第三十五話:最後に叶えてあげたいこと?
第三十五話
母親を探してほしいと言われても、手がかりどころか、そろそろ俺のこの世界の滞在期間がやべぇのさ。
「何だかさ、最近アキホの雰囲気が変わってね……これも冬治君のおかげかな。約束通り、今度の日曜日元の世界に戻してあげる」
本日ブルーマンデー……今日を入れて、残り六日である。
「残り期限を決められた方が燃えるんだよね……」
よく、燃え付きますがね。
しかして、残り六日でどうやってアキホの母親を見つければいいんだろう。そもそも、アキホに関わって……この世界にやってきて俺が関わってきた人間なんて本当に少ない。
そして、その中で一番行方を知ってそうな人がいるとすれば一人しか思い当たらない。
「保健室の先生しかいないな」
アキホに見つかる前に保健室の先生の元へと急ぐ。最近はめっきりひねくれ感がなりをひそめて、恋する乙女みたいになっちまったしな……それが悪いと言うわけじゃないけど、何と言うか、恥ずかしい。
「冬治くーん」
「あ、アキホ……」
そこがわたしの定位置だと言わんばかりの顔で、俺の隣へとやってくる。
「どこへ行くんですか?」
「保健室の先生のところ」
アキホにはまだ、俺が元の世界に戻ることを伝えていなかった。言ったらどうなるのだろうか……ちょっとは寂しがってくれるだろうが、まだ言わないほうがよさそうである。
「怪我をしたんですか?」
「そういうことじゃないよ。アキホの母親を探す手掛かりが全くなくてな」
頼まれた本人に対して、隠し事する必要性もないし、下手に勘ぐられても困る。合理的でもない。そこらへんのおばちゃんを連れてきて、これが君のお母さんだよといってハッピーエンドになるなら、楽である。
「どうしたもんかと」
「そっか、真面目に探してくれるんですね」
「当たり前だよ。約束しちまったからな」
軽々しい約束だと思った。でも、あんな状況で首を横に振る事なんて出来なかった。こればっかりは仕方がないな。
「だからさ、これから保健室の先生の所へ行ってアキホの母親の話を聞こうと思う」
「そうですか。じゃあ、わたしは途中までついていきますよ」
なんだ、中に入って来ないのかと聞こうとして辞めた。母親を探してほしいと言った割には、あまり積極的じゃない。
魔法があるんだし、探そうと思えば何とかなりそうなのに不思議な話だ。
「色々とさ、聞きたい事があるんだ」
「答えられる範囲なら」
「まず、俺はアキホの母親に関してどこまで聞いていいんだ?」
「わたしの知っている事なら全部話しますよ」
「そうか」
「あと、遠慮は必要ないですからね。物ごころつくころにはいませんでしたし、顔もほとんど覚えていないんです。名前だって、忘れました」
名前を聞こうと思っていたので、ため息をつきそうになる。
「ん、そうか。えーと、だったらそうだな。容姿のことに関して何かわかるか?」
「わたしに似ていたそうです」
「そうか、じゃあ綺麗な人だったんだろうな」
曲がりなりにも、魅了の魔法を使う魔法使いだからなぁ。しょっちゅう魔法を使用していたわけじゃないだろうからな容姿に自信が無かったと言うわけじゃあないだろう。
「安心してください冬治さん」
「あん? 何がだよ」
「わたしは他の人に目移りしませんから」
「……そりゃどうも」
しばし、見つめ合っているとアキホが首をかしげて笑い始める。
「入らないんですか?」
「え?」
気付けば目の前に保健室の扉がやってきていた。アキホから言われたことに関して考えていたら目の前が見えなくなっていたようだ。
「入るよ。アキホは本当に来なくていいのか?」
「はい」
まるで聞いても無駄だと言うような表情をしていた。
「……わかった」
保健室の中へ入ると、いつものように先生が一人いた。
「あら、どうしたの冬治君」
「えーと、聞きたい事がありまして」
「今度帰る事?」
「違います……アキホのことです」
「アキホの? あの子、最近ちゃんと授業に出てるみたいで……」
「正確に言うと、母親の事です」
俺の言葉に、保健室の先生は困った表情になる。
「……アキホにはもう居場所を伝えてあるわ」
「え?」
「あと、必要なのは覚悟」
「ん、どういう意味ですか」
「あと、あの子に必要な物は覚悟。誰かが背中を押してくれなきゃ、あの子は逢いにすらいけない。魅了の魔法の所為にするわけじゃないけれど、子どもの頃から平然と使ってきた積み重ね。知ってる? この世界の冬治君がいなければアキホも誰かに追いかけられる身になってたの」
恨むべき対象が、他に居たから恨まれていなかったと言っているのだろうか。大きな事の前に、小さい事はたまに忘れ去られると言う事があるんだろう。
「これ、あの子の母親がいる場所の住所ね」
「あ、はい……あの、此処の近くなんですね」
手渡された紙に書かれた住所は学園からほど近い場所のようだった。
「あの子が一体何をしたいのか、わたしにはわからない。魅了の魔法の所為にしないで、家族のことは思い出にして、生きてほしい。どうせ、外で待っているんでしょう? もう子どもじゃないんだから現実を受け止めるべきだわ」
保健室の先生とは言っても、かなりスパルタなところがあるようである。
「冬治君もね、覚悟が必要よ」
「え? 俺がですか」
一体何の覚悟が必要だと言うのだろう。言い方としては悪いが、他人の母親だ。アキホにとっては複雑な心境だろうし、俺もちょっとは緊張する。
「そう、アキホを置き去りにして、元の世界に戻る覚悟。まだ話してないんでしょう?」
「……はい、まぁ。あ、でも、あれですよ。俺、こう見えてドッキリとか大好きなんです。さっきまで顔を合わせていた人が実は一時間前に死んでいたとか、カーナビの誘導に従っていたら崖に落ちていたとかそんなの」
「ま、何でもいいけれど冬治君は道を間違えるんじゃないわよ」
呆れた顔でそう言われ、俺は一応、頷くのであった。さて、アキホにどうやって話そうか。




