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第二十九話:彼の進む道に足場は無い

第二十九話

 ハルカに何かしてやろうと画策して花火大会デート……これも目的に一つ、梯子を欠けるような作業だ。

 あれから考えて、俺は俺なりの結論に至って、ハルカが本当にやりたい事の手伝いをすることにした……ハルカに聞くわけにもいかないので、憶測と独断で自分勝手にやることにした。

 その段階として、まずは花火大会だ。花火は夜見るもんだと思っているので、夕方ぐらいに出ればいい。そう思っていた。

「冬治さん、早くっ!」

「へいへい」

 ま、そう言うわけにもいかなかったようで、ピンクと白の浴衣を着ているハルカに引っ張られていたりする。他にも色々と準備をしたかったものの、アグレッシブなハルカの所為で全部計画がお釈迦である。

「はぁ……物足りない」

「え? 何が?」

 胸に当たる希望とか夢とか……そんな感じだ。

「何でもない。それより、ひっつきすぎじゃないのか?」

「うん? 問題あるの?」

 上目遣いにはいつもと違って強気が消えていた。

「俺はハルカがそれでいいのならいいよ」

「本当?」

 そう言うと更に身体をくっつける。薄着の所為で、その下の感触だとか、温度とかが伝わってきて……こ、これは思ったよりもくるものがある。

 思わず、拳を握りしめてしまいそうだった。

「冬治さん、顔真っ赤」

「き、気のせいだろ? ハルカがくっついているから、体温が上昇しただけだ」

「えへへ……そっか」

「見て、あの子可愛い」

「本当。お兄ちゃんにべったりね」

 お、あっちに胸の大きなお姉ちゃんが二人……うん、すばらしいものだ。

 そして、ハルカは凄い顔をしてその二人を睨んでいた。さっきのとろけるような笑みはどこかへ消えてしまっている。

「……ふん」

 俺の腕を掴んでいた右手を軽く動かす。

 魔力が渦巻いて、二人の女性へ向かっていき……。

「きゃあああっ」

「おおーっ」

 浴衣がめくり上がるほどの風が吹き荒んだ。

「ふふん。妹なんて言うからよ」

 ざまぁみろと言わんばかりの表情だった。

「ハルカ、そう言う力で解決ってのはどうかと思うぞ」

「……冬治さん、右手を握りしめて感動してない?」

「いや、してないぜ」

 あやうく……ハルカ、グッジョブなんていいそうになったよ。

 サムズアップもしてしまいそうになった。

「あんなわかりやすいのがいいんだ?」

「……男って言うのはどんなものにでも反応するもんだ。ほら、な?」

 他の女づれの男どもも右手をグーにして見ていた。既に、先ほどの女性は走って逃げているのに、歓喜に打ちひしがれている。

「ね? 俺だけじゃないだろ」

 せんせー、僕だけが悪いんじゃないんです。あいつも悪いんです。心境はこんな感じ。大丈夫、ハルカは見事に引っかかってくれる。

「男は馬鹿だから」

 まんごーとか、無修正とか、ぎりぎりとか超薄いとか、いい男とか……な。

 ちょっとわかり辛いと思うが、あとはほととか……っと、何でもない。

「マッハパンチ!」

「ぶほっ……やっぱり駄目か?」

 俺はこの後に来るであろう、拳に足蹴りのフルコースを覚悟した。魔力が込められていないだけなら、たかが知れているが魔力が込められていると威力は想像できない。

 ちょっと話がそれるが、この手の闘いが得意な奴は魔力を相手の体の中で膨張させると言う荒技をやってのける。これを金的に喰らうとあら、不思議……サイズ的に悩んでいる其処の君もそそりたつそれに脱帽状態である。

