第十六話:魔法を望むモノ
第十六話
永遠マシロのここが偉い!
「朝です。起きてください」
「あと五分……起きます」
朝、起こしてくれる。ちなみに、後五分なんて言える余裕はない。迸る魔力を背中に感じれば後五分がいかに危険な時間なのか理解できるだろう。
ちなみに、粘る事が出来たのは初回だけ。それ以降は二十秒たっても起きなければ布団が消し飛ぶのである。体験したんだから、嘘じゃあない。
そして、何もマシロは俺を起こすだけに留まらないのだ。
「今日の晩御飯、おいしい?」
「普通……いや、超、おいしいよ。うん」
そしてここでも魔力を感じることによって普通のできかなと思える料理も倍々効果で美味しく感じる事が出来る。
どのぐらい美味しいかって? 思わず汗が出てくるぐらいのうまさ。
「まぁ、其処まで言うのなら冬治さんが作ればいいんですよ」
「ああ、そうだな」
他人が作ってくれたものに対して文句を言うのも我がまますぎる。というわけで、一度作って二人に食べてもらった。
「如何ですかな? お二人とも。わたくしの世界でよく作っていた肉じゃがという料理ですよ」
貴族を気取ってみたけれど、調べたらこっちの世界にも肉じゃはあったのです。おふくろの味と書かれていて、何と無くほっとしました。
ふと思ったんだけどさ、男がおふくろの味を作ったらどうなるんだろう……おネェの味?
「ずるくない?」
「え、何が」
下らない事を考えていたら変な顔をした二人に睨まれていた。
「男の子が料理できるのはずるい! 顔が不器用じゃん!」
「顔が不器用とか言うなっての!」
ハルカが何やら喚いていた。とっても失礼な言葉だ。
「ったく、二人に話してなかったか? 俺はあっちの世界で大体一人暮らしだったんだよ」
これはこれで、何だか自分の料理の腕が実にすばらしいもの……と、思われていて嫌だな。鼻につくウザさである。
それとなく話を変えるため、俺は瞬時に脳を回転させた。
「えーとだな、この世界の俺は料理出来たのか?」
その言葉で二人とも無表情になってしまった。特に、表情が険しいのはハルカの方だ。
「さぁ、妹が居たから作ってもらってたみたい」
「妹? へぇ、こっちの世界にゃ妹がいるのか。その妹に会って話をしてみたいもんだ」
「どうだろうねぇ。会えないかもよ」
話はこれまでと、ハルカは食べ終わった食器を流し場へと持って行く。
「……なぁ、ハルカってその妹さんと何かあったのか?」
もう一人の同居人へ水を向けるとこちらもまた、少し苦々しい表情になった。
「う、うーん……えっとね、うん、うまく説明できません。記憶が曖昧で」
そう言って箸を進め始める。
「そうかい」
話せないような事なのだろう。だったら、俺が詳しく突っ込んで聞く必要はない。二人に嫌われたらこの家から追い出される事間違いなしだ。どうせなら、このままこの世界からも追い出してもらえばそれはそれで嬉しいんだが。
「マシロ、悪いんだけど今日も資料探しを手伝ってくれないか」
「いいですよ」
俺は今日もマシロを連れて、時間の許す限りあの研究室とやらで資料を探すつもりだ。異世界から元の世界へ戻る事も確かに、必要ではある。
「あれだなー、マシロ」
「はい?」
「最近は魔力ハトが人を襲うんだとか言ってたな」
「ええ、気をつけてくださいね」
そんな下らない会話をしてあるく。
「……」
「……」
目の前の少女が白く透けている事に関して……このまま放っておいて元の世界に帰るのも何だか後味が悪い。
元の世界に戻って、ああ、あの子はどうなったんだろうか。もうちょっと手を尽くせたんじゃないのかと考え込んでしまう……多分。
二人して朝から本棚ばかりの部屋にこもるのも不健康だな。色々な事を考えながら本棚の端から魔力に関する本を探し始める。
「冬治さん、何か聞きたいことは?」
「……魔力に関する事かな」
「ハトですか?」
「いや、ハトの被害はもういいよ」
カラスの勢力がおされぎみらしい。魔力を使用したネットを使ってもそれを破るんだからこっちの世界がハトに支配される日も近いかもしれない。
「より具体的に言うのなら精霊になってしまったらどうやって人間に戻ればいいんだ? 俺が精霊になっちまったらどうやって戻ればいい?」
精霊になりつつある人間に対し、こんな質問をする奴は多分、アホだ。しかし、ここまで言わなければ相手には伝わるまい。
「そうですね……」
