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異世界―魔法―

「それでは北桐様。魔法の勉強を始めたいと思います」


 昨日の衝撃も吹き飛ぶほどに、俺は猛烈に興奮している。

 俺こと北桐荒祢は今! 人類のロマン、そう! 魔法に足を踏み入れている。

 思わず中学時代の心が蘇るようだ。



 魔法。

 現実に存在するならば、それはどれほど優れているのだろうか。


 例えば……そう!



 車も使わずに、仕事に行ける。そう! 飛んでいくのだ!

 エコであり経済的にも優しい。

 ………でも鳥にぶつかりそうで怖いな。


 次に、明かり!

 靴を探している時に明かりがない。そんな時、お金を燃やさなくていいのは勿論のこと懐中電灯もわざわざ使わなくて良い、ただ手をかざすだけで良いのだ。これは良い。

 ……スマホとかで補えそうだけども。


 …次は水。

 好きな時に水が飲める。暑い時には何時でも水風呂が張れるのだ。

 素晴らしい! 水道代なんてくそ食らえだ!


 …電気、良い。見た目的にもかっこいい。

 携帯も充電出来るし、電気代も屁の河童だ。

 ………携帯が壊れない程度に、調節出来るのかな。


 …火、火は良い。寒い時に温もれる。

 マッチの必要もない。

 ただ、ガスがないと色々きつそうだ。

 それに王女様の魔法を見てると、コンロに火をつけるどころか家に火がつきそうである。

 ……だいたいそこまでして燃やすものって無いな。


 …土。

 ……………………

 ………………農家とかなら



 …闇。

 ………………………………



 科学っ子の俺には魔法が現代で役に立つイメージが全然湧かない。

 エコと金銭面で優しいぐらいしか思い付かない上に、悪用者が出そうな気しかしない。


 そう考えてみると、科学は最早魔法を超えているのかもしれない。

 俺はその結論にひとまずの納得をしながら、説明中のエスターニャ様にもう一度最初から教えてくださいとお願いした。



▼▼▼▼▼



 それから、魔法について色々話を聞いたのだが手短に言うと、


・魔法は空気中に漂う魔力、通称魔素を集めることで発動する。

 魔素とは万能属性の物質らしくどの属性の魔法でも活用出来る。ただ、熱い場所では火魔法が、水の多い場所では水魔法が使いやすいという地形的なものもあるそうだ。


・魔素を早く、沢山集められるようにすることが魔法使いの目指すところらしいが、魔素を集めるのが得意だからといって魔法が早く強くなるという単純なものでもなく、発動までの過程が属性ごとに、更には魔法ごとにも違うために基本的に覚える魔法の属性は数を少なくした方が良い、という話だ。

 ただ、強い魔法使いは発動させた魔法をすぐに魔素に戻し、再利用することもできるらしい。


・魔法にも種類が沢山あり、生活魔法から攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、召還魔法、……等々多くのものがある。

 別に生活魔法だから生活にしか使えないというものでもなく、たとえば【ドライ】 という服や身体を乾かす生活魔法は魔素を大量に使えば相手を干からびさせるし、攻撃魔法寄りの束縛魔法の【ウォータ・プリズン】 とかは洗濯機のようにして身体を洗え、辺りを照らす【ライト】 という魔法を使わなくても攻撃魔法のファイアーで十分明るくも出来る。

 だからそういうカテゴリ通りに相手がするとは考えない方が良いという話だ。



 と、魔法についての大まかな話を要約するとこんな感じなんだが、王女様の話がやたらと長い事も相まってなかなか分かりにくい。

 そんな俺に気使うことも無く王女様は話を続ける。


・勇者の魔法は、魔法創造といい自在に魔法を創ることが出来る。

 しかし、相当の魔法知識が無ければ、よほど運が良くない限り矛盾が孕んで魔法は四散して魔素に戻るのだとかなんとか。


・魔法を使うのが得意なのはエルフであり、技術的なことは公国の人達に聞くのが一番良いらしい。


・魔素は結晶化すると魔結晶になり、希少性もあるので高値で売れる。

 俺を召喚した時は数百以上使ったらしく財政がちょっと傾いたそうだ。

 採取出来るのは鉱山の奥深く、まだ人が荒らしていない大自然の中だが、魔法使いを動員させると一か月に一個か二個ぐらいは人工で作れるらしい。純度は比べ物にならないレベルで低いのだとか。


 成る程成る程………というかメモはないのか?