 もっとも、大きくなるのはちょっとの間で、魔力増幅に耐えられなくなって内部から爆発すると言うオチがつく……実に、恐ろしい話である。

「これでチャラにしてあげる。さ、行こう」

「ほっ……」

 心底ほっとしている俺の腕を掴み、ハルカは今再び、最高の笑顔を見せてくれている。

 腕を引かれて向かう先は賽銭箱……適当な硬貨を取り出して一緒に放り投げた。

「うーん……」

「今度はどうした?」

 またハルカの事をからかうお姉ちゃん達が来たのか? パンチラもいいけどさ、パンチの威力と釣り合うかと言われたら微妙だ。

「ま、見る事が出来たらそりゃ見ますがね」

「え、何の事?」

「気にするな。それで、どうしたんだ?」

「……どうしたら効果的に冬治さんのハートを射止める事が出来るかなぁって」

「……」

 そういうのは、本人の前で言わないようにしないといけないだろうに。

 ちょうどいい、はっきりさせたい事がある。花火が打ちあがるまで待っておくとしよう……浴衣の姉ちゃん達をちら見しながら歩くのを忘れないようにな。

「冬治さん、あーん」

 お約束と言っていいたこ焼きを持って俺に差し出していた。

「あー……やると思ってたのか?」

 周囲にこちらを見ている人はいないが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

「大丈夫、冬治さん」

「何がだ」

「私はもっと、恥ずかしいから」

 よくよく見てみればものすごく顔を真っ赤にしていた。これは指摘しないほうがよさそうだな。

「あ、あーん」

「あー……げほっ」

「ごめん、ちょっと突っ込みすぎた」

 くそ、笑ってやがる。照れ隠しという事で今回は見逃してやろう。

「締まりない顔してましたよ」

「ふん、今度は俺の番だ」

「え?」

「あーんに返すのは流儀だ」

 たこやきではなく、俺が持っていたフランクフルトを唇前につきだしてやる。

「俺はまだ食べてないから大丈夫だろ?」

「べ、別に間接キスぐらい気にしないから」

「そうかい、じゃあ大人しく口を開けて頬張ってもらおうか?」

「な、何だか意地悪な笑顔をしてるっ」

「くくく、気のせいだよ」

 フランクフルトをちっちゃな口に放り込んでやる。もちろん、ハルカみたいな意地悪はしない。

「ふむっ、何だかいい感じだな」

「……けほっ」

 何だかものすごく表情が……エ……こほん、何を考えているんだ。

 その時、花火がそろそろ始まると言う声が聞こえてきた。騒がしくしていても、そういったもんは耳に入ってくるもんだ。

「冬治さん、いこっ」

 俺からフランクフルトを奪い去ったハルカはすぐさま食べ終えてしまった。もうちょっと味わってくれても良かったんじゃないかな―と思ったり、思わなかったり。

「ほら、早く!」

「ああ」

 腕を引っ張られながら考える。そろそろ、俺も自分から動く必要があるんじゃなかろうか。

 人の数を数えていたら、このまま打ち上げられている花火が終わってしまう。

 ハルカの横顔をずっと見ていたら、それだけで花火は終わってしまう。

 このままだらだらとここに、異世界に居続けていてもいけない気がする。

「うわー……綺麗」

「確かにな」

「私とどっちが綺麗?」

「無論、ハルカだよ」

 そう言うとわき腹に肘が入る。

「いてっ」

「もう、冗談ばっかり」

「雰囲気に流されたんだよ」

「ふ、ふーん、冬治さんもそう言った変な事言うなんて珍しいかも」

 そのまま二人で花火が終わるまで空を眺め続けた。

 終わって人が減り始めてようやく俺たちも動き始める。

 ハルカは自然に俺の腕に抱きついてきて嬉しかった……嬉しかったが、まだここで俺から何かをしていいわけじゃない。

「なぁ」

「ん?」

「話がある。とっても大切な話だ」

「いい話?」

 何かを期待したハルカに、俺は首を振った。

「いんや、全然」

「お小言?」

