たり前か。ここの職員なんだろうから。

 そう思い、高校生がこんなに偉いっていったい全体どんな組織なんだろうとミズキの頭にもやがかかる。

 もやは念動の向く先を惑わせる。コントロールが狂う。

 林檎は浮いた。が、ミズキとは反対方向に向かってふらふらと飛び立ち始めた。そのうち高度が落ち始め、危うく落ちそうになる。

「おっと」

 衣笠が手をかざすと、林檎の動きが止まった。ミズキの頭の中に、林檎を取られたイメージが入ってくる。

「さすがに方角まではまだ早いか、動かせただけで上出来だがな。ところでっ」

「は、はい?」

 急に話題をふられ、ミズキは緊張する。

「須藤はああ言うが、応援というのはやはり効くものだな。君もそう思うだろう?」

期待に満ちた瞳に、ミズキはうんともすんとも言えず濁した。

「はい、まあ」

「そうか!」

 ぱっと明るい表情を見せる衣笠に、須藤もミズキも苦い顔になる。

 そこで、ミズキの体の軸が傾いた。念動を使う代償が体の活力を奪う。ミズキは地面に手をついて体を支えようとしたが、その手は宙に浮いたまま所在なさげにぷらぷらしている。

 ミズキの体が、なにかによって支えられていた。ミズキはクッションに身を寝かせているように感じ、体を自力で立たせる。振り返るが、その空間にはなにもないように見えた。

「ええ、と。すいません。あの、どちらの方が」

「私だ。驚くと思ったんだが、君は状況の理解も早いんだな」

 衣笠が自分の胸部をとんとんと手で叩く。

 ミズキはその様子に、自分との力の差を感じた。なにをされたのかまでは分からないが、こんなに自然な支え方が出来る時点で力の使い方がよほどうまいのだろうと思い知る。


 ミズキが感心していると、トレーニングルームのロックが開いた。

 須藤が扉の方に向いた。

「すいません、今日は貸し切りです。って」

 須藤が目を開いた。ミズキが扉の向こう側を見ると、見知らぬ若い男がいた。

 明るい茶髪の短髪をワックスで乱雑に逆立てて、耳には何連かのピアスが付けてある。これだけならそう珍しくもないファッションだが、この男はその目つきが特徴的だった。

 目が白い……白目しかねえ!? いやっよく見たら黒目もある、あるけど、ほとんど白い! ついでにメチャクチャツリ目! 禍々しい! や、やべえ、目ぇ合ったらシメられそうだ。怖い! 激烈に怖い!

 外見だけで人を判断してはいけないという常識は備えているミズキだったが、引いていた。それほどの凶相だった。よく見れば輪郭は細く鼻筋も凛と通っており目以外のパーツは整っているようだったが、そんなことに気づける余裕はなかった。

「ああん? あー、貸し切りか、そういやそんなことも言ってたっけな。ん? おい、後ろのボーズはなんだ? ……ああ!?」

 自分のほうに向かって叫ばれ、ミズキが「はい?!」と脊髄反射で応答する。それと同時にミズキは、この凶相の男の声に聞き覚えがあることを思い出した。

 この、人。あの、オレンジのステッカーの人だ、あのとき、マツリって人と、いっしょにあそこにいて、そのとき俺に会っている。俺の顔を知っている。

 ミズキの全身が冷えて固まる。

「おい、なんでそこにそいつがいる?」

 須藤が目のあたりの筋を強ばらせた。

「いや、何でと言われましても。番匠さんに言えることではないと言いますか」

「いいから言え」

 鋭い眼光で男が凄む。須藤は観念した。

「トレーニングですよ。力の使い方を教えているんです」

「はあ、おめえらが? っけ、高位ハイクラスのくせいにヒマしてんだなッ」

 衣笠がそれを聞き、ぴくっと動いた。

「聞き捨てなりませんね、私たちは私たちでやることがあるんです。というか! 私たちは学生なんです! 高位だろうがなんだろうが、なんでも仕事を押しつけられたりしません、選べるんです、正式な職員とは違うんですっ」

 衣笠が男を指さした。年上の男に対する態度としてはかなり恐れ知らずに見えたが、男はそれに対して軽い舌打ちで返すにとどめた。

 男がこちらの三人を一回一回品定めするように見てくる。ミズキは須藤の背後に隠れたくて仕方がなかったが、そうした結果どうなるか分かるような気がしたので実行に移せなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