第三十三話:冬の過去
第三十三話
櫻井ハルカと夢川冬治は幼馴染であった。
もっとも、その関係は良くある仲良し系幼馴染ではないし、窓から窓へ飛び移り、朝の挨拶を交わす幼馴染プレイでも何でもない。
言うなれば、主従。
小学一年生の頃転校してきた夢川冬治は小学生にして大人顔負けの魔力技術を持っており、人を見下すところが多々あった。ハルカはまさに、冬治の使いっぱしりのような存在だったりする。
それでもまぁ、ハルカとしては優秀な魔法使いの友達をやっていた事、機嫌がいい時はオリジナルの魔法や魔力を扱う技術を教えてもらう事が出来ていた。人見知りがあったのか、ハルカ以外にそう言った事をするような子ではなかったのである。
小学生が終了するころ、既に冬治の両親は精霊化が進んでしまい、魔力となってしまった。その頃から、降ってわいたかのような妹を溺愛するようになる。
それまで、ハルカが居たポジションを振ってわいた妹である永遠マシロが奪い去ったと言っていい。
淡い恋心を抱いていたハルカは、マシロに嫉妬心を抱いていたものの、実際は両親が居なくなった冬治の親代わりの人の子どもだったのだ。精霊化が起きやすい冬治の家系と懇意にしており、家族ぐるみでお世話になっているような関係だった。
冬治はそのまま転校することが決まり、ハルカは胸に抱く想いを告げることに決めた。
しっかりと日時を伝え、その日を待った。
冬治を呼び出し、いつもより気合いを入れていたハルカは……残念ながら約束をすっぽかされて打ちひしがれるという結果に終わっている。その日の事を彼女は『崖落ちの火曜日』という題で日記に残している。
それからまた数年が経ち、ハルカは私立羽津魔法学園へと入学が決定する。
友を捨て、プライドを捨て、魔法に打ち込み続けて彼女はついに、召喚魔法のエキスパートへと成長を遂げた。
あまり栄養のいい食事をしていなかったためか、胸やら身長やら成長しなかったがそれはそれ、である。貧相だ、なんて言うような男子生徒は召喚されたGやらミミズに蹂躙されている。
羽津魔法学園へと入学してすぐに、ハルカは運命の出会いを見つける。
「冬治……さん」
見知らぬ女子生徒と林でよろしくやっているところを目撃したのだ。がっつり三十分ほど確認して、彼女は膝を地面につけた。
「うばばばば……」
歯ぎしりをし、四つん這いになって某心霊ゲームの床下幽霊みたいな動きをした後に彼女は立ちあがった。
「……私は、それでも冬治さんのこと……ううっ」
涙を溜め、ハルカはその場を立ち去った。
それからすぐ後、彼女はある一つの腹いせを実行する。
何のことはない。この世界に冬治という存在は一つであるが、異世界という概念は既に存在していた……そこから、冬治という存在をこの世界に召喚し、仲良くなった後に放置するのだ。
櫻井ハルカは約一年間の歳月を経て、異世界の夢川冬治召喚魔法という他に類を見ない個人専用の魔法陣を作りあげた。
他世界の夢川冬治を召喚した櫻井ハルカは……当初計画していたことをすっかり忘れていたりする。彼女としては、もう一緒に生活し、世話をするだけでよかった。
ただ、彼女は冬治を召喚する際に足りない魔力を補完する魔力生成の魔法陣を放置したままにしていたのだ。これは、他世界から魔力を引っ張ってくる魔法で、一定数の魔力をハルカの居る世界へ供給し続ける……魔力を召喚する魔法で、精霊化を問題視するため、使用禁止の類だった。
それをすっかり忘れている為、実はハルカの住んでいる羽津町は……ちょっとでも間違えれば魔力あふれる危険な場所へと変貌しているのだ。
それに気づいたものはまだおらず、日々の安寧とは知らないことを由とするものなのかもしれない。




