演習場で
つたない文章ですが宜しくお願いします。出来れば後学の為に至らぬ点をご指摘ください。
もう古い話になる。確か俺が小学校も低学年だった頃の話だ。
俺の学校の裏手は自衛隊の演習場と繋がっていた。その演習場は、まぁ原生林。雑木林じゃない。原生林だ。一応緑色のフェンスは張ってあったんだが、当然のこと穴が開いていた。誰かが悪戯で破ったのだろう。学校の先生もその穴のことを知っていた。当然自衛隊の人も知っていたに違いない。だけど穴は何年間もそのまま。……そんなおおらかな時代だったんだ。
だから俺達は毎日のように学校の裏山を駆けずり回って遊んだ。正に遊び放題だった。
秘密基地も作った。カタツムリ型の塹壕に枯れ草を被せたようなものだ。塹壕はたぶん自衛隊の人が掘ったものだと思う。今思えば、あれは蛸壺だったのだろう。
俺達はその中には俺達自身の戦利品、今ではガラクタとしか思えない物を集めては放り込んでいたものだ。ボロボロのエロ本、壊れたロボットのプラモデル、綺麗に輝くただの石ころ、その他もう色々だ。とにかく俺達の目に留まり、興味を引いたもの。その全てだ。
とはいえ。秘密基地が秘密でなくなるのは時間の問題だった。俺達と別のグループがあっという間に見つけて壊してくれたんだ。それこそ完膚無きほど叩き壊してくれたのを覚えている。俺は当然怒った。だけど子供の喧嘩だ。三日もすれば忘れる。だけど俺の友達……そうだな、仮に佐藤としよう。俺の友達の一人、佐藤の奴は諦めなかったんだ。どうしてだろうな? 佐藤は秘密基地にやけに拘っていた。まぁ、子供の考える事だ。理由なんてどうでもいいことだったのかもしれない。ただ、佐藤は俺よりガッツがあった。たぶんそうなんだと思う。
ともかく奴は俺達に声をかけ、もっと奥地の洞窟に秘密基地を作ろうと言った。
その佐藤の言葉に俺は迷ったのを覚えている。だってそこは、学校のチャイムも聞こえないほどの奥地だったから。その上周りは鬱蒼とした密林だ。言ってなかったが、その自衛隊の演習場と言うのは旧軍の頃からの演習場で、とても広い上に地図さえまともにないんだ。これは本当だ。今現在その位置を見ても良い。今も池の数が違う。位置も違う。……冗談だと思うだろう? だけどそうじゃないんだ。今だから知っているが、演習場の最奥にはパトリオット地対空ミサイルシステムを装備したレーダー基地があるんだ。その建物は演習場からは少し外れた外周に有るが、ぶっちゃけ『この先に立ち入る者は生命の保証をしません』これに似た事が書いてある建物だ。まだ幼かった俺達は、そんな物騒な場所で遊んでいたんだ。今思えば笑える話さ。
そして。
俺達はその佐藤の誘いに乗り、また夢中で秘密基地を作った。そう、佐藤の話に乗ったんだ。新たな秘密基地の近くには先端が輪になったロープなんて有る意味不吉で不気味な物も木からぶら下がっていたものだが、そのときの俺達には関係ないものだった。雷魚や白蛇が住むと言う池の近くの洞窟だ。そういえば小さい祠もあったかもしれない。覚えていないな。
ある日の事だ。俺達が秘密基地で遊んでいると白い煙がそう深くもない洞窟内に立ち込めてくるじゃないか。俺達は急いで逃げ出した。蛇めいた白い煙に咽ながら。外から笑い声が聞こえていたのを覚えている。忘れもしない。今回ばかりはタチの悪い悪戯をしてくれた対立グループの奴らだった。俺達は奴らを口汚く罵ったものだ。とにかく俺達は外に出た。だけどそのときの事だ。これだけは忘れない。洞窟から這い出ようとした俺達に向かって奴らは小便をかけやがった。今でもその事には腹が立つけど、全く色々な意味で汚い奴らだったよ。
だけど問題はそこじゃない。俺達は何とか洞窟から這い出た。ただ、一人足りない。佐藤だけが見当たらなかったんだ。今まで一緒に遊んでいた佐藤だ。俺達はまだ少し煙る狭い洞窟内を探したよ。当然周囲も探した。声の限り呼びかけた。だけど見つからない。佐藤が出て来ないんだ。佐藤の奴が消えていた。さっきも言ったように深い洞窟じゃない。悪ガキどもも洞窟の外で軽い焚き火──軽いと言うと少々語弊があるが──をやっただけだ。そんな変な事をやったわけでもない。ただ確かの事は佐藤が消えた。消えていたんだ。
もちろん大人に言った。流石の悪ガキどもも泣いていた。俺も泣いていたかもしれない。記憶があやふやなんだ。何せ、古い話だから。俺も相当親に怒られたのを覚えている。
山狩りがあったはずだ。だけど佐藤の奴はそれっきり出てこなかった。蒸発だ。行方不明。今でも佐藤がどうなったのかはわからない。それっきりだった。
それからまもなくだ。悪ガキどものリーダーの家が火事になった。リーダーは亡くなったよ。なんでも覚悟の一家心中だったらしい。四人一家皆、助からなかった。
そして。
俺はこの前の選挙のとき見たんだ。今でもそのフェンスに大きな穴が開いているを。但しフェンスは新しくなり、頑丈にはなっていた。銀色のフェンスになっていたんだ。あれからもう何十年だ。きっと予算が下りたのだろう。だけど、子供の考える事は今でも変わらないのか、その新しいフェンスにも穴が開いていた。そしてその穴の向こうには俺が幼かった昔と同じように、今でも獣道が延々と続いていて……。