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第十八話:尾行の備考

第十八話

 只野親友と一緒に、おしゃれなカフェでお茶をしている。

「なぁ、親友」

「何だい、冬治」

「何で、ちらほら、名前が片仮名じゃない奴がいるんだ」

 最初は只野チカトモだとおもっていたのに、親友と書いてチカトモと呼ぶそうだ。

「あー、それか。祖先が異なる世界からやってきたもの……つまり、今の冬治の子孫が基本的に漢字を使うかな」

「ふーん……」

「他にまだあるかい?」

 ああ、あるさ。

「俺とお前が何でこんな小奇麗な場所でお茶してるんだ」

「男同士で喫茶店に入るのも悪くないだろう?」

「まぁ、そうだが……だがな、何故カップルジュースをすすっているんだっ」

 ストローが二人の愛を具現化したかのようにハートを作っている。

 愛を語りあう恋人の距離で飲むこのジュースは男二人では辛すぎるっ……何の罰ゲームだよっ。

「そりゃあ、あれだね、隠れているためさ」

「さっきから周りの視線が痛いぜ」

 ひそひそとささやかれる声はどれもこれも好意的なものじゃあない。

 いや、まぁ、中にはそう言うのがいいっていう人もいるけどさ? おい、其処の女子二人組っ、こっちをみて脳内で変なことを考えるんじゃねぇよ。

「なぁに、その視線の痛みがいずれ快楽に……ん、来たよ、ターゲットだ」

「なーんで、こんな事になったんだか」

 話は少し前にさかのぼる。

「今度さ、ナツキと誰かがデートするらしい」

「は?」

 一日前、親友がそんな事を言ってきた。

「それで?」

「偵察に行こう」

「何故に」

「冬治だって気になるだろう? おっと、村には嫁や子どもをわんさか残して出てきたってクチかい? 毎晩毎晩、運動なんて性がでるねぇ」

 盛るねぇ……その顔面に消しゴムをこすりつけてやりたい。ついでに、消しゴムで頭の中も消し去ってはくれまいか。一度、頭の中をリセットして再教育を施さないといけないだろう。誤字、ちゃんと修正しとけよ。

「違うわい。こっちには無理やり召喚されてきた。しがらみなんざあっちに残っちゃいないよ」

 家族は心配しているかもしれな……ああ、俺ん家、滅多に両親帰って来ないや。多分、正月にならないと俺が不在だって気付かないぞ。海外に行ったきりである。手紙が一方的に送りつけられるので、生きているのは確かだが……連絡をとろうにも、携帯電話も持ってないしな。

 携帯電話すら、こちらに持ってきていないし……持っていたとしても連絡のしようがない。

「トイレに携帯電話なんてもっていかないからなぁ……そんで、トイレの中で召喚されたんだ」

「そう、それで君はナツキに出会った。助けられたと言っていたね?」

「まぁな。結構助けてもらってるよ」

 ドラゴンに襲われた時、助けてもらい、クラスメート達から襲われた時も助けてもらった。それに、ノートを貸してくれたり、俺がクラスから孤立しないように積極的に話しかけてくれている。