 昨日のあれといい、脳の許容限界はとうに超えているのだが。



▼▼▼▼▼



 今日もなんと鍛練がなく、話を聞くだけで一日が終わった。

 あまりの魔法の多さに、まるで英語の辞書を最初から最後まで読み聞かせられているような気分だった。


 だが、これで俺も記念すべき魔法使いへの道を一歩、また一歩と進むことが出来たのだ、うむうむ。




「ホクトー様、お客様がお見えになりました」


 就寝につこうかと思ってた時、部屋の外に出ていたエーヴィンさんがそんなことを言ってくる。




(誰だ……? こんな時間なのに)


 今まで夜中に人が来たことは一度もない。というか、来るほど親しい人がいない。

 精々エーヴィンさんが部屋を覗くぐらいだったのに、誰が来たのだろうか。


 もしや、鍛錬場に二日も行かなかったから、爺さんかマークスさんのお迎えが来たのか。

 よし



「眠たいので明日にしてくださーい」


 そう返すと俺は毛布に包まれながら眠りの世界へと猛ダッシュする。

 羊が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10…「ホクトー様」


「うおっ!?」


 扉の外にいた筈のエーヴィンさんの声が耳元から聞こえる。こわっ。

 扉を開けた音はしないが、声が聞こえる。気配も感じる。傍にいるのは確実。こわぁ!


「お客様が来ていますが」

「寝てます」

「…………はぁ、分かりました」


 心底呆れたような声、だってしょうがない。

 こんな遅くに来る方がおかしいのだ。俺も疲れてるんだし寝る時間ぐらいは好きにさせてくれ。

 ダカラ、オレ、ワルクナイ。オレ、ネル。



「……ません、眠り……深いよう……また別の日で…」

「いえ…こんな時間……来て……………また………仕事頑……」

「はい………ハザマ様も…お気をつけ…」




 身なりよし、髪型よし、さてと。


「やぁやぁ、エーヴィンさん、喉が渇いてちょっと起きちゃいましたよ。…おや? そちらの方は?」



▼▼▼▼▼



「へっへっへぇ! スオウ・ハザマ様、汚ならしい部屋では御座いますが、どうぞおくつろぎください! あっ! 僕は汚い床に座っ「ちゃんと掃除していますが」床より汚い僕なんて気にせず、椅子におかけください!」

「あ、あはは……、そんなに気を使わなくても大丈夫だからね? それと、ボクのことはスオウでいいよ」


 彼女には魔法というロマンよりも、胸を躍らせる何かがあるらしい。


 眠気と鬱気味な空気が充満していた脳内も、今はカーニバル状態。紙吹雪は舞い、フウチョウのようにダンスを踊りたい気分と言っても差し支えはない。


 そんな態度の入れ替わりように、エーヴィンさんからは何だこいつはという視線を向けられる。というか、結構スオウ様も引き気味である。


「でも、良かったよ。昨日友達と一緒にここに来たんだけど、寝込んでるからって部屋に入れなかったんだ。今日こそ会いたいと思ってたけど勉強も邪魔したら悪いしさ…、会えて嬉しいよホクトウ」

「こちらこそです! あっ、僕のことは気軽に荒祢と呼んでください!」

「ふふっ、変わってるね。君、いやアラネは」


 彼女は微笑みながら手を差し出す。


「アラネ、これからも大変だろうけどよろしくね」

「…あ、あぁ、こちらこそよろしく」





 握り返すと、温かみのある柔らかい手。


 朗らかな笑顔を直視した時、俺の鼓動はビートを細かく刻み、春の訪れを告げた。


 荒み切った俺の心に温かな風をもたらすように。



 親父、お袋、あんた達の息子は異世界の少女に恋をしてしまったそうです。

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