異世界―ご対面―
「こちらの方々が貴方のお相手となる者達です。………北桐様?」
俺こと北桐荒袮はエスターニャ様に連れられた部屋で数十以上の色々な者と対面している。
色々な者とは言っても人間っぽい人や明らかに人ではない者、窓の外で羽ばたいている何かと種々様々であるが、一つだけ共通しているものがある。
全員が女性的な服装、ドレスやアクセサリーをしているということだろう。
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「数も多いため簡易に紹介しますね。まずは私の妹、次女と三女ですね。次女があちらにいるジル・グランディオス、隣が三女がハンナ・グランディオス。グランディオス王国の王女であり私の妹ですので、是非とも忘れないでくださると私も嬉しいです」
次女のジル様は、エスターニャ様と雰囲気は似ており髪を灰色にした大柄な体格の人。垂れ目気味の目元に、微笑む口元は彼女の大きさも相まって包容力を感じさせる。
三女のハンナ様は、エスターニャ様に似ているが、目を吊り上げてちんまりさせた感じだ。純白の髪はかなり長くポニーテールにして束ねているが、かなりもっさりしている。まるでモップ。
俺を一瞥すると、興味がないとでも言いたげにモップを揺らしながらジル様の後ろに下がった。……恥ずかしがりやなのだろう、そう考えよう。
しかし、その二人の身長差は凸凹を思わせる。真ん中にエスターニャ様を挟めばアンテナが三本立ってるように見えるかもしれない。
「次はグラン公国の公女サザネ・グラノーム様とハイノス公国の公女アシェナ・マスネ様。彼女等はエルフという種族で容姿や魔法に優れております」
特徴的なツンと存在を主張する長耳にそれぞれ金髪、銀髪のさらさらとした髪にすらっとした身体は妖精の如く。
ただでさえ周りがレベルの高い容姿であるというのに、その端麗な容姿は俺如きが触っていいのかと思えるぐらいだ。微笑まれた瞬間浄化されそうである。
編み込んだ金髪のショートヘアーがサザネ様、銀髪が目にかかっている小柄な方がアシェナ様。
お嬢様という言葉が似合いそうなサザネ様に対し、アシェナ様は幼く、儚さを感じさせる。
「ガルドレア連邦のナガレ=マトゥール様。ガルドレア連邦は獣人達が集まって暮らしており、彼女はその中でも珍しい虎族。並外れた力の持ち主です」
ナガレ様は頬っぺたから生えた三本の髭が可愛らしい女の子であり、スポーティな雰囲気を匂わせる。
髭以外にも虎を思わせる特徴的な黄色と黒の入り混じったショートヘアー。
こちらに無邪気な笑顔を向けながら手を振ってくるその姿は、身分の高そうなこの団体の中でも親しみやすさを感じさせる。しかし、虎となると本性は凶暴なものかもしれない。
獣人と言えば、エーヴィンさんも獣人だが、この城でエーヴィンさん以外の獣人はあまり見てないし、もしかしたら大多数の獣人の人達はそこで暮らしているのかもしれない。
「ガーリマン帝国のアスル・ハーベルグ様。ガーリマン帝国は我が国と長い間友好的な関係を保っている国で、我が国の最も大きな商売相手です。魔族が統治しており彼女は淫魔という種族です」
赤くサラサラとしたロングの髪、露出の多い肌と豊かな肢体には尻尾と翼が生えている。
肌の色は黒。茶色でなく真っ黒。
舌なめずりしながら視線を流してくるせいか、虎のナガレ様よりも肉食獣に見える。
「ちなみに魔族ではありますが、以前話した通り魔王との関わりはないので勘違いのなさらないように」
確か前にそんな話を聞いたっけか。
魔王軍の幹部にいますと言われてもまったく違和感のない外見だがそういうことらしい。
いささか覚えることが多すぎではないか、とあまりの情報量に頭がパンクしてきそうだが、エスターニャ様の口は止まらない。
それに嫌気を感じながら、次の人…へ……と
「棉国のスオウ・ハザマ様。貴方に近い特徴なために急遽来ていただきました」
その人を見た時、心臓がバクンと跳ねたような気がした。
彼女は他の人とは違い、スタイルや容姿が別段優れた点がある訳でもない。
だが、黒の長髪は、部屋の中に僅かに入る風ですら靡き、太陽の明かりが反射してキラキラと光り、
薄い茶色の瞳は今まで見たことがないほど綺麗で、遠目に見た宝石店の宝石にすら勝るほどに澄んでいる。
和風美人というべきか彼女を見ていると、心臓が脈を速く、より速く脈を打っていく。
こんなのまるで……
「いけませんね! 少しゆっくりし過ぎました。えーと、後は省略していきます。あっちは、サン、ティル、カルト、彼女等はゴーズ大森林のゴブリン族。 あの辺にアズズ、ドルグ、ボネフィット、バストン、彼女等もゴーズ大森林出身のオーク族。 向こうはシャース、ディルネ、マル、彼女等はバルドゥール山のオーガ族。 ジース、スガーナ、彼女等はサザナ高原のフェンリル族。 窓の外を飛んでいるジルリナはガザン活火山のレッドドラゴン。以上が王族、貴族の方々で、残りの平民の方々は各自で挨拶してください」
………えぇ~。
流れるような爆弾発言をする彼女に平民の方々もえぇ~、と漏らす。
呪文のように唱えられた名称の数々。
ゴブリンとオークとオーガとフェンリルとドラゴン?
どういうことだろう。まるで分からない。
見ると、アシェナ様よりも小さな緑色の人、二足歩行している豚のような人、俺の身体二つ分ぐらいの立派な体格をしている緑色の鬼、でかい灰色の狼、外を飛んでいる赤色の何か。
二度見せずとも人間ではないということは分かる。
「あのぅ、エスターニャ様? 他の種族と子供なんて作れないのではないでしょうか?」
先程とは違う意味で心臓をバクバクとさせながら、どうにかしてその一言を絞り出す。
だって、フェンリルとドラゴンなんてもう人型ですらないし、ドラゴンって今窓の外で飛んでる滅茶苦茶でかいやつか。
え、てかダークな感じのファンタジーで女の人がオークに襲われる的なのは見たことあるが、逆のパターンとかそんなん無理じゃ
「ゴブリン族やオーク族等でも人間との間で子供は産めますよ? 何せ昔そんなことがあったそうですからね。まぁ、フェンリル族とドラゴン族は多少特殊ですが、それも前例があるので大丈夫でしょう。勇者の血を受け継ぐ機会は全ての国にあるべきなのですから」
頭の中でクエッションマークが飛び交う俺を、エスターニャ様は慈愛に満ちたその表情で地獄の底へと落としてくれた。
俺の様子を察してくれたのか、その日の残りの時間は久々の休みとなったが、あまりの精神的ショックにベッドから出ることはなかった。
扉から聞こえる女性達の声、ドンドンと叩く音、それに対応するエーヴィンさんの声を聴きながらゆっくりと寝た。
どうかこれが夢でありますようにと願いながら。