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第十七話:自称紳士

Q:大切なパンツを護るためにはどうすればよいか?

第十七話

 俺は櫻井ハルカの家に居候させてもらっている。理由は簡単だ。俺が他の世界の住人の為、この世界には住居が無い。

 異世界に行こうどこへ行こうと住居って言う物は必要だからな。衣食住、これはどこに行っても人間にとって憑き纏う事柄なのである。

 つまり、あまり立場が悪くなる事をしでかすと(覗き、セクハラ、彼女の行動に対する何かしらの否定)おそらく、この家から叩き出されると思われる。

 だがそこは安心してほしい。とりあえず優等生を目指していた俺がそんなやらしいことや他人を否定するような事をするわけがない。ましてや、嘘をつくなんてあり得ないのである。

「……冬治さん、パンツを出して」

「え?」

 右手を俺に差し出して、何かを要求している人物こそ、俺をこの世界に召喚した櫻井ハルカだ。

「何の話だ?」

「干していたパンツが無くなってる! 絶対、冬治さんが犯人! お気に入りだったのに!」

「はぁ? 俺にパンツを盗む趣味はないよ」

 他人の趣味は否定しない……しないけど、やっていい事と悪い事の区別ぐらいわかっているつもりだ。

 そもそも、気になる女性の下着ならいざ知らず、こんなちんちくりんのパンツなんて変態さんしか盗まんよ、ぷぷっ。

「あーっ、今何か失礼なことを考えたでしょ?」

「考えてない考えてない」

 目の前の憤慨したちんちくりんさんにどう説得したものか考える。

 よし、ここは敢えて変態性を強調して説得してみるか。

「ハルカ、俺があんたのパンツを盗む……本当に思っているのか?」

「え? そりゃあ、うん。盗むでしょ?」

 ここで俺はわかっちゃいないとため息をついて見せる。

「ハルカは俺のパンツが欲しいか?」

「あり得ない! 汚いし! シャツはともかく、パンツは……ちょっと無理!」

 顔を真っ赤にしてハルカは答える。ここで頷かれたら反応に困っていたがこれは当然の結果である。つーか、シャツはともかくってどういう意味だ。

 其処に突っ込んでいては話が進まないので、シャツの件はスル―だ。

「そう、それだ。気になるあの子のパンツならわからんがな、ハルカのパンツも汚い。よって、俺もハルカのパンツを盗まない」

「き、汚くないもん。清潔だもん。洗濯して、干していた奴だもん!」

「ま、何にせよ俺にその趣味はないよ」

 今後開花するかもしれないが、今のところ俺が犯人ではない。

「……うー、じゃあ、誰が?」

「さぁ? 盗難届でも出したら?」

 しかし、下着が盗まれた場合は動いてくれるのかね。常習性のある物なら、動いてくれるかもしれないけれど……一つだけ盗まれたようだし、勘違いの可能性だってある。いや、待て、こういう犯罪性の物は最初が肝心だ。

