第一話:櫻井のいる世界
第一話
俺の名前は夢川冬治。花も恥じらう受験生(既に受験終了)である。
近辺に佇む羽津大学への進学を夢見て、この一年間頑張ってきた。まぁ、ちょいと非日常な事にも足を突っ込んだりしていたが、それもおしまいだ。
さよなら非日常、こんにちは日常。
俺の人生は俺が決める。
他人のトロッコを奪い取ってでも、安定とか安寧とか、公務員とかとりあえず一般的な幸せを手に入れたいのだ。親のレールに乗りたくないと思っている其処の君、乗れ、乗っておくんだ! 降りるのなんていつだって出来るんだから。
途中下車より、動いている電車やトロッコに乗り込む事が出来るのはごく一部の人間たちだからな。
「目指せ、一戸建てマイホーム」
子どもは頑張って三人ぐらいだな……うん、大学に入れば普通ぐらいの女性と知り合えるだろうし、それを信じて生きるのみである。
そうやって頑張ってきたのだ。
時には友達と馬鹿をやって、模試の結果に一喜一憂し、先生におべっかを使って内申点をさりげなく上げてきた。
そんな地味な苦労も今日報われるはずだ。色々と苦労してきた俺も……ようやく日の目が浴びられるんじゃないかな。
まだまだ寒い合格発表の日の朝、いつものように朝食を作って朝の日課であるトイレでの瞑想を行った時のことである。
「ん」
一瞬だけの浮遊感。その後に襲ってくる下半身の寒さ……まるで外にいるみたいだった。
静かに目を開け、辺りを見渡す。温かいものの、何処か寒い。まだ少し早い春が来たような感覚に襲われた。
俺の目の前を、綺麗な桜の花びらが通過していく。
「え?」
信じられず、さらにその先を見やる。既に周りは俺の知っている場所じゃなかったのだ。
「あ……」
目を開ければそこは空き地。広さにしておよそ……スーパー一つ分の広さと思われる。某有名マンガのように土管が三つ置いている事もない、適度に雑草の生えた空き地だった。
空き地と言っても、そんじゃそこらの空き地でないことは俺の足元をみればわかった。
「何だこりゃ」
俺を中心に、みた事もない奇怪な文字が幾重にも円を作っていたのだ。文字が踊り、光っている。絶対、この魔法陣が関係している。
落ち着け、異常事態に遭った時、最後まで生き残っているのは冷静さを忘れない人だ。うん、まずは落ち着こう。
「すー……はぁー……すー、はぁ……」
落ち着いている間に、人が空き地にいるのに気付いた。
「成功したの?」
「は?」
俺の事を見ている薄いピンク色のローブを纏った女の子だ。
少し幼い印象を与える垂れ目、俺の友達が喜びそうな童顔だった。しかし、何処か底意地の悪さを感じられるような子だ。風が冷たいためか、きめ細やかな彼女の頬は少し赤くなっていて、唇は紫色だった。
「うー、さぶっ。そうか、そういや下は解放したまんまだったな」
俺は敢えて堂々とパンツとズボンを上げた。
「あっ……」
あっ……って、何だよ。おい、熱視線送ってんじゃねぇよ。
とりあえずパンツを穿いた俺へと近づいてきて、少女はほほ笑んでいた。
一体、何を言われるのだろう。嫌な予感を覚えながら覚悟を決めることにする。とりあえず、目の前の少女は俺に危害を加えるつもりはなさそうだ。
「あの、冬治さん魔法って知ってる?」
「魔法?」
俺がズボンのベルトを締めるのを見計らって声をかけてきた。ちなみに、俺はチャックを一番最後にあげる派だ。全開のまま歩いてしまうリスクはあるが、最後にチャックをあげることで亀さんを挟む恐れが無いのである。
これは挟んだ事のある男にしかわかるまい。思わず『ふおっ』と言ってしまうような痛みなのだ。
「冬治さん?」
ぼーっとしていた俺に少女は更に歩み寄ってきた。
「何であんたが俺の名前を知ってるんだ?」
「知ってるよ。だって私は……」
少女は其処まで言って笑った。
「それで、魔法って知ってる? 使えるかな?」
遠慮なく近づいてきた少女に俺は困惑気味に応えるしかない。
「いや、使えないにきまってるだろ。ゲームの話か? 生憎こちとら受験生なんだ。ゲームなんて一日一時間しかしてないぜ」