俺の真意を計っているのか、いつも距離を置いているようなマシロが近づいてきた。
「多分、この本棚の何処かに答えがあると思います」
「何故そう言えるんだ?」
確かに、かなりの本はある。それでも図書館に比べたら置ける本の量なんてたかが知れている。俺がもしも置くとしたら、本当に必要な分野の本しか置かないと思うね。
「異世界のあなたも、必死になって……探していたと思いますから」
「精霊化についてか……」
やはり、この世界の俺は、精霊化について調べていたんだろう。そして、それはマシロのためだったのではないのか? マシロが実験対象だと言った事もつじつまがあう気がする。
まるで幽霊のように漂い、天井に近い本を取りに行くそのパンツを眺めながら俺は顎に手をやる。
「……白色ねぇ、今どきいないんじゃねぇのか」
あれかね、パンツも精霊化で白色に……あいたっ。
「あ、ごめんなさい」
頭上から降り注いだいくつかの本が俺に直撃し、当たっていたら頭が陥没するような辞書レベルの物まで転がっていた。
「いいってことよ」
パンツを黙って眺めている暇があったら資料を探せと言う事なのだろう。改めてこの研究室に置いてある本を眺めてみると、どれも精霊化についての本ばかりだった事に気付いた。
数冊飛ばし読みをして、ため息をついた。当然ながら、この本を読める魔法使いはかなり高度なことが出来なければ理解はできても、実現させるにはちと、厳しそうだ。
「はぁ……俺が魔法使えればいいのに」
マシロの精霊化を防ぐ魔法を唱えて成功させればいいのにな。
たまには人のために働いたって罰は当たらないだろう。それで当てられたら神様をのろうね。
「なぁ、マシロ」
「何でしょう?」
「杖、もってないのか」
杖さえあれば魔法使いは何でもできそうだ。朝食から夜のお供まで、全部。背中がかゆい時には即席の孫の手になりかわるはずだし。
「杖……は、一応ありますけど」
「貸して」
「これはわたしの身体の一部を和紙で巻いて作ったものだから他人が使ってもあまり効果は期待できませんよ」
杖があれば身体に魔力をとりこまなくてもある程度の魔法が使用できるらしい。
「ああ、知ってるよ。でも、万が一って事があるだろ?」
「それで、魔法を唱えてどうするんですか? 帰るんですか?」
その言葉に俺は首をすくめる。
「まだ学園に来て一時間そこらだぜ? 家に帰っても何もすることないだろう」
そう言うとちょっと笑顔になっていた。
「元の世界に、ですよ」
「いやいや、何だか失敗したらやばそうだし。まずは軽めの魔法を……」
杖を渡され、その和風っぽい手触りに満足しつつ……和風っぽい手触りってどんなのだろう。手ぬぐい?
「この和紙の中身って何が入ってるんだ?」
「髪の毛です。自分の体の一部を入れることによって効果を高める事が出来るんですよ」
魔力の吸い過ぎで先の方が白く透き通っている髪の毛を俺は見やる。
「白いのが入っているのか?」
イメージとしてはピアノ線みたいなものが和紙に包まれているのだろうか。
「まだ、色がはっきりしている頃の物、だそうですよ」
「ふーん……ま、試しにやってみるか」
魔法、魔法ねぇ……。掛け声とか重要だよな? ちんちんぷりぷりだったかな? 何だかちげぇよなぁ。
「魔法、魔法っぽい掛け声……」
とりあえず頭の中で出来あがった言葉を勢いに任せて口にしてみる。
呼吸を整え、自信の体からあふれ出る何かを杖に乗せて、想いを託す。
「きえええええええええええい!」
「ひっ」
「駄目か」
怯えたマシロの姿が在るだけで、其処には何も変わっちゃいなかった。やれやれ、簡単に魔法が使えれば誰でも苦労はしないかな。
俺はため息をつくと同時に、マシロへ杖を返すのであった。
「い、今のは?」
「呪文だ」
マシロの精霊化が止まる魔法を唱えたつもりだった。
「初めて聞きました」
「だろうな。俺もこんなに叫んだのは初めてだ」
どっちかというと、祈祷師? それもちょっと違うか。マシロが幽霊だったら今頃成仏していた事だろう。
「ふー、やっぱり本で何とかするしかないな」
今の俺に出来ることは本を読んで、閃いて……凄い魔法使いにマシロをどうにかしてもらうしか思いつかなかった。
「あのー、冬治さん」
「何だ」
「さっきの魔法、なかなか聞きましたよ」
「……忘れてくれ」
マシロがあまりにも自慢げに言うもんだから、夕食で散々ハルカに馬鹿にされてしまうとは今のこの俺には分かっていない事だった。




