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第三十一話:探し物

第三十一話

 楠アキホの手を掴み、歩いているのは実に新鮮な気分だ。自分でも、顔が火照っているのが気になっている。

 そして、そう言ったものに反応する奴が俺の手を掴んでいるわけで、かなり茶化してくるかと思えば、そんなことはない。

「………ぶつぶつ」

 先ほどから彼女は独り言を言い始め、折角二人で歩いていると言うのに甘酸っぱい会話の一つもない。

 別に、そう言うのが必要というわけでもないんだけどさ。これじゃまるで一杯いっぱいの素人カップルみたいじゃあないかっ。

「おい、着いたぜ」

「はっ、しまった! もう着いちゃった」

「そら、あんだけ歩いていればすぐ着くだろうに」

 一体何がしまったのか知らないが、何か見たいもの、やりたい事があるのなら独り言を呟いている場合じゃないだろうに。

「って、ここはどこですか?」

「ゲーセン」

 俺の言葉に露骨に嫌そうな表情へと変わる。

「ちょっと不満です」

「そういうなっての。放課後で行ける範囲なんてそうないだろ?」

「では、時間がたっぷりある場合は好きな場所に連れて行ってくれると?」

「……まぁ、現実的に可能な場所と、お財布で実現出来る場所に限る。無論、毎週連続なんて不可能だからな」

「ぶー」

 こればっかりはどうあがいたって無理だね。バイトしようにも、俺の場合は立場が微妙な為に出来ないのだ。

 あ、法律的に引っかかるってわけじゃなくて俺の召喚者……つまり、ハルカが保護者的立場で、彼女へバイトの申請をしなくちゃならんのだ。

 そして、これが一番苦労するはずだ。

「お金、足りないの?」

 自分より年下の女の子にそう言われてみろよ。今のお金だってハルカからのおこづかいだぜ? 言えるわけがない。

「冬治君、それで何をするんですか」

「やりたいのあるか?」

 女の子が出来そうな奴は……。

「あ、あれがやりたいです」

「あれ?」

 指差す先には二人で狭い個室に入って写真を撮るあれ、ではなく、普通のクレーンゲームだった。

 俺たち二人が近寄るまでに、一人の男子生徒がプレイ……それを見て思った事があった。

「……あれさ、配置的に取れないかも」

「どうしてですか?」

 ううん、どう伝えたらいいもんか。

「あと、アームがさ、弱そう」

 俺も詳しいわけではない。でも、どう見たって無理そうだ。

「アームですか?」

「いや、何でもない。やってみるといいよ」

 水を注すのはやめておこう。

 硬貨を投入口へ入れて、アキホは気張った様子でクリアケースの中を見守る。

「よし、ここっ」

 熱の入った声がうるさいゲーセンに響く事もない。

 間の抜けた音を鳴らしながら、がばがばゆるゆるのアームが垂れて行く。

「……振動だけでアームがプランプランするのは如何なものか」

 しかし、奇跡は起こるものでアームの脇へ引っかかった何か(この時まで俺は景品を確認していなかった)が上昇していく。

「お、おおう……」

 それはとってもリアルな蛇のぬいぐるみだった。

 ぬいぐるみと言っていいのか、困る程のリアルさで……うろこは奇妙にてらてらしている。

 なになに、近くに書いてある文章には『魔力を感知すると生々しくなります』といった旨が記されている。

 勝手に取りだし口からはい出てきたそれを掴み上げ、隣人へと訊ねる。

「蛇、好きか?」

「……」

 隣を見ると、アキホが固まって動かなかった。

「アキホ?」

「あふぅ……」

「っと……蛇、駄目なのな」

 意外な弱点を見つけた気がした。今度、何かされた時は折角取ったこの蛇のぬいぐるみで何とかしてやろうと思う。

「しょうがないな。気絶しちまったのならもう、ここで遊べないだろうし……よいしょっと」

 力の抜けたアキホを背負い、辺りを見渡す。介抱できるような場所はないし、ここから近い場所だと学園になる。蛇はアキホの首に引っ掛けておいた。

「やれやれ、一回でてきてまた学園行きか」

 部活がそろそろ片づけを始める時間帯だ。学園自体にはまだ入ることはできるだろう。保健室の先生もまだいるだろうし、事情を話せば居させてくれるはずである。

「問題は学園に帰るまでの道のりだな」

 目立つ事、間違いなしだ。このまま背負っていけば誰かにみられた時に厄介が起こる。

「いっそのこと、お姫様だっこで行けば映画の撮影なんかと勘違いしてくれるかもしれない」

 そうと決まればさっさとやらねば。

