第四十一話:精霊化
第四十一話
膨大な魔力の流入を感じ、気付けば俺の体は……簡単に言うならば、さっきの化け物の魔力を全て吸収したようだった。
俺、凄い。
「う、嘘……」
「え? 何が」
ハルカが膝から崩れ落ち、尻もちをついた。
マシロも驚きを隠せない顔で俺を見ている。
「え、何だよ。二人して……さっきの精霊は、俺の身体に入りこんだだけだろ?」
「と、冬治さん……あの、身体が……」
「身体? ただ白くなっただけ……驚きの白さってやつだ……ろ?」
改めて自分の体をよく見てみた。
つま先、指先……細い部位から徐々に淡い光を放って消え始めていた。
「げえっ、透けてるっ」
「精霊化、ですね。いいえ、これは……もう、直接魔力化してる」
マシロが近づいて冷静な判断を下した。
「ど、どうすればいいの」
「どうする事も出来ませんよ。今、冬治さんの近くで何か巨大な魔力を使えば水風船が爆発するどころか、そのまま魔法陣に取りこまれて終わりです」
「そんなっ……」
これで痛みがあったらやばかったかもしれない。
ああ、俺、消失しちまうのか。何だか死ぬより、大変なことになりそうだな。
泣きそうになるのを必死でこらえ、ハルカの頭に手を乗せようとしてやめた。もし、ハルカまでこうなったら大変である。
「ハルカ」
「な、何?」
「俺をこの世界に召喚してくれてありがとう。短い間だったがよ、楽しかったぜ。魔法なんてけったいな世界はあっちの世界じゃ楽しめなかった」
「そんな……」
「マシロもありがとな」
「……すみません。何もしてあげられなくて」
「気にするな……ところで、あと、何分持つかな」
マシロは俺の体を見つめ、首を振った。
「……二分が限度です」
「早いんだな」
「ええ、冬治さんの体に収まりきれない魔力が噴きでています」
「そうか……なぁ、ハルカ」
涙を流すハルカの名前を再び呼ぶ。
「……冬治さん、ごめん、ごめんなさい」
「待て、俺が話す。時間が無いからな。俺はお前の事が好きだったよ。だった、つまり過去系だ。何せ、こっちの世界の俺を召喚すると言う時のお前の表情は実に嬉しそうだった。悟ったね……こりゃ勝てないと。もっとあれだ、イベントを起こして好感度的な物をあげとくべきだった。あと、お前に伝えておくことは……ええっと……」
足りない頭でせっせと言葉をこさえる。
「うおっ……」
下半身が消え失せ、俺は地べたに這いつくばった。
「と、冬治さんっ」
「俺に触れるんじゃねぇっ」
「……と、冬治さん?」
「そっちに魔力が移ったらどうするんだ」
近寄ろうとしたハルカににらみをきかせ、ローアングルからパンツを眺める。
「最後に見るもんがハルカのパンツか。悪くないぞ」
「みたいのなら、ずっと見せてあげるからっ……」
「……こういうのは見せてもらうんじゃなくてだな……やべぇ、下らない事で締めたくない」
俺は最後の一言を考える。
居なくなっても、大丈夫。いいや、違うな。あ……やばい、もう全然身体に力が入って来ない。
「ハルカ、さよならだ」
ハルカの絶叫は、この世界から消え去った俺の耳には届かなかった。
――――――
「ありゃ」
久しぶりに見る我が家のトイレはいつかと違って、便器が無くなっていた。
「……夢でも見ていたのかね」
そう思って、俺は近くの鏡を見た。
「夢、じゃあないみたいだな。精霊化しつつあるじゃないか」
真っ白い自分の体をみてため息をつく。
「いや、待てよ? 精霊化していると魔法を使いやすいって聞いたしなぁ……。もしかしたら、あっちの世界にいけるかもしれん」
俺は魔法陣を近くの壁に描いてみた。
「呪文はえーっと……」
誰も見ていないし、痛いチョイスにしようかと考える。
しかし、思いつかないもんだな。
「……異世界の門を開けっ」
たったそれだけの言葉で、魔法陣はうねりを伴って円形の穴になった。
「なるほどね、こりゃすげぇや……ハルカ、待っててくれよ」
もう一度ハルカにあった時、俺は自分の気持ちを伝えよう。
大学入試の結果より、今はそっちの方が大切だ。
俺は自宅のトイレから魔法陣をくぐりぬける決意をしたのだった。
もっとも、俺が再びハルカに逢えるまで相当変な世界をくぐりぬけたのはまた別の話である。
作者の雨月です。今回で、ハルカ編終了。作者の私が言うのもあれですが、もうちょっとどうにか出来なかったのかと。ハッピーエンドっぽくないんじゃないかと。もともとは冬治とハルカの目の前に元の冬治が出現し、ハルカと仲良くなっちゃう終わり方。どうせ俺なんてと腐れたまま、異世界に戻るという終わり方でした。その後、ハルカはマシロを元に戻すための材料とされ……こほん、今考えただけでもこれはバッドエンドですね。他に比べると実に残念な終わり方ではあります。ハルカ編、最期まで読んでいただき、ありがとうございました。




