第二話
○月×日 晴れ またあいつに脅された。もういやだ。逃げ出したい……だけど……
僕は驚きをもって『日記』をクリックし続けた。
まさか隆志がいじめられていたなんて!
知らなかった。
まったく僕は気付いていなかった。
△月★日 晴れ ダメだ。これ以上あいつに従ったら僕は……人でなくなる。人でなしになってしまう。でもこんなこと、父さんや母さんには絶対に言えない。どうしたらいいのか……わからない……僕にはもう、なにもかもわからなくなってしまった……
なんてことだ。
隆志がこんなにも苦しんでいたなんて。
だがそれにしても、親に言えないならなんで僕に言ってくれなかったんだろう。
なんで一言僕に相談してくれなかったんだろう。
僕は……隆志にとって頼りない存在だったのだろうか。
友人ではなかったのだろうか。
いつもこの部屋に来て遊ぶ仲だったのに。
隆志は……僕のことをどう思っていたのだろうか。
僕はさらにクリックを繰り返して日記を読んだ。
だが日記には僕のことは書かれていないようだ。
書かれているのは……あいつ……隆志を脅していたというあいつに対しての憎しみだけであった。
だが一体、なぜ隆志は”あいつ”に脅されていたのだろうか。
脅される以上、なにか弱みでも握られていたのだろうか。
それとも……。
僕はさらに日記を読み進めた。
するとようやく話が少し見えてきた。
どうやら”あいつ”は、別の誰かに”何か”を売ることを隆志に強要していたようだ。
売る……一体、何を売ろうとしていたのか……。
続きが気になり、僕はさらに先へ進めた。
するとそこには驚くべきことが書かれてあった。
「……えっ!?覚せい剤!?……」
僕は日記に書かれていた覚せい剤というあまりにも刺激的な単語を見て、思わず大きな声を上げてしまった。
そして僕はその声が自分の予想以上に大きかったため、思わず口を押さえて首をすくめたのだった。
「……えっ?……どういうことだ?……隆志?……」
僕は夢中で日記を読み進めた。
そんな……そんなことって…………そうなのか?……隆志……
そこには”あいつ”の圧力によって否応無しに覚せい剤の売人にされてしまった隆志の苦悩が描かれていた。
”あいつ”は言葉巧みに友人の居ない隆志に近づき、親しくなったとみるや突如豹変して隆志に圧力をかけた。
隆志は初めてできた友人と思っていた”あいつ”の豹変に戸惑いながらも次第に絡め取られ、売人となることを余儀なくされてしまった。
初めての友人を……失いたくなかったからだった。
だが”あいつ”は、隆志のそんな思いを踏みにじるかのように絶えず圧力をかけ、強要し、苦しめ続けた。
だがそんな苦悩で埋め尽くされた日記に、途中からもう一人の人物が描かれ始めた。
その人物は、不幸な境遇にやさぐれうらぶれながらも時折見せる笑顔が眩しい、二十代前半の可愛らしい女性であった。
そして、そんな彼女に隆志は……恋をした。
だが問題が一つあった。
その女性は、隆志の顧客の一人であったのだ。
隆志は”あいつ”に強要されてその女性に覚せい剤を売り続けているうちに恋心を抱いたのだった。
だが隆志の淡い恋心はどうやら相手の女性に通じたらしい。
日記には彼女のすさんだ心が徐々に溶けほぐれていく様子が事細かに記されていた。
初め、恐ろしい犯罪の片棒を担がされた漆黒の苦悩に満たされていた日記は、次第にほのかに淡い薄桃色が注しはじめ、さらに進むにつれて華やかな紅色へと移り変わり始めた、そんな時であった。
その女性が死んだのだ。
死因は……覚せい剤の使用過多による中毒死であった。




