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第二十八話:明日が行う昨日の準備

第二十八話

 ハルカを取るか、マシロを取るか……。

 そんなことはどうでもいい。

「マシローっ……マシロー……うう、何で私が」

「お前のせいだろうがよっ」

 選ぶ事なんていつでもどこでも出来る。

 まず、やるべきことはマシロを探すこと。

 一人で探すよりも、二人で探す方が効率いいしな。

 誰が誰を選ぶとか、そもそも……ハルカは俺のことではなくて、この世界の冬治に未練があるだけなのだ。

「だって、だってこの行為自体が……」

 ハルカの言葉を当然遮る。これ以上、探し人を増やすのは自殺行為だ。

「だってじゃない。話は後だ、マシロを見つけて三人で、だ」

「うう……」

 ハルカはどうやら、俺の事を好きらしい……残念ながら、この世界の俺だろうが。

「人を探せる魔法はないのか」

「何でもかんでも、魔法に頼っちゃ駄目だよ。こういうのは、足で稼がないと」

「ま、そうか」

 先ほどよりはいくらか落ち着いたハルカの言葉に頷いて見せる。完全に納得したわけじゃないぞ? もし、逃げた側が姿を消すような魔法を使っていたらそりゃもう、普通の人間の俺にはどうしようもない。

 かくれんぼのうまいカクラーは、最終的に友達全員に見捨てられて『っかしーなー、一体あいつらはどこを探してるんだよ。はっ、もしや俺がさびしくなって出てきたところを狙ってるんだな!』こんな感じで、勘違いを起こして四時間ばっかり隠れて、かくれんぼが嫌いになるのだ。

 二人で探し続けて、早二十分。未だに成果はない。髪の毛一本、見つけることは出来なかった……逆に、本体を見つけるよりも髪の毛一本を見つける方が難しそうだな。

「ハルカは駅周辺を頼む」

「冬治さんは?」

「俺は手当たり次第に探してみるよ。そうだな……ケータイが無いから……八時間後に落ち合おう」

「かかりすぎでしょ!」

 いや、でもね? 魔法使い相手にかくれんぼなんて本当に洒落になりませんよ。この前、テレビであったかくれんぼなんて透明人間になった魔法使い見つけ出すのに二十時間かかってたし。

「三時間?」

「長い」

「……じゃあ、一時間後にここで落ち合おう。話は、それからだぞ」

「うん、わかった」

 まっすぐな瞳でマシロを探し始めるハルカに安堵し、俺も心当たりへ向けて走り出すのであった。

 結論から言おう、八時間も探す必要はなかった。三時間なんて必要ない。

 十分と、四十五秒あれば充分だった。

「マシロ」

「冬治さん……」

 マシロが居た場所は学園の、この世界の冬治の研究室。

「かくれんぼだったら俺の勝ちだな。俺ならあと、四時間は耐えていたよ。さ、帰ろう」

 これまで幾度となく見てきた研究室はそれまでの見た目と異なっていた。背景と成り下がっていた魔法陣は活動を始めたのか、灰色に輝いている。

 眠っていた物が活動を始めた……そんな感じだった。このままここにいるのは非常にまずい、気がする。

「……嫌です」

 その言葉と同時に、魔力がマシロの周辺へ集まりだした。更に、呼応して魔法陣まで光りはじめる。

「何故?」

「わたし、人間じゃなかったんですね。本物の永遠マシロから魔力だけを飛ばした状態の……魔力の塊だったんですね。精霊化なんて大層なものじゃない、魔力が自我を持ったそんなものだったんですね」

「ああ、そうだってな。さ、帰ろう。ここにいるとまずい感じがする」

 手を差し出したら魔力ではじかれた。

「マシロ?」

「馬鹿みたいじゃないですか。何かしらの実験で、記憶が無くなってたと思っていたんです。記憶なんて、なかったんです。ハルカが優しかったのも何かの間違い……あくまで私は、本体の映し身だったんですね。あはは、本当、馬鹿だ……」

 精神不安定状態らしい。魔力がそれに反応してか、本棚からいくつもの本が勝手に飛び出して教室を周り始める。

「ほ、本から文字が……」

 本が自動的に開き、文字が魔法陣へ吸い込まれて行く。

 ついでに、本棚も粗ぶり始めた。

 ものすごーく、嫌な予感しかしなかった。本棚で圧死……そんな文字が浮かんだ。

「あっしが、圧死する」

「え?」

「何でもない。なぁ、マシロ」

「何ですか」

「戻って話すつもりだったんだけどさ、此処で言うよ。俺はお前の事が好きだよ。それじゃ駄目かな?」

 一瞬だけ俺を見つめて、そっぽを向いた。

「だ、駄目です」

「駄目か」

「心がこもってませんっ」

 心がこもってないねぇ……ムードを大切にしろって事か。

 ムードねぇ……うーん、辺りなんて本が乱舞し、文字が踊り狂ってるけど、こんな場所でうまくいくのか?

 それでもやらねばならんのだ。このままここにいると、圧死か、何かしらの魔法に巻き込まれるのは想像に難くない。

「この部屋で過ごした事、ちゃんと覚えてるか……あ、俺とだぜ? この世界の冬治じゃないぞ」

「大丈夫です。覚えてます」

「よし。だったらオーケーだ。お前さん、実験対象だって言っていたけど、あれは何だったんだ。適当なことを言ったのか?」

「いいえ、おぼろげながら、本体の記憶が残っているみたいです……今は、今の私の記憶の方が多いです」

「そうか、だったらこの世界の俺の事、少しはわかるか?」

「……わかりません。ただ、冬治さんを見ていると胸が切なくなります。愛、しているんだと思います」

「そうか」

 そりゃあ、よかった。脈ありってことだな。

「あと、たまに何故だか刺したくなります」

「……そうか」

 マシロが喋っている間に俺は距離を詰めた。

 小さい両肩に手を添えて、顔を近づける。

「マシロ」

「は、はい……」

「俺とずっと一緒にいてくれ」

「……え? じょ、冗談をっ」

「嘘じゃない。この世界の連中は俺をどっかの誰かとかぶせて見ている。その点、マシロは大丈夫だろう? それに、お前と一緒にいると落ち着くんだ。人間でなくたって、マシロがマシロならそれでいい」

 少々臭いかとちょっと思った。

 それでも、マシロを説得できれば何と呼ばれようと別にいい。

「返事が無いけど、やっぱり俺じゃ駄目か」

「そんな事、ありません」

「そっか、だったら抱きしめてもいいか?」

「……はい」

 少々強く、マシロを抱きしめてその耳元で俺は言った。

「早く、ここから出よう」

「は……い?」

 俺とマシロが共に出ようとした時、魔法陣が発動した。

「こ、これは……どうなるんだ?」

「もう、この世界に居たくないと思ったんです」

「え? ということは……」

 元の世界に戻る?

 そう思った瞬間、足元が光った。


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