第二十一話:お似合いの二人
第二十一話
「はい、冬治さん」
「ん? なんだこの茶封筒」
「今月のお小遣い」
「え? いいのかよ……俺、何もしてないだろ?」
「ううん、たまには冬治さんも何か買いたいだろうから。たとえば、私へのプレゼ……」
「ありがとー、んじゃ、ちょっくら遊んでくるわ」
―――――――
召喚されたとしても、いつも召喚主と一緒にいるわけでもない。
俺だってたまには一人で街を歩いたりするわけだ。恥ずかしい話、ハルカからお小遣いももらったからな。たまには異世界で頑張っている自分にご褒美で甘いものでも……と、思ったのである。
「はて?」
街を歩いていて、違和感を覚えた。
近くの電柱が魔力を帯びて光っていたのだ。
「気分は竹取の翁だな」
さすがに電柱を途中から切り落とすわけにもいかない。そういえば、俺の居た世界では電柱地中化計画が行われていたが、今頃日本の電柱は全て埋まってしまったのだろうか。
電柱に触れてみると、中からお姫様が……出るわけもなく、精霊化は起きなくなった。
「んー……?」
靴の事は靴屋へ、魔法の事は魔法使いへ聞くのがベストだろう。
一旦家に帰って、ハルカにその事を訊ねてみた。
「ハルカー……ハルカ?」
近くにいるのに、何だか聞こえていないらしい。恨み事をぶつくさ言っているようだった。
「ハルカってば」
「何? なんだ、冬治さんか」
俺が出て言って、何かあったんだろうか。
「さっき、精霊化が進んでいて、光る電柱を見つけたんだ」
「中からカグヤ姫でも出てきた?」
「マシロー、ハルカがおかしくなった。お医者さん呼んでー……ぐはっ」
最近の女の子は激しいな。まさか拳を鳩尾に喰らわされるとは思わなんだ。
いつもだったら軽くはたく程度で終えてくれるのに、魔力を纏って殴るなんて今日のハルカはご機嫌が斜めすぎる。
「それで、どこ? 案内して」
「ぐぐぐ……了解」
魔法使いやめて拳闘士にでもなればいいんじゃねぇか。ああ、でも拳闘士って拳だけじゃ闘わないよな。
ハルカと一緒に道を歩いていると学園の知り合い達に出会った。
「よぉ、デートか?」
「ええ、そんなぁ……照れるかも」
「はは、冗談。どう見てもハルカと冬治じゃ釣りあわねぇよ。冬治にはアキホみたいな大人っぽいのが似合うしな」
「マッハパンチ!」
「ぐはっ」
茶化すような感じで聞いてきた男子生徒はその場に崩れ落ちた。
軽く引いている大人しそうな男子生徒へとハルカは視線を向ける。
「仲良く買い物か?」
「うんうん、悪くない感じ」
「あ、でも冬治くんはマシロさんとこの前買い物に言ってたもんね。どっちかというとマシロさんと仲がいい感じが……」
「チャアアジッ、パンチ!」
と、言いつつ蹴りあげで顎を穿った。
「魔法って怖いな」
罪もない人々が道に倒れている。
「魔法は手段だから。いい事にも悪い事にもなるの。私はみんなが幸せになってくれるために魔法を使いたい」
凄く爽やかな笑顔のくせに、言っていることは正しそうなのに……何だろう、このうそくさい雰囲気は。
「さ、仕事仕事。速く案内してよ」
「へいへい……しかし、何で殴り飛ばしたのかね」
あれかね、照れ隠し? しかし、迷いがなかったいいパンチだった。
「ああ、ここ」
先ほど、電柱を見かけた場所へ戻ってくる。
「……」
眼鏡を取り出し、装着すると電柱に杖をかざしたりしている。
「あれで何かわかるのかねぇ」
調査を始めたハルカを傍で眺めているとさっきブッ飛ばされていた男子生徒達がやってきた。
「いててて……」
「いい、パンチだった……もっと、殴られたいかも」
「どうだ、冬治。これから一緒に遊びに行かないか?」
「うん、たまにはどうだい? いつもハルカさんと一緒にいるじゃないか」
このままハルカを見ていてもいいかもしれないが、たまには友達と遊ぶのも悪くないかもしれない。
「なぁ、ハルカ……遊んで来ていいか?」
こっちの世界でも友達はそれなりに出来たからな。いつかはあちらの世界へ戻るかもしれない……それでも、友達と一緒に遊んだ記憶は消えないはずだ。
