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第二十話:白を願うもの

第二十話

 マシロをどうにかしてやりたかったが、どうにかする程の能力を有していない俺は……まぁ、当然ながら力のある人をすがるわけである。

 ここに来た頃なら、諦めていた事だろう。しかし、俺から諦めると言う選択肢は消えた。

 マシロにしてやれることは全部、してやろう。それが俺の今の心境だ。

「というわけで、今日も本を漁ろう」

 ここの本を漁り続けて何かわかるのか。最近分かった事と言えば、魔力と人間の体をわける方法だ。追いやられるようにして左の端の方へまとめられた物がこれに関する物ばかりだった。

 この方法はとても危険で、なおかつ魔力を供給できない体、つまりは魔法が使えなくなる事を意味している。

 世界に二人、同じ人物が存在することになる。

「……なるほどねぇ」

「どうしたの?」

「ん、いや……俺が魔法を使えればね、こうやってマシロを助けられるんじゃないかなって」

「え」

 ものすごく、驚いた顔をされる。

「何だよ、そんなにおかしな事を言ったか?」

「う、うん。すごくおかしいです」

 魔法が使えない人間が何を言っているんだと思っているのだろうか。

「……別にさ、魔法が使える前提で話してるだけだぞ。俺だって魔法が使えれば、マシロを助けることぐらいわけないさ」

「本当ですか?」

「ああ、何だってしてやるさ」

 多分、ここまでマシロのために尽くすのは、俺がマシロの事を……ま、この気持ちは追々確認していけばいい。

「あ、ありがとうございます」

「いつも世話になっているからな……ま、出来ない絵空事の話はこのくらいにしておくか」

 俺がやるべきことはどうせ現実的に不可能である。何せ、元の世界に戻る必要性があるんだからな。

「マシロ、そろそろ昼にしようぜ」

「あ、うん」

 何だか元気のないマシロだったが、そんなことはお構いなしに俺は研究室の扉を開けて学食へと向かった。

 結構な数の生徒の喧騒に包まれながらも、俺とマシロは二人分の席を確保する。

 そんな俺達を生徒達が見ていた。

 中には見知った顔もあって、そんな連中に俺はフォークを振りまわす。

「なんだ、お前ら。昼飯ならやらんぞ」

「違う違う。そんなんじゃねぇよ」

 にやにやと見つめてきやがって、男に見られて興奮する人間じゃねぇよ……まぁ、女に見られて興奮する人間でもないんだが。

 連中はひとしきり俺達を見て行くと去っていった。

「何なんだ、あいつらは……ったく、あ、もしかしてこの世界はフォークを使ったら笑われるような習慣があるのか?」

 あるにはあるが、この世界はフォークを侮蔑するスプーン……いや、匙部隊の手によって制圧されているのでは?

「ううん、そんなことはないですよ」

「だろうな。突き刺して食べるのは幼児だって知ってるさ」

 こればっかりは人間がどんな進化を続けていようが変わらず人と共に歩むべき技術(?)である。

「フォークは大きくなったら武器にもなるしな」

「それに虫歯菌も持ってますよね」

 そういえば最近、虫歯菌を見ていない気がする。あいつらはすたれてきたと思うと何かしらに形を変えて世にはびこるからな。

 小学生のころ、俺の通っていた小学校では廊下によく『寝る前には歯を磨こう』といったポスターが見受けられた。

 この歳になっても、美術部がせっせとこしらえているようで立派な……本当に立派な、写真と見間違うような口内の様子や、進行した虫歯のグロテスクな姿もばっちりである。

「……これ、食事前とかに見たら食欲なくすだろうなぁ」

「気持ちが悪い絵ですね」

 俺の隣に寄りそう形で、マシロと共にポスターを眺める。軽くドキドキしてしまうのはしょうがない話さ。

 そんな俺達を、これまた別の男子生徒達がニヤニヤしながら歩き去っていく。

「気持ち悪い連中だ」

「……」

 マシロの表情は少し、暗かった。

「なぁ、マシロ」

「何でしょうか」

「昼から出かけよう」

 俺はこの世界に召喚されてきたので、授業なんて出ても出なくてもいい(教師陣は異世界にも魔法を伝えるのだとやる気満々であるが)。マシロも特別扱いで出なくていいそうだ。

「え、でも……」

「俺とじゃ、嫌か?」

 悪戯心で顔を覗き込むようにして言うとマシロは頬を染めていた。

 ちょっと近すぎたか。つい、俺まで顔が火照ってきた。

「わかりました」

 マシロを引き連れ、とりあえず手近な繁華街へと向かう事にした。

「……」

 俺の右手を掴んで歩く姿は中々に可愛らしい。頬をちょっと染めているところもグッドだ。少々、強引に連れ出してしまったと思ったが、悪くない反応である。

「こういう事なんだと思います」

「こういう事?」

 さて、これからどこへ行こうかというところでマシロが話し始める。

「わたしと、冬治さんが……こういう関係だと」

 何だかものすごく大切な事を言っているようだ。顔なんて、さっきまでのピンク色が……嘘のように真っ赤になっていた。

 マシロの顔をまともに見る事が出来ない。今見たら、間違いなく顔を真っ赤にしてしまう。

「……マシロが嫌じゃないのなら、いいんじゃないのか? こうしていたいと思うのならそうしていればいい。好きなだけ」

「え?」

 ただ、一つ聞きたい事があった。

 一緒にあの研究室という名の図書室にこもり続けてわかった事だ。

「それは俺に対して、じゃなくてこの世界の冬治に対しての気持ちなんじゃないのかい」

「……正直、わからないんです。記憶が曖昧で」

 何度か聞いたフレーズに首をかしげるしかなかった。

「記憶が曖昧って……精霊化が進むと記憶も無くなるのか?」

「そんなことは聞いた事がありません。はっきりと覚えているのは少し前、冬治さんがこの世界にやってくる数日前にあの部屋でこの世界の冬治、さんと……こうやって……」

 俺と向かいあい、両肩に手を置いた。俺より身長の低いマシロは顔を近づけてくる。

「お、おい……」

「思いだしそうです。このまま、いいですか?」

 いいよ。

 いや、よくないだろ。たとえ、ああ、触れてみたいなとおもってしまうけども、だ。

「……」

 その近づいてくるマシロの顔を避ける事すら出来ない俺は脳内でこれまでマシロと過ごした日々が……あれ? ただ一緒に生活していただけのような気がするぞ。何か特別な事をマシロにしてやれたっけ。



「兄妹で、そういうことするんだ?」



 俺とマシロがキスをする一歩手前で、そんな声が聞こえてきた。

 ただ、マシロの行為を抑えるだけの声音と、現実に引き戻すだけの力はまちがいなくあったのだ。

「ハルカ」

「……」

 俺とマシロの前に、櫻井ハルカが立っていた。


みなさんのおかげで二十話到達出来ましたー……。さて、二十話ですね。折り返し地点です。つまんねぇなと思っている人もきっとこれから面白くなると思ってくれているでしょう。期待にこたえることはできませんが、そこそこ頑張ります。

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