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第三十七話:触れちゃいけないと言われたら触れたくなるのが雄の運命

第三十七話

 魔法の使えない俺が、魔法を使うにはどうしたらいいか?

「というわけで、マシロ頼んだ」

「わかりました」

「……え、冬治さんが魔法使うんじゃないの?」

 期待はずれのハルカの顔に、俺はため息をついた。

「俺が魔法使えるわけないだろ。ぜーんぶ、マシロのおかげだよ」

「ハルカをからかうのは良くありません。素直に方法を見つけたのは自分だと言えばいいじゃありませんか」

 困ったものだと言う表情で俺を見るのはやめてほしい。

「そうなの?」

「……」

 首をすくめてみせた。

 召喚を、それも個人を召喚するにあたって必要な工程がある。

 その人物が今どこにいるのかの探知の魔法。

 対象を捕縛する魔法。

 異世界へ干渉するための転移魔法。

 対象を魔力に変換し、再構築する魔法。

 そして、これら複数の魔法を統合させるだけの魔力維持能力に、対象と近しい存在……ようは、家族だな。

 しかし、これも探すのは一苦労で普通の人間がしても難しい。異世界がいくつあるのか知らないが、一分程度の探知魔法で並みの魔法使いは肉体的限界を迎えるのである。

 その点、マシロはあっさりとこの世界の冬治を見つけたのだ。見つけたという言葉はちょっと違うか。その存在、もしくはそれに近い存在を感知したのである。

「じゃ、先生、お願いしやす」

「……いいんですか、本当に?」

 マシロの心配そうな顔も、ハルカの期待にあふれる顔の前では無力だ。

「いいんだよ、これで」

「わかりました。冬治さんが言うのなら召喚しますよ」

 部屋に描かれた魔法陣が起動を始める。

 青く、白く、交互に点滅を繰り返し、魔力をバラまき始めた。

「この感じ、やっぱり……冬治さん」

 俺の名前を呼んでくれているのに、何だかちっとも嬉しくない。

 別に、ハルカに呼ばれたって嬉しくないけどな。

「……きますっ」

 魔法陣にひびが入り、すさまじいまでの魔力を感じた。

「俺がこの世界にやって来た時と、同じ……感覚っ」

 魔法陣を吹き飛ばし、部屋の扉をブッ飛ばして現れたのは……。

「マシロ?」

「……」

 光の輪郭だけを持って現れたのはマシロだった。

「いや、あれは……」

 マシロの姿はぶれて、無くなった。その代わり、別の形を作りあげていく。

 俺だ。

 光の輪郭だけになった俺が、虚ろな目をして現れた。

「え、どういうこと?」

「……えっ……と」

「この世界の俺って、あんな見た目だったのか」

 とっさのことに、俺たち二人は動けなかった。ただ、マシロは俺とハルカの腕を引っ張って教室を後にする。

「やばいです、これは」

「え?」

「既に……あの魔法使いは精霊になっています。しかも、自我が消失しています」

「ハルカ、自我が消失しているとどうなるんだよ」

「え、えっと……水風船を想像してもらえば簡単かも。誰かが魔法を使う、もしくはあの精霊が魔法を使えば水風船に針の先で穴をあけるようなものだから、周囲の人達が濡れるって事」

 見事に巻き込まれると言うわけか。

 あ、でも俺達が召喚したんだから単なる自業自得って奴じゃん。

 めでたしめでたし。

「そんなわけないか」

「え? いきなりどうしたんですか」

「どうにかしよう」

 そう言った矢先、教室の扉が開いた。

 ホラーならおどろおどろしいBGMが流れているところだ。いよいよ話はクライマックス。一体だれが生き残るかと……ね。

「逃げるという選択肢は在りだろうか」

「追いかけられると思うけど?」

「なるほど、無理ってわけかい」

「冬治さん、ハルカ。ここはわたしが何とかします。召喚したのはわたしですからね」

 マシロが凛とした表情で精霊を見つめる。

「異世界に吹き飛ばす魔法をぶつけます。こういう時こそ、わたしが力を発揮するときです」

「マシロ、魔法を使おうとした時点で駄目だよ」

「……え?」

 魔法に定評があっても頭の良さは今一つらしい。

「俺は全く役に立ってないな……こんなことなら召喚魔法を……」

 そういえば俺って、この世界に召喚されたんだよな。

 空き地に大きな魔法陣あったし……あれって何かに使えないだろうか。

「ハルカ、俺を召喚したあの魔法陣ってまだ使えるかな?」

「え? まぁ、何とか大丈夫なんじゃないの。期限は切れてないし、まだ使用できるよ」

「あれでさ、何とか出来ないか。せめて、あいつをどこか別の世界へ召喚すればいいんだろ」

 無気力、無表情、ナイチチ……女の俺は虚空を見つめ続けている。

「でも、魔法を使えば結局爆発するんじゃ……」

「其処は考えてる。先にマシロが空き地に行って、防御魔法なりシールド魔法なり、魔力を反発する何かを魔法で作ればいい。出来るか?」

 ここで出来ないと言われたら俺が男を見せるしかない。

「出来ます」

 よかった、男は見せなくてよかったらしい。

「じゃ、頼んだ」

「わかりましたっ! 十分程度で出来あがります」

 窓から出て行くマシロを見送り、俺たち二人は精霊を見つめる。

 未だに何物にも興味を示していないらしい。じっとこちらを……いいや、その視線は移り変わってマシロが出て行った窓を見つめている。

 そして、とうとう動き始めた。俺達にではなく、あいつは窓から外へ出た。

「マシロを追おうとしているのかな」

「それならやばいんじゃない? 魔法を使ったらぼん、だよ」

 血相変えて二人で窓から仲良く飛び出し、追いかけはじめる。

「……動き自体はとろいんだからいいけどさ、十分は持たないかな」

 やけに緊張感のない精霊の動きに、徒歩で逢わせた。

「ちょっと、近寄ったら危ないって!」

「そうだな」

 かなり近づいていたのに対して、精霊は見向きもしなかった。ふーむ、どうやって足を止めればいいんだろう。

 悩んでいたら、近くで爆発音が聞こえた。

「……誰かが、魔法を使ってる」

 青ざめたハルカと俺は辺りを見渡す。

「……」

 精霊はそちらに興味を持ったらしい。マシロの居る方角を見ることなく、今度はそちらの方へと動き出した。

「魔力で誘導できるのかな」

「かもな。でも、危険だろ」

 曲がり角を曲がった先、既に勝敗が喫したのかリーゼントに長ランとオールバックに短ランの男が二人のびていた。

「決闘かね」

「こんな二人の所為で私たちがとばっちり喰らったら最低だよ」

 まぁ、元をただせば俺が悪いからね。

 そしてそれから五分間、歩いた。

「あー、どうしようもないな。俺が魔法を使えたら誘導できるのに」

 そうは言っても、魔法なんて使えやしない。

 しかし、その時奇跡が起きた。

「お、進路を変えたぞ」

「本当だ。何でだろ?」

 進む先にある物を見て俺は首をかしげ、マシロは顔を真っ青にした。

「あの魔法陣はなんだ? 黒くて、動いてないな」

「あれは……魔力生成の魔法陣! やばいよっ。止めなきゃ!」

 何でそんなものが空き地の近くに漂っていたのか知らないが、ハルカの顔を見るに相当やばい代物らしい。

「おい、ちょっ、待てよっ」

 そういって俺は精霊の腕をつかんだ。

「冬治さん触れちゃダメ―っ」

「え?」

 膨大な魔力が俺の身体に強制的に流れ込んできた。


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