 ゲーセンから出ることは別に問題じゃなかった。ゲーセンを出たところが商店街の入り口に近い為、人通りの多い時間帯と重なって多いのである。

「畜生、ぜってぇ、お前の夢は俺が叶えてやるからな!」

 臭すぎて腐ったようなセリフを真顔で吐く。心の中で顔面から火を拭きだしておけば大丈夫だ。

 走り抜ける事、数分。女の子といっても、今は物言わぬ肉塊である。

「だー……くそっ」

 あふれ出る汗がとびちって、映画を誰かが撮っていればそれなりに様になっていた事だろう。

 人が多かったものの、やはり、幾人かは何あれ、映画の撮影? 等と言ってくれている。

「ふー……ゴール」

 校庭には比較的人が残っていたとしても、さすがに校舎内に人の気配はない。

「失礼しまーす」

「お」

 保健室の先生は俺たちの格好を見て目を丸くしている。

「映画の撮影?」

「違います。アキホが気絶したんで静かな場所を探してたんです……近いところでゆっくりできる場所は保健室以外無かったんですよ」

「あー、なるほどね」

 そう言うと事情は察しましたみたいな顔をしてくれる。さすが保健室の先生だ。

「子作りの場所を提供するのはどうかと思ったけど、夢川君は居候だったね。さすがに、堂々とは出来ないか」

「違います! 単なる介抱です!」

「え? そうなの?」

「俺にそう言う趣味はありません」

「子作りの趣味が無いって……少子化希望?」

「それもまた違います! 寝ている相手に無理やりってのはちょっと……そう言う事ですよ!」

「じゃあ、大丈夫じゃない」

「はぁ?」

「アキホ、起きてるわよ」

 胸元に引き寄せているアキホへ視線を向けると、ぱっちりとしたおめめがあった。

「あ、起きてたのか……」

「冬治君……」

 うるさく騒いでいたから目がさめちまったのか。

「もうちょっとゆっくり寝かせてやろうかと思ってたんだ。悪いな」

 主に先生が謝ればいいんだ。

「ううん、気にしないで下さい。冬治さん、お話があるんです」

「お話?」

 告白フラグ来たーとか言っている保健室の先生は無視だ。

「はい。もう帰りましょう?」

「あ、ああ……」

 お話って一体何だと聞くと、帰る途中で言うらしい。これまでおちゃらけた雰囲気が消えていた。

 夕焼けを眺めつつ、女の子と一緒に帰っているのは何と無く、青春っぽかった。

「話って何だ?」

「冬治君がわたしの夢をかなえてくれるなんて、想像もしていませんでした」

「……?」

 俺がいつ、アキホの夢を叶えてやろうなんて大それたことを言ったでしょうか。

 言ったんだろうか?

 言ったっけ?

 そういえば……何か言った気がする。

「わたし、気絶している間に呟いたんでしょうかね。でも、冬治君がここまでわたしのことを、その……好きになるなんて想像していませんでしたよ」

「えーと?」

 何だかものすごい勘違いをしているんじゃなかろうか。

「なぁ」

 俺の呼びかけは無視された。

「最後に、確認したいんです。冬治君は魅了の魔法にかかっているわけではないんですよね?」

「あ? 魔法? 効かないんだろ? 試しにかけてみればいいじゃないか」

「わかりました」

 杖を取り出し、俺に向ける。

「がっかり、させないで下さいね」

 それだけ言って、アキホは俺に魔法をかけた。

「どう、ですか?」

「……いつもと変わらないな」

「そうですか。だったら、わたしも覚悟を決めます」

 彼女は杖を戻し、俺の正面に立った。

「冬治君、わたし……家族が欲しいんです」

「家族?」

「はい」

 アキホは右を指差した。

「ん?」

 指差す先には女児と母親が仲良く手をつないで歩いている。

 そうか、お前子どもが欲しかったんだな。遠慮しないで保健室に戻ろう……なんてべたな言葉は言わない。

「わたしと結婚してください、なんてまだ言いません。その代わり、わたしの母親を……」

「見つけてやったら何かくれるのか」

「わたしにあげられるものなんて何もありません。わたしを、あげます」

 あ、そうなの? じゃあ、前払いで保健室に……という事も、言わない。

 ただ……。

「そうか。じゃあ、見つけたら連絡する」

「あの、運んでくれてありがとうございました。まさか、お姫様だっこしてくれるなんて……」

 照れるアキホが可愛くて、何故だか居づらくなった。

「じゃあな」

 俺は返事を聞かずにその場から走り出した。

 これまた安請け合いだとため息をつきながら逃げたと言っていい。


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