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第三十二話:冬の存在

第三十二話

 目を開け、辺りを見渡すとそこは異世界だった。

「そんなわけないか」

 目を開けたらそこはこれまで俺が居た場所と何ら、変わりがなかった。あるとしたら、足元にマシロが転がっているぐらいだ。

「おい、マシロ、マシロっ」

「ん……んっ……」

 顔を近づけ、頬を叩く。

「……」

 つい、その唇に目を奪われてしまった。

「……ごくり」

 いいよな? 俺と、マシロって、そう言うことしても問題ない関係になったんだよな?

 まだ、キスは早いかな?

 いや、でも……起きないお姫様の目を覚ますのはあれだ、ゴブリンのキスだ。

「って、誰がゴブリンやねんっ」

「冬治さん、何をするつもりですか?」

「え?」

 唇を近づけようとしたら、怒気を孕んだ声が聞こえてきた。

 ゆっくりと、首を後ろへ動かすとそこにはとってもご機嫌な顔をしたマシロが立っていた。

「俺の彼女のマシロさんかの……?」

「はい、冬治さんが好きなマシロですよ」

「じゃ、じゃあ、俺の目の前にいるのは?」

「冬治さんの彼女ではない、マシロです」

「……済みません。これは浮気ではないんです。勘違いなんです」

「よろしい」

 早速、尻に敷かれてないか?

 そんなことは気のせいだ。

「それで、ここは一体どこだ? 異世界?」

「いいえ、ここはどうも数ヶ月前の同じ場所みたいです。おそらく、この状況を鑑みるにわたしが生まれた瞬間なのでしょう」

 マシロが生まれた瞬間。つまり、本物のマシロに膨大な魔力を当てて精霊化しつつあった身体の魔力を吹き飛ばした状態……って奴かね。

「このままここに居ても厄介です。移動しましょう」

「え、いいのかよ?」

 マシロを放っておくのは何だか凄く、勿体ない気がする。

「はい。元の世界へ戻るのは可能ですから、その間に冬治さんがあっておきたい人がいるんじゃないでしょうか?」

「俺があっておきたい人?」

「この世界の冬治さん、見たくありませんか?」

 しばらく考え、俺は頷く。

「そうだな、色々と言ってやりたいことがある」

 というより、この世界の冬治は一体どうなったのか知っておきたかった。

 それより、知りたい事や見たいものがこの部屋にはある事を思い出した。

「マシロ、ちょっと先に行っててくれ」

「え? 何かする気じゃ……」

 そういって眠っているマシロを見下ろす。

「するかよ。俺にはマシロがいるからな。こっちのマシロはいずれ俺と出会って……ま、仲良くやるさ」

「そうですよね」

「ああ。だから心配しなくていい。この世界の冬治を探してくれ」

 マシロは俺の事を信じてくれたようで、先に出て行った。

「ふむ、よし。おれはこの世界の冬治が書いた日記に興味があるんだよなー……っと」

 以前、マシロが燃やしてしまった日記。それには一体何が書いてあったのか非常に気になった。

 きっとむふふな展開が書いてあるに違いない。

「あったあった……ってなんじゃこりゃ」

 日記を開いてまず、飛び込んだ内容が酷かった。



『こんなせかいはほろぼしてやる』



 まるで子どもが書いたような拙い字だった。

 ただ、そこには何かに対しての憎しみが見て取れた。憎しみなんて知らない言葉が、見たものにそれを感じさせるのだから恨みがすさまじいと言うか……。

 ページをめくっていくにつれ、文字は綺麗に刻まれて行く。手帳サイズのはずなのに、十数年分が綴られているようだ。

 妹がやってきた日の事、母が消えた事、父が消えた事……徐々に狂っていく人間像と、おかしいまでの妹への愛情、そして憎悪も見てとれる。

 飛ばし読みした最後のページには、再度現れた文字があった。



『こんな世界は滅ぼしてやる』



 俺とは違うどこか柔らかく、綺麗な文字だった。

「なるほど、この世界の俺は俺じゃないんだな」

 読むのをやめて、元の場所へ戻そうと考えた。

「ん……」

 そこで足元に眠るマシロが目についた。

「……もしかしたらここにいるマシロが読んじまうかもしれないな」

 日記を破いて、俺はペンをとった。

「そうだな、どうせならもっと幸せな内容を書いたほうがいいだろ。雑な字で悪いが……えーと……もうちょい刺激的な内容にしとくか」

 うん、すっごくエッチな妄想を書き込んで読む奴がこの日記をすぐに閉じるようにしよう。

「冬治さん、見つけましたよ」

「お、そうか。俺も行く」

 日記をばれないように元の場所へと戻し、俺はマシロの隣へと並んだ。

「空地へ向かっているようです」

「空地……? そっか。とりあえず先回りとか出来ないか」

「任せてください」

 俺の手を取ると手頃な窓から飛び出した。

 そのまま、宙に浮いて勝手に移動を始める。

「どうです? 魔力に押してもらっているんですよ」

 何者かに背中を押されているような嫌な感触だった。

 その速さは車の倍で、迫りくる電柱に肝をつぶし、窓の向こうに着替え中のお姉さんが居たような気がして、青空の向こうでカラスと戦うドラゴンを見た気がした。

 辿り着いた場所は、空き地の近くの家の屋根。

「この世界の冬治さんはどこにいるんでしょうか」

 俺が居る位置から、この世界の冬治が見えた。まだ少し距離が離れているが、何者かに追われているらしい。

「冬治さん、これ」

「ん?」

 空地にはこれまた立派な魔法陣が描かれている。

「何だこれ」

「これ、異世界へ行くための魔法陣ですね」

「わかるのか?」

「今の私なら大抵の事、わかりますよ。魔力の塊みたいなものですから」

「ふーん、そうか。んじゃ、あいつはここに来るの確定か」

「そうみたいです」

「ちょっと、聞きたい事があるからここで待っていてくれ」

「はい。冬治さんは?」

「ああ、ちょっと聞きたい事があるから聞いてくる」

 そろそろこの世界の冬治が空き地の近くへとやってくる。

 空き地へ続く道へさしかったこの世界の冬治の顔を見てため息をつく。

「大将がおいでなすった……逃げられると確信している顔がむかつくねぇ」

 空き地に入ってきた冬治の前に立ちふさがり、問答無用で拳を振るう。

「ぐあっ」

 さすが、この世界の冬治は闘い慣れていたようで俺に殴られて吹っ飛ばされても受け身を取ってすぐさま立ちあがった。

「……たとえ自分だったとしても、女の子に手をあげるのは駄目だな」

 俺に吹き飛ばされ、立ちあがった人物は女の子だった。


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