ゲームも酒と一緒である……何事も適度が一番なのだ。まぁ、酒は飲んだ事ないが。たまには息抜きも必要なのである。なぁに、むちゃんこ難しい大学に入ろうとしていたわけじゃないんだし、ゲームしつつ学業の両立なんてちょろいちょろい。
大事なのはメリハリ。一日中勉強しているよりも適度に息を抜かなければ人間、集中力が切れるのだ。人間の集中力なんて大体九十分そこらだろうよ。
「ま、とりあえず魔法は知っているけれども使えないよ」
「そうなんだぁ」
にやけた表情で悪だくみしてそうな少女は何者だろう。
垂れ眼気味の可愛い少女(胸はちょいと物足りないが)ってのはわかった。
「で、あんたは一体何なんだ?」
「私? 私の名前は櫻井ハルカ。羽津魔法学園の一年生! 召喚魔法のエキスパートだよ!」
「羽津……魔法学園ねぇ」
吸血鬼や狼男に会ったことはある。しかし、魔法使いなんて初めてだ。
「魔法使いっぽいでしょ?」
改めて言われてみれば、魔法使いの姿に見えなくもない。あくまで、見た目だけの話だがね。
それこそ、見た目魔法使いならテレビや漫画でよく見かけていたしなぁ。
「あんたの名前はよくわかった。それで、ここはどこだ? 箱根?」
何と無く出ただけだ。深い意味はない。
「ここは冬治さんにとって別世界なの……って、わかる?」
「別世界だぁ?」
どこら辺が? 車だって通っているし、マンションだって見える。空には小鳥さんが飛んでいるし、どこまでも澄み切った青空にドラゴンが飛んでいるわけもない。
俺の想像している別世界とはかなりかけ離れた光景だ。
「そう、私が召喚しちゃった」
しょうかん、と聞くと償還なんて言葉が脳裏をよぎった。いかん、勉強疲れか。
「これが夢だったらいいなぁ」
目が覚めて、天井があったらそれは夢。でも、瞬きしたって広がるのは青い空だ。泣けてくる。
「残念、現実」
「俺さ、今日は羽津大学の合格発表なんだよね。そろそろ戻してくれ」
こっちの世界に滞在したまま、時間が経過するのか、それともトイレに戻ったら元の時間に戻れるのかは定かではない。
「人間を召喚するなんて中々凄い事なんだよ? 他の人は出来て無機物ぐらいだもん」
年相応の胸をそらした少女に俺はため息をついた。どこの世界にも、人の話を聞かないやつはいるもんだね。
ついでに、表面上は賛美を送るような表情をして言う。
「あー、そうなの。凄い凄い……ところで、いつ返してくれるんだ? 召喚魔法のエキスパートなんだろ?」
「うん、召喚魔法はエキスパートだよ……元の世界に戻す方法はわからないけど」
「駄目じゃねぇか!」
寒空の下、チャック全開という事を忘れて俺は吠えるのだった。
そんな俺の叫びに呼応してか、桜が綺麗に飛んでいく。
知っている人は知っている、知らない人は知らない作者、雨月です。実力的に野球でいうところの7番打者ぐらい、サッカーでいうところのベンチ暖め係ってところでしょうか。私の目標はこの小説を読んでいただいた人の暇つぶしになれば完遂です。それ以上は期待しますが、望みません。王子様を夢見る女性は多いんです。いいんです、白馬の王子様を夢見たって。しかし、やはり王子様も可愛いお姫様から順番に選んでいきます。それと、同じ。面白い文章から選ばれていくんです。ええ、世の中ってのはそういうもんです。お山の大将が一番なんですよ。井の中の蛙が、ベストポジションです。私が文を書き始めたのはいつのころだったか……始めたころは読んでくれた人を幸せに出来れば、面白いと、楽しいと言ってもらえればそれでよかったものです。今でも面白いと楽しいと言ってもらえればそれはそれで嬉しのですがね。もっと練り込んで投稿したかったのですがどうせリスタートでやるし……適当でいいか……なんて、口が裂けても言えるわけがありません。この小説は最初こそ繋がっているようですが途中から一話、二話、三話、四話でヒロインを交代していくので話がてんでばらばらになっていきます。そこのところを気をつけていただければいいかなーと。あとは誤字脱字報告していただければ嬉しいです。以上、あとがきでした。