 休日もどうかすると遊びに誘ってくれるいい奴だ。

「そんないい娘さんがどっかのスケコマシのクズみたいな人間に騙されていたら……どうする?」

「何故、そこで俺を見るんだ」

 すごい、責めている表情だ。

「気のせいだ。それで、どう思う?」

「……お世話になっているからな。事前にそういう男だと分かれば忠告するさ」

「だろう? だったら、行動あるのみだ」

 というわけで今に至るのである。

「なるほど……ナツキは相変わらずマッチョに好かれるなぁ」

 感慨深げに少し離れた先に座るカップル二人を見やっていた。

「体育教師に見える」

「うん、だな」

 どう見ても中年男性だ。やけに親しげに話している。

「エンコー?」

「……すげぇ危ない響きだ。しかし、あれは……」

 何だか違う気もする。

 中年男性はやたらくねくねとした印象を受けるし、親しげとは言っても、どこか事務的な会話だ。

「あ、席をたつ……どうする?」

 決断は俺に任せてくれるらしい。

 そして、奴の右手が静かに動く。お会計も俺に任せるつもりらしい。

「追いかけるか」

「いい返事だよ。さぁ、行こう」

 満足そうに頷いた親友へ、俺は笑った。

「というわけで、俺が先に行く。お会計は頼んだ」

「やれやれ、そんなに気になるのかい」

「お前が誘ったんだろ。じゃ先に行くからな」

 全くしょうがないなと財布を持ってレジへと向かってくれた。俺はナツキ達の追うのだった。

 追うと言ってもストーカーとか、探偵とか本場の人達ほどうまくはない。他人を尾行した事なんて両手で数えられる程度だ。

 最近はどっちかというと追われる身だ。誰かの視線を感じた時、それは気のせいじゃないからな……物陰にはマジで気をつけるようになったよ。

 歩き始めて五分たったところで親友も追い付いてきた。

「親しげだなぁ」

「ああ」

 腕こそ組まずに歩いているが、その親密さはおそらくマックス。素晴らしい程の連係プレーを見せてくれそうだ。何の連係プレイかはしらないが。

「お、映画か」

「ああ、デートの定番だ」

 昼食の後、映画なんて定番じゃあないか。しかも、暗がりで男女二人……歳の差があるときたもんだ。

 それでも、その姿はどこか緊張していて……何かを探しているようにも見える。

「入るんだろう?」

「当然だ」

 財布を確認して、お金を確認する。無駄遣いは出来ないからな、ここは慎重に使わないと。

「冬治と映画かぁ」

「親友と映画ねぇ」

 ここにきて追跡者二人で顔を見合わせる。たとえ、カップルジュースを飲んだ間柄だったとしてもだ。

「おれもね、あんまり男と二人で暗い所に行きたくない」

 この前なんて魔法を使って手篭めにしようとする悪人が出たんだと騒ぎ始める。

「その意見に俺も賛成だ。俺は入り口側を張ってるから親友は出口側を見ていてくれ」

「そうしよう」

 一体何を見るのか、最近やっているのは……と、言ってもこちらの世界の映画が俺の元居た世界と違うものかもしれない。

 異世界の映画なんて肌にあうかしらんとみていると……二人はアクション映画を選んでいる。

「これ、魔法を多用してすげぇ事になってるらしいぜ」

「……なるほど、魔法って日常にやっぱりなじんでいるもんなんだな」

 俺の呟きは行きかう人々の雑音でかき消された。

 さて、実際に映画が始まってみるとこれはこれで面白い代物だった。普通に二時間見てしまい、魔法ってすげぇんだなぁと実感させられる。

 主役もはまり役で、問題点があるとすればヒロインが残念すぎたぐらいだろう。

「普通だったな」

 親友の言葉に俺は首をすくめる。

「そうか? 俺は面白かったよ。映画なんて滅多に見ないからな」

 映画館から出て行く二人の後を追いかけて、雑踏へと紛れる。

「しかし、魔法は凄いな。変身できるなんてな」

「あれはトランスって魔法だよ。中々出来ない事だし、魔力を結構取りこんじまうからね」

 一般人がやるような魔法じゃない。そういって親友は歩き続ける。

「ところでさ、この先にあるのはデパートだったよな?」

「ああ」

 じゃあ、二人の次なる目的地はデパートだ。そう思っていたら……曲がり角から先に二人ともいなかった。

「消えたな」

「だな……まかれたか?」

 一体どうしたものか。先に進むのも憚られるので俺たちは後ろを振り返る。

「やぁ」

 そこにいたのはさっきの体育教師っぽいおっさんだった。

「君達、僕達の事をつけていたみたいだけれど?」

「さぁ」

「何のことやら」

「とぼけようたって、そうはいかない」

 両手の腕は魔法か何かのせいで丸太みたいに太くなっている。

「これもトランスって魔法か?」

「い、いや、これは筋力増強系の魔法だ。おい、逃げよう、冬治!」

「え、何で逃げる必要があるんだよ?」

「こんな剛腕に勝てると思ってるのかよっ!」

 叫ぶ親友に俺は笑って言ってやった。何、俺は魔法使えないが、魔法使える奴はいるからな。

「お前、言ってたじゃん。俺は学園一の剛腕ですって」

「ほぉ」

「無茶すぎだろっ……」

「親友、男が逃げていいって思ってるのか?」

「う、それは……」

「背中を見せていいのかよっ」

「だめだけどさ、勝てない相手に逢った時は……」

「せめて、一矢報いる。そうだろう?」

 にやっと笑ってみせると覚悟を決めたらしい。いい表情をするようになった。

「ええいっ、どうとでもなれーっ!」

 親友は杖を取り出すと自分へと振る。

「ほぉああああああああああああっ」

 渦巻く魔力はそのまま親友の腕へと吸い込まれて両腕の長い(二メートル程)何かになった。

「腕の太さじゃ負けるが、リーチで勝ってみせる」

「がんばれ、親友!」

 これは、いけるかもしれん。

 俺の淡い期待を親友へ託す。

 そして、一分後。

「ぐほあっ」

「よわっ……いや、一分もっただけでも僥倖って奴か。っと、俺、ナイスキャッチ」

 飛んできた親友を受け止め、逃げの態勢へと入る。逃げ道なんてわからない為、そのまま大通りへと抜けて人ごみに紛れるのだった。


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