サッカ―より愛を込めて
失敗したな
病院のベッドの上でそう思った
フットサルをやった帰り道
歩道を一人で歩いていると
脇道から幼児が道路に向かって飛び出してきた
丁度、走っている車の少し前
このままだと轢かれる
そう思ったら身体が動いていた
抱えて反対側の歩道へ!
そう思ったところ右足だけが残った
車にぶつかった
足に衝撃が走る
くるぶしのヘンが結構痛い
痛みで動けないでいると、誰かが呼んだ救急車で運ばれた
病院で検査を受けたところ
結構痛いのでヤバイかもって思っていたけど、なんとか大丈夫そうだって医者が言った
リハビリすれば日常生活は大丈夫
足も引き摺ったりはしない
でも関節へのダメージが大きいので、治ったとしても全力で走るのは無理でしょう
交通事故でこの程度ならキセキに近いですよ
医者はそう言った
そうかもしれないけどもう二度とフットサルができないのか・・・
社会人になって運動不足から肥ってしまった
一日中、PCの前に座ってれば当然です
困っていたら会社の人に誘われたのでフットサルをやってみた
結構楽しいもんです
お試しの1回のつもりでしたが、どっぷりはまりました
毎朝走って体力作り
昼休みはリフティングして遊ぶ
週二回、会社帰りに仲間とコートを借りてやるようになった
サッカーとかには今まで興味なかったけどやってみると楽しいものだ
でももうできないのか
飛び出した幼児の親は気の毒なくらいペコペコと頭を下げていた
治療費も全額負担しますから!
子供の命の恩人ですからと言って、毎日見舞いに来た上、世話をしてくれる
医者も看護師も「凄ことをしましたね」と褒めてくれる
会社のフットサル仲間も来てくれる
でも心に空いた穴は全然埋まらない
病院の窓からときどき飛び降りたくなる
つらい毎日を送っていたら、ある日、10歳の子供に戻っていた
正確には心だけが過去の世界の身体に宿っていた、ですね
見たことのある子供部屋
黒いランドセル
教科書とおもちゃが山積みの勉強机
ベッドのカバーは子供用の青地に動物の柄
教科書の名前を見て見る
4年2組 木下廉
10歳の小学4年生だった
しかし、子供のころのオレ、字が下手すぎ・・・
階段を下りて食堂へ行く
おおっ、おかあさん若い!
「おはよう」
挨拶をすると驚かれた
「起こす前に起きるなんて・・・今日は雨ね」
何気にヒドイ
それでも実の母親かよ!
「何回起こしても起きないし、ギリギリに起きたかと思えばパンに目玉焼きとハムをはさんで学校に行きながら食べるし・・・」
すみません、オレが悪かったです
しかしそんなことしてたんだ、昔のオレ
すっかり忘れていたよ
てっきりお利口さんだとばかり思っていた 【作者注:みんなそんなものである】
「そう言えば部活はどうするの?」
朝食を食べてるとおかあさんが聞いてきました
「あ?(口の中にごはんが入ってます)」
「んもう忘れたの?昨日学校からプリント貰ってきていたでしょ?部活に入るなら名前を書いてハンコを押して出してって」
そうだっけ?
昨日のオレは、今のオレではないのだからわからんよ
「野球かサッカーかバスケのどれかよね?それともやらない」
「やるやる!サッカー!」
サッカーができるなんて! 【作者注:昔はフットサルがなかったよ】
子供になって良かったーーーーっ
部活に入ったらダメダメでした
身体が小さくなっていますからね
一から鍛え直しです
朝おきて軽く柔軟をする
その後ボールを足もとで転がす
夕方は部活が終わった後にリフティング
元に戻るまでが大変でした
でも結構うまくなりました
子供だから大人ほど筋力がないのでシュートはイマイチですが、他は大丈夫です
部活の紅白戦で必殺のレーザービームシュート(笑)をしたら勝っちゃいました
レーザー~、は大人の頃に開発した技です
一直線にボールが進むシュートです
普通に蹴ると多少山なりの軌道でボールが動きます
でもレーザー~は、なんでか知らないけど、本当にまっすぐ進むんです
おかげさまで、大人の頃のフットサルの試合では、結構勝てました
えっ、パスで廻すのがセオリー?
