モラトリアム上司
あの人はいつもそうだ。自分の言った命令をあやふやにする。昨日までこの方法でいいと言ったクセに、今日になって気に喰わないと改善命令をくだす。
改善も効率いいやり方だったし、上司から許可をもらっていた。しかしダメだとヤツは言い、効率の悪い方法でやるように指示を出す。なかなか作業が進まない。
「なんで、そんなやり方やってんだよ。この前このやり方でやれって言っただろうが!!」
物凄く機嫌悪そうな表情と怒鳴り散らすような声。上司が駄々をこねる子供のように見える。
ここまで機嫌が悪いのは進捗が遅いのに加えて、さっき課長に怒られていたからでもある。八つ当たりなのだろうか、勘弁してほしい。
「さっき、このやり方でやれと言いましたよね?」
「言ってねーよ!! 今言った方法でやれ!!」
そう言って上司はその場を立ち去る。
あの人は子どもだ。いつもちゃんとした選択で指示ができていない。言ったことを覚えてないのか、気分でやっているのかわからないが……それで職場の部下は迷惑しているのは確かだ。なのに、なぜあの人は上に立てるのか不思議で堪らない。
まぁ、まだ今のはいい方で。時には手を出したりしているからタチが悪い。
正直会社に行きたくない。仕事に希望が見出だせない。そんな事思いながら、与えられた仕事をしなければならない。
定年までこのままなのか……いや、それはダメだ。
俺はモラトリアムに日々を過ごしている。嫌だと思いながらも何もしないままイタズラに時間が過ぎていく。俺はモラトリアム部下なのかもしれない。
今が嫌なら自分で変えるしかない。嫌ならこの仕事を辞めるのもありだろう。選択肢はゼロじゃない、未来はあるのだから絶望してちゃ駄目だ。
アイツがイヤなら言うべきだ。今ならそう離れてない。
「気分で命令を変えてんじゃねーよ。お前の気分なんか誰もわからねぇし理解できるワケがねぇ。第一、俺らの気分も察しないのならアンタのことなんか知ったこっちゃねーよ」
「あぁ? 言葉には気を付けろよキサマ。オレの言うこと聞いとけば良いんだよ!! お前らなんか知らん!!」
「はぁ?! 悪いけど俺達はお前の奴隷じゃねーよ!! 部下のことをわかろうとしないで、自分ら上の人間を理解しろというのはおかしいだろ!!」
上司は暫く黙りこんだかと思えば、俺の胸ぐらを掴んだ。
「うるせぇ!! 逆ギレするんじゃねーよ。下っぱで仕事もたいしてできんクセに。ここで仕事出来なくするぞっ!!」
その発言に俺はこう言い返した。
「どうぞ。この会社の評価とか色々どうでもイイのでお好きにどうぞ。それに逆ギレしてるのはアナタですよね。子供のように八つ当たりして、楽しいですか?」
このやり取りに周りの人間は止めに来ないのか。どこまで腐っているんだよ、上も下も。
「もういい!! てめぇの好きなようにしろ」
上司がそう言ったから、俺はこう答えた。
「じゃあ、会社辞めます。ありがとうございました」
当日退職してやった。
人間的に死んでいるあの会社に未練はない。
そして、半年後。
「いらっしゃいませ!!」
俺は起業した。セミナーに行き色々なノウハウを学び、小さな喫茶店を開店させた。
大変だが、充実した毎日を過ごしている。売上はそこまである訳ではない。だから自分で工夫してどうにか店を経営出来ている。
ちなみに前いた会社はまだ存続しているようで。あの上司は相変わらず、駄々っ子のようだ。
この度はモラトリアム上司を読んで頂きありがとうございます。
実際にあったことを軸にこの作品を書きました。
今回はここまでです。次回また自分の作品を読んで頂くと嬉しいです。
ありがとうございました!!