第七話:気になる人にはちょっかいを!
第七話
ハルカと別れると変な奴に会う。
それは誰かが決めた方程式か何かなのだろうか。
「またかよ……」
霧が立ち込め、学園内へと入った筈の俺の目の前に広がる風景はいつか見たレンガ造りの道だった。
この前と違うところは湯気のように霧を立ち込めさせる水面がレンガの橋の下にあることぐらいだろうか。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
姿を現した楠アキホに身構えようかどうかして、やめた。
「俺に何か用事でも?」
「この魔法、何分持つと思いますか」
質問に質問で返すのは感心しない。
かるく、無視された気分に陥ったものの、大人しく返答することにした。
「……んー、一分?」
「わたしの予想としては半日です」
「マジかよ」
半日もこんなところに閉じ込められるなんて冗談だろ。
しばらく考えて、俺は手を叩いた。
「とかいいつつすぐに解いてくれるんだろう?」
「いえ、そう言うつもりは……」
楠アキホがそういってすぐ、霧が晴れて学園の校庭へもどってきていた。
「……あんた、見た目と違って冗談が好きなんだな」
詐欺師に見えて、実は善人。これが一番厄介なタイプだ。ツンデレ以上に厄介さんだ。
「冗談のつもりではなかったんですけどね」
納得していない表情でそう言って、杖を取りだした。それで一体何をするつもりなのか、簡単に想像がつく。
「もう、止そうぜ。あんたもここの生徒なんだろ?」
街のいたるところで魔法なんて使ったら日常が成り立たないと思うんだが。
この世界でも、基本的に魔法をぶっぱなすのは良くないらしいからな。下手すると警察っぽい何かが出動するとのことである。
「生徒だとしたら、どうするつもりなんですか?」
にこやかに笑う楠アキホに俺は時計を見せた。
「そろそろ、時間なんじゃないのか?」
俺の言葉を証明するかのように、学園のどこからかチャイムが鳴り始めた。
「ほーら、遅刻だ」
しばらく彼女は考えていると、不敵に笑い始めた。
「わたし、こう見えても不良なんですよ。だから、一時間ぐらいサボってもわけないんです」
「あ、そうなの。じゃあ、俺は優等生目指しているからさよならさせてもらう」
爽やかな大人の男を印象付けさせるため、俺は右手を軽く挙げた。
「そう簡単に、逃げられると思っています?」
杖をかざし、振り下ろす。
茶色や黄色の粒子がかすかに見えたかと思うと、それらは渦巻いて何かを形作っていく。
あれが魔力なのだろうか?
「すげぇ……」
杖に吸収された魔力はそのまま世界を作り上げていく。其処までなかったはずの空間へ、壁を、レンガを、そして霧を瞬く間に作りあげたのだ。
「今の粒子は魔力ってやつか?」
「魔力が見える者は稀ですが、あなたは異世界から来ていますからね。そうです、魔力はわたしを通すことで、この世界に私の世界を作り上げてくれます。これが、魔法です」
「それで、またこんな世界に連れてきてどうするつもりだよ?」
どうせこれも数分程度で終わってしまうような魔法なのだろう。
人が三人通れそうな広さのレンガの橋は、さらに俺と楠アキホ以外の何かを招いていた。
「ちょっと痛い目に遭ってもらいますよ」
「痛い目って……」
楠アキホの杖から生み出されたものは三体の石像だった。どれもが鈍く、赤い光を放つ危ない感じの魔法に違いない。
「魔法に影響されにくい身体の様ですが……物理的には平均的でしょうからね。捕獲します」
石像の手には縄とか、鞭とか、蝋燭なんかが握られている。
「いや、蝋燭はおかしいだろう」
「サービスですよ」
そんなサービスはノーサンキュー。
「さぁ、お行きなさい石像達っ!」
動き始めた石像達……しかし、その歩みはものすごく遅い。仕事疲れのリーマン並みの遅さだった。
「あのな、馬鹿にしてるのか」
「三体同時操作は結構難しいんですよ。でも、素早さを犠牲にしているだけあって、見た目通りの防御力です」
なるほど、そう言う作戦か……しかし、それは俺があくまで石像を相手にするときにしか通用しないのではないだろうか。
迫る石像の攻撃を避け、楠アキホへと向かう。
「どうせこういうのは魔法をかけてきた奴をどうにかしちまえばいいんだろ」
「縄とか鞭とか蝋燭をつかってどうにかするんですか?」
「するかっ!」
相変わらず、石像達は動きが遅い。まだ追いかけてきていなかった。
すでに楠アキホとの距離は近く、俺は奴に飛びかかった。
一瞬だけ、魔法が飛んでくるかもしれないと不安になったものの、杞憂に終わった。
「っしゃ、捕まえたぞ」
押し倒して両手首を押さえる。
「さぁ、元の世界に戻すんだな」
「ふふ……いいんですかね、こういうことしちゃって?」
やけに自信満々な楠アキホに再び魔法への警戒心が鎌首をもたげる。
内心ためらいつつ、強気で行くことにした。
「問題ないだろ。そっちからしかけて来たんだからよ」
「本当に?」
「ああ」
「石像を動かしつつ、フィールドを形成する魔法は一分程度が限界なんですよ。とっくに一分経って、わたし達の姿は周りの人から丸見えです」
そういって辺りを見渡した。
「誰もいないぞ」
「それはそうですよ。さっき貴方も言ったでしょう? もう、授業が始まると。でも、窓の外を見ている人はそれなりに居ますからね、今に誰かが飛び出してきますよ」
学園の方から教師らしき連中が走ってくる。
「さ、どいてください。校庭で押し倒すなんてそういうプレイが好みなんですか」
「んなわけないだろ」
今度この生徒に会ったら逃げよう。
俺は教師に取り押さえられつつ、そう思うのであった。ついでに、誰かが火球を飛ばしたようで、更に収拾のつかない事態になったのだった。
まず俺が運ばれたのが保健室……本当、異世界に何で召喚されたのだろう。