そりゃドリブルとはスピードが違うので否定はしないです
でもドリブルで抜きまくる
そしてレーザー~が私の必勝パターンです
その方がボールに一杯触れて楽しいですから! 【ただのボールふぇちです!】
それに小学生なので個人技主体でも結構通ります
紅白戦、5人抜きでゴールは楽勝です
しかし、相手チームにキャプテンの柴田さんがいたことからイジメが始まりました
監督がいないところではイチャモンをつけられました
取り巻き達に囲まれて突き飛ばされました
監督に言ったのですが、その後、「言い付けた!」とさらにイジメられました
なんか大人のころの会社のイジメを彷彿させますね
ネチネチと小さいことの積み重ねで精神的にダメージを与えられました
ある日、<プチッ>と何かが切れました
イジメグループ以外の部員をまとめあげます
みんな、多少にかかわらず被害を受けていたので楽勝でした
元アラフォーを舐めるなよ!、です
さあ楽しい反撃の時間の始まりです
「応援したらどうだ!」
他校との練習試合で味方の応援をベンチにいる全員でしなかったら監督が怒りだしました
「なぜですか?」
オレは冷静に聞いてみました
「チームメイトだろ!」
熱血ですね
さすが監督
でも言うことを聞くわけにはいきません
「監督が見えないところでイチャモンつけてくるヤツがチームメイトですか?
自分よりも目立ったヤツを気にくわないからって大勢でいじめるやつが仲間ですか?
そんなことも知らないくせに、イジメが続いていることを知ってても怒りもしないくせに、
何言っているんですか?
ココにいる全員、キャプテンとその仲間のイジメの被害者ですよ
やることやってから大口たたいてくださいね」
「・・・」
あれっ黙っちゃいました
ポーカーン
そんな感じです
監督が再起動しないのでこちらのターンでいいですかね
「おーい、柴田ーーーっ、こっち来い」
試合中のジャイアンを呼びます
「あっみなさんは試合続けてくださいね」
そう言っておきます
でも言われてそのまま続ける人はいませんでした
声かけられたら関係者かも、そう思っちゃうんでしょう
だからジャイアンの後をゾロゾロついてきます
予定通りです
すでに勝利へのタクティクスは完成しているぜ!(笑) 【某王様風に読んでね!】
こっちにきたジャイアンに向かって言う
「もうイジメがバレちゃいました、監督が怒ってますよ?
あっそうそう校舎裏に呼び出して蹴りまくってくれましたのね?」
「そんなことしてないだろっ!うそつくなっ!」
うまく怒鳴ってくれました
蹴られたってのはウソです
でも怒ってくれた方がやりやすいですからね(二ヤリ) 【作者注:あんた鬼や!】
「校舎裏に呼び出したのも、みんなで取り囲んでいじめたのも、ウソですか?」
「・・・(くっ)」
さすがに白は切れません
まあ小学生ですからね
会社の上司だったらウソ八百で切り抜けてましたよ?
「ほら、監督、イジメを認めたようですよ?怒ってくださいよ?
それとも怒らないんですか?
チームメイトだから応援しろっていうなら、しっかりケジメつけてくださいよ?
それともヒイキですか?
偉そうなこと言っておきながらそれはないんじゃないですか?」
まわりに相手チームの選手や監督が集まってきてイジメの告白?糾弾?を聞いてます
ここまできたらナアナアや、隠ぺいは不可能ですよね(にやり)
マンガだったら監督とジャイアンは汗ダラダラでしょう
「・・・ごめんなさい」
周りからのクズを見るような圧力に耐え切れずジャイアンが謝りました
「だそうですよ?監督
まさかイジメをしておいて謝ったらすべてチャラとか言いませんよね?
しっかり罰を与えて下さいね?
きっちりしないと応援できませんよ?
あっそうそう部員の皆は今日のことを家に帰ったら親に話すと思いますよ?
明日にはPTAの全員が知っていると思いますよ?
下手打つと教師生活が終わっちゃうんじゃないんですかね?」
小学生なのに大人なみ
コナン君ならアニメなので許されます
でも実際にやられると不気味さ300%です
大人以上に廻る口
逃げ道を塞いで論破する悪魔のような頭脳
一片の情けもない冷酷さ
周りの人間をいつのまにか観客にする手際の良さ
全員、ドン引きです
こいつを敵に回すとヤバイ!
そんな感覚が全員をつつみました
例えて言うなら、ストーカーのムチャ理論?
アイドルを襲撃した犯人のトンデモ発言を聞いているようなもの?
でしょうか?
後日、予定通り、ジャイアントそのとりまきは部活を辞めました
完全勝利です!
これで楽しくサッカ―ができるようになりました
他の部員も喜んでくれました
でも監督だけでなく、他の先生達もオレを腫れもの扱いするようになりました
正義を貫いただけなのに、なぜっ!?