「俺がハルカに言った事なんてないだろうに……とにもかくにも、ついてきてくれよ」

 そう言って勝手に動きだす。一応、振り返りながら憑いてきているか確認は忘れない。

「あの、さ……浴衣姿の女の子を暗がりに連れてくるなんて……」

 軽蔑と何かを期待するかのようなまなざし。

「崩されるとさ、戻すの面倒なんだけど」

「綺麗なお姉ちゃん達に魔力をぶつけて滅茶苦茶にしたのは一体どこの誰だい」

「他人だから別にいいもん」

 相変わらず自己中心的なところがあるなぁ、おい。

「で、どうなの?」

「違う。全然、違う……まぁ、遠くない話かもしれない」

「え?」

 よくわからないと言った表情に、俺は続ける。

「あのさ、お前って冬治の事が好きなのか?」

「う、うん……うん?」

 暗がりでも微かにある光で頬が朱に染まり、首をかしげるのが見えた。

「ハルカが好きなのは、この世界の冬治だ。俺じゃないんだろ」

「え……」

「俺は誰かの代わりなんて御免だよ。そうだな、たとえそれが異世界の自分だとしてもいやだな……まずはそこのところを聞いておきたい」

 数秒ほど前の何かを期待する表情なんて消え失せている。

 ハルカは唇をかみしめて俺を見ていた。

「わかんない」

「わからない?」

「うん、最近は冬治さんが、冬治さんだから」

 言っている事がよくわからなかった。

「俺が俺?」

「この世界の冬治さんと冬治さんは性格が全く違うから……わかんなくなった。ただ、一緒にいると楽しいよ。それじゃ、駄目なの?」

 まぁ、そう言われて悪い気はしない。

「駄目だ」

「あの、右手を握りしめてるのは何故?」

「これは葛藤しているサインだ……こほん、もう少し詳しく話をしてくれ。よくわからない」

「もう、この世界の冬治さんはここにいない。だから、そんなのわからないよ……これでも、駄目?」

 俺には無い物ねだりはしませんと言っているように聞こえた。ま、実際そうだろう。俺はハルカにとって代わりなのだ。

「……逢えるとしたら?」

「え?」

「この世界の冬治に逢えるとしたら、どうするよ」

「それは……」

 ここで、もしハルカが俺の事を選んでくれるのなら色々してやろうと思った。

「わかんない」

 ただ、ハルカがこういってしまった手前、何かをするわけにもいかなくなった。ちょっとでも脈ありなら、この場で抱きしめてキスの一つでもしようと思っていた……それも、どこか俺の言葉に期待している節があったら出来るわけもない。

「そうか。だったら俺が逢わせてやるよ。この世界の冬治にな」

「嘘……無理だよ」

「無理じゃない。四日だ。四日後、あの空地へ来てほしい。何言いたいか、決めとけよ」

 いいたい事だけいって俺は背中を見せた。

「ちょ、ちょっと! 女の子置いて行く気?」

「何言ってんだ。いつまでもこんなところにいられるかよ。ほら、帰ろうぜ」

 右手を差し出すとハルカは躊躇しながらも掴んだ。

「何だ、俺が置いて行くと思ったのか?」

「う……ちょ、ちょっとだけ」

「するかよ。どの道、同じ家に戻るんだからさ」

「え? まだ居てくれるの?」

「何言ってんだ。そうなったら俺、どこに行けばいいんだよ」

 自慢じゃないが、お小遣いだってハルカからもらってるんだぜ? 俺の財布の中身は合計で三千円とちょいぐらいだ。

 これじゃ、一晩ぐらいが限界で後は野宿だ。

「てっきり研究室に泊るのかと」

「……研究室って言っても単なる教室だからな。学園側が許してくれないだろう」

「ところで、冬治さんが魔法使えるなんて……嘘臭い」

「ま、見てろよ。びっくりさせてやるからよ」

 軽く笑ってくれるかと思ったらものすごく困った顔をされた。

「自分勝手。どうなっても知らない」

「ハルカに言われたくないな」

 俺は何故、この世界に呼ばれたんだろうな。


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