だから、俺はその記憶を増やしたい。
「いってもいいよ」
そして、ハルカも話せばわかるいい子なんだ。たとえ機嫌が悪くても、切り替えとかいいはず。
「あ、そうなの? じゃあ、行って来……」
「私を、倒せたらね。殴り合いとか」
「おいおい、俺らに女の子を殴る趣味なんてないぞ」
「そうだ。殴られる趣味はあるがな」
「そうだよ」
もうちょっと普通の友達が欲しかった。
「へぇ、女の子を大切にしてるみたいな発言だけどさ、女の子残して遊びに行くんだ?」
何で今日のハルカ、こんなに不機嫌なの。
「何かハルカの機嫌が悪いな」
「あの日、なんじゃないのかな?」
「風に漂いし、小さき者よ! 徒党を組みして吹き飛ばせ!」
「ぐらばーっ」
したり顔をした男子生徒は風の魔法で吹き飛んだ。
「……私は、本気だよ?」
右手を拳銃のようにして俺へと向けていた。
「いい度胸じゃねぇか。召喚魔法が得意と言えど、防衛魔法でそこそこの実力を持つ只野親友様を……」
「地に埋もれし、死せる土よ! 竜と成りて蹂躙せよ!」
地面が揺れ、大気が震え、電柱がへし折れて……地面に魔法陣が形成されていく。水分を含んだ泥は静かな唸りを挙げて、魔法陣を吹き飛ばして茶色い竜を作りあげた。
「冬治、悪いけど……おれ、用事を思い出したわ」
「あ、ああ、俺もハルカの調査を待っておくよ。一応、あっちでのびてるあいつも連れて帰ってやって」
「わかった」
通行人が少ない事が幸いした。いや、マジで。
調査を終えてもハルカの機嫌は直らない。
「なぁ、本当に今日はどうしたんだよ」
「ふんっ、知らない」
「……」
ぷいっとそっぽを向く怒りんぼさんにどう声をかけたらいいのかさっぱりだった。何かいい物はないかとポケットへ手を突っ込むと、折れている茶封筒が姿を現す。
「ハルカ」
先を歩くハルカの隣に並び、その手を握った。
「何」
「ちょっと来てくれ」
ハルカの手をとって、俺は歩き続けた。
てっきり、振りほどかれるかと思って繋いだ手はそのまま維持されている。
「ここだ」
「ここは……ののの屋?」
「そうだ。中へ入ろう」
クレープやらどら焼きやら、甘いものが置いてある甘味処だ。
「俺の元居た世界にもののの屋はあったんだ。まぁ、こっちほど立派じゃなかったがね」
クレープを頼んで、席に腰掛ける。
「そういえば、こうやってハルカと話した事は無かったな」
「……他の女の子とはあるんでしょうに」
「何ぶーたれてるんだ。無いよ」
こっちの世界じゃな。
「ハルカ。俺、ちょっとハルカに聞きたい事があるんだ」
「何」
今ここで話すべき事かどうかはわからなかったが、特に話題もない。黙っているのは非常に悪い気がしてならない。
「何で俺をこの世界に召喚したんだ?」
何度か聞いたことあるけれど、今一つ納得した解答が(そもそも、適当にあしらわれていたりする)得られなかったので聞いてみる。
そう言うとハルカはようやく俺を見てくれた。
「……したかったから」
「え」
「冬治さんを召喚したかったから。それじゃ駄目?」
それ以上、聞いたらブッ飛ばすぞという雰囲気が伝わってきたので俺は紳士的に頷いておいた。
「そ、そうか。だったら今日はこれ以上聞かないよ」
「うん、よろしい。何度も聞いてるよね」
「まぁな。やっぱり、気になるだろ?」
よくわからないが、このやり取りでハルカは機嫌が良くなったらしい。
帰り道、俺の手を掴んで引っ張り始めていた。
「冬治さんは……」
「ん?」
「私に召喚されて嫌だった?」
「んー……さぁ。よくわからないね。でも、まぁ、いいんじゃないの」
「パンチ!」
軽い拳が俺の腹へと当てられる。
「そこは悶えるぐらい嬉しかったって言ってほしいな。あ、痙攣しながらでもいいよ?」
「……どんな変態だよ」
異世界のコミュニケーションって難しいもんだねぇ。
ハルカに手を引かれながら、そういえばハルカとはあまり遊びに行かない事に気づいたりしていた。一緒にいる事が多いと言っても、それはあくまでハルカの監督責任的な事があるからだ。
たまには何処かへ遊びに誘うのも悪くないかもしれない。