 どうしたものかと、思案するとハルカが何か言っていた。

「……てよ」

「え?」

「犯人捕まえるの、手伝ってよ。そうしたら、冬治さんが犯人じゃないってわかるじゃん!」

「はぁ、まぁ、いいけどさ」

 他にやるべき事もない。最近は調査と称してハルカに連れ回されるだけだったし、別にいいだろう。

「さ、行こう」

「ああ」

 ハルカは黒いローブを着こむと俺の手を引いてベランダへと向かった。

 杖をかざし、集中するハルカを見ていると窓からマシロが首を出す。

「何してるの?」

「下着泥棒を捕まえるんだってさ」

 ハトよけ、烏よけのディスクがきらりと光る。あれ、いずれ鳥が慣れちゃうからあまり効果があるとは言えないらしいなぁ。

「下着泥棒……? え、盗まれたの?」

 驚いているマシロをじっと見て、ハルカは首を縦に動かした。

「そう、私は冬治さんが犯人だと思うけど」

「違うってば」

「だから、他に犯人が……む、このベランダに強い魔力反応。やっぱり、魔法か何かで……」

 ぶつくさ呟き始めたハルカを余所に、俺はマシロと話すことにした。

「ハルカのパンツ、誰が盗ったのか見てないか?」

「えーと、それは遠まわしに『黙っておいてくれ』のサイン?」

 どうしてこう、勝手に人を盗人に仕立て上げたいのだろうか。

「そんなわけないだろ」

「じゃあ、何? どういう意味が隠れてるの?」

「隠れてねーよっ。純粋に犯人を、もしくは怪しい奴見なかったかって意味だよ」

「へぇ、乗り気なんだね」

「当たり前だ」

 やるからには手を抜くわけにはいかない。そう言うのが一番悪いし、何よりここは魔法ありの世界だ。

 もしかしたら、大事件に巻き込まれるかもしれない。

「そんなに大事なんだ?」

「まぁな。俺がご機嫌を損ねるわけにもいかないだろうし、何より、自分のパンツが盗られて何に使われるかわからないんだ」

 俺の言葉にマシロは単純に驚いていた。

「凄いね、パンツを守るガーディアン?」

「……格好悪いからそう呼ぶのはやめてくれ」

 パンティーの守護者か……うむ、変態だったら喜ぶ、いや、悦ぶだろうな。

 パンティーを守るならどこに隠すか……おそらく、大抵の紳士が『絶対防衛するために、自分で穿くしかない!』と宣言する事だろう。

「さ、行こう!」

「行こうって……どこへ?」

 気付けばベランダから部屋へと戻ってきたハルカが俺の手を掴む。その目は復讐に燃える人間の瞳だった。

「私のパンツを奪った罪は重いわ。まずは、聞きこみ」

 聞き込みねぇ、先ほど同じ場所に住んでいる人に聞いてみたけど、特に得ることはなかったぞ。

 一緒に家を出て(マシロはお留守番)、とりあえず隣の家のチャイムを鳴らす。

「……留守かな?」

「そうじゃないのか」

「ちょっと覗いてみる」

 両手を伸ばし、ハの字を扉の前に作るのだった。すぐさま小さな魔法陣が形成され、さらに逆回りの魔法陣が出来あがった。

「何の魔法だ?」

「……黙ってて」

 不機嫌そうな声がかえってきて、すぐさま何の魔法かわかった。

「家自体が透明になるとか……マジか」

 柱や扉は魔力を取りこんで半透明のピンク色へと変わっていく。他に何か変わるか……。

「一時的な精霊化の魔法……人間には効かないんだけどね。私のオリジナル」

「ふーん」

 この魔法が全世界の青少年へばれない事を俺は切に願う。すっけすけじゃんかよ。

「ま、出来たとしてもエリートじゃないと無理だろうけど」

「そうか」

 むぅ、これはあれじゃないのか? 制服とかに使用したらすごいことになるんじゃないのか?

「ん?」

 其処で俺は一つの物に気がついた。

「なぁ、あれ……」

「え、何?」

 言留守を使っているのではと勘違いしている魔法使いさんの肩をたたく。

「あれ、ハルカのパンツじゃないのか」

「んー?」

 魔力化の影響を受けてか、パンツは半透明に透き通っていた。ああ、あれが一昔前に流行ったシースルーってやつかね。

 あれ、穿いたら相当エロいだろ。

「そうかも。でも、ちょっと高い場所だね」

 屋根に乗らないと取れない場所だ。マシロならふわっと飛んで、取れるだろうが生憎俺達ではそう簡単に浮かぶことはできない。

「取れる?」

「え、俺?」

「うん。男の子って木登りが上手なイメージがあるもん」

 鳴る程、俺も例に違わず得意だけどさ、周りに木があるときに言おうぜ。

「……この家の人が帰ってきたらどうするんだ」

 透けている家、パンツに手を伸ばす不審な男……アウトだ。

「大丈夫。ささっと取ってくれば何とかなるから。悪い事もばれなきゃ捕まらないでしょ?」

「まぁ、そうだけどよ……本当、足場とか大丈夫かね」

 試しに室外機に足をかけて飛んでみる。

「ほっ……っと」

 何とか屋根の縁を掴む事が出来た。

「ふぬぬぬっ……」

 どうにかこうにか屋根の上へと足をつける事が出来た。

「先祖が忍者だったら今頃楽勝だったのにな」

 魔法があるんだから忍者が居てもいいはずだ。自称でも構わないから忍者と名乗っておこうか。

「っと、あぶねぇ……ぬるぬるしてやがる」

 下らない事は置いておこう。考えを新たにし、さっさとパンツのある場所へと向かう。既に半透明は消えつつあり、パンツも不安定ながら本来の色を確認する事が出来た。

「水色無地か……悪くないな」

 透けってるのは本当に青少年のいたいけな心をくすぐるもんだなー……。

 つまみあげたそれを左右に引っ張ってみた。ふむ、意外と手触りが良い。

「ん?」

「あ……」

 その時、隣の家の窓が開いた。

「冬治さん? 何掴んでんの?」

「え? ああ、ハルカのパンツだよ」

「……」

 間違ったことは言っちゃいない。ただ、時と場合によって、真実は正義をどん底へと叩き落とす。

「さいてーっです!」

「誤解だ。ここは二階だけどな」

 しょうもない冗談を言っているうちに魔力の集束を感じる。

 ハルカのパンツを握りしめ、俺は突如としてやってきた浮遊感に身を任せる以外、選択肢はなかった。

「……はかない終わり方だ……パンツの話だけに……ぐふっ」

 その後、あまりにもマシロが騒ぐもんだからハルカはこのパンツを何故だか俺にくれた。すごく、微妙な気持ちになったのは確かである。


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