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第十五話:世界が逆立ちしたって無理は無理

第十五話

 こっちの世界で何かとお世話になっている教師の一人、四季先生が俺を呼び出した。ちなみに、学業ではなく、俺の身体に関して……結構防衛魔法を喰らった事があるので治癒してもらったのである。

「失礼しまーす。先生、どうかしたんですか」

 若干お疲れ気味なのはそれだけ防衛魔法を連発するアホが多いためだ。

「うん、夢川君は楠アキホをしっているよね?」

「あ、はぁ……まぁ」

 出来れば会いたくない相手である。知り合いではないと言いきりたい相手である。まぁ、残念なことに俺の事を楠アキホの彼氏だと思う人が増えてしまった。それもこれも、あの一本ねじが緩んでいる男の所為だ。

「ちょっと、ちゃんと話聞いてる?」

「あ、すんません」

「もー、話聞かないのなら次運びこまれてきたとき同じ態度取るからね?」

「いや、それは洒落になりませんって」

 この先生がいなかったら……そう思うと寿命が縮む気がするんだ。例えるのなら、服を着忘れて外で注意されるのと、家の中で注意されるぐらいの違い。

「あたしね、あの子の親戚でさ」

 この後の続きが気になった。

 あ、もしかして俺が仲良くしてくれているのが嬉しいとか、逆にあんまり話しかけないほうがいいとか……そういったことだろう。

「真人間にしてあげて」

「え?」

「だから、あの子を普通の女の子にしてあげて。先生達の評価も悪いし、もうちょっといい子になってもらわないと」

 これまた無茶なお願いをしてきた。しかし、四季先生に対して借りが出来ているので無碍には出来ない。もっとも、先生は『生徒が教師に借りを作るとか考えなくていい』と言っていたが、俺はこの学園の生徒ではない。

「お願い、聞いてくれる?」

「わかりました。でも、俺、楠アキホ……さんが何年生なのか知らないですし……神出鬼没で顔見たくな……会えませんし」

 やべ、本音がだだもれだ。

「簡単簡単。放送で呼び出すから」

 四季先生は指を鳴らす。

「あ、あー……只今テストのテスト中、只今テストのテスト中」

 テストのテスト中? マイクのテスト中ではないのだろうか。

「あの、マイクのテスト中では?」

「……わざとだから」

 素直に謝ればいいのに、大人って意地っ張りである。

「こほん、楠アキホさん、至急保健室まで来てください」

 そして数秒後、楠アキホが現れた。

「何ですか」

 先生を見て嫌そうな顔をしていたが……俺を見て目を輝かせた。

「夢川君が呼んでるわ」

「え、冬治さんが自らわたしを?」

 にやーっと口が喜びへと形を変えていく。

 この笑顔は詐欺師の罠に引っかかった時と同じくらいのやばさだ。

「アキホ、夢川君に魔力があまり通らないことは知ってるわよね」

「ええ、勿論です。この冬治さんに限って知らないことはもう、おそらくありませんよ」

 伊達眼鏡を取りだした楠アキホは眼鏡を光らせた。

「あのー……超不安なんですが。別に魔力が通じなくてもよくないですかね」

「そうでもないのよ。怪我をした時なんか特にね。魔法のない世界ではどうやって治療しているのか知らないけれど、知っての通り、こっちの世界では基本的に魔法で治療を行っているでしょ。魔力が通じにくい、魔法の効果が薄いとなると、事故の時に対応が遅れるわ。最初の治療が肝心だからね」

「なるほど」

 四季先生がそう言うとそれにつなげる形で楠アキホが前に出る。

「それに、魔力を通し辛いと言う事はこの世界から戻るときに魔法が効かない事も考えられますからね」

「な、なるほど……」

 ちゃらんぽらんしていそうな割には意外と考えていると言う事なのだろう。知的な感じが漂っていた。

「魔法ではない他の方法で戻る事も考えないといけません」

 じゃあ、一歩先を行く機械とか?

 残念ながら、この世界って機械文明が思ったより発達してないんだよな。テレビがまだブラウン管だし、ケータイがスマホじゃないし。

 ま、それはいいとしてだ。

「一緒に元に戻る方法を考えましょう」

 差し出された右手に警戒をしてしまう。そして、ついでに思った事があった。

「なんでこんなに優しいんだ?」

 これまで築かれてきたイメージとしては、俺の困っている顔が見たいようないじめっこのイメージがある。

「当然、無条件というわけではありませんよ。異世界生命体と触れ合えます」

 好奇心に漲る瞳だった。学者が研究対象に向けるそれと同じ感じがしてならない。

「こういっておけば冬治さんも邪推をしなくていいでしょう? これで堂々と色々出来ますね。いやー、人助けって気持ちいいです。わたしを、信じてくださいね」

 それはそれで、あっちの世界に戻った時に腕が一本ぐらい増えてそうだな。

「……人を助けるためなら自分の身も省みない性格の人はいないだろうか」

 そう言うと楠アキホが手を挙げていた。

「趣味はボランティアです」

「嘘くせぇ」

「趣味はあくまで趣味ですからね。わたしには利益にもならないのに他人を助けるなんて理解できません」

 堂々とした態度に俺はため息をついた。

「でも、逆に考えてみてください」

「逆に?」

「そうです。見返りを求める人間はきっちり仕事をこなしますよ。なぁなぁでやるより、そちらの方がいい結果だと思います」

 まぁ、確かにそうかもしれない。

「……それで、見返りは本当に俺との触れ合いでいいのか?」

「途中で足りないなと感じた場合はその都度、要求していきますので」

 抜け目がないし、強欲な人間だ。

 ま、俺がこの世界に居る間に目の前の腐れ根性が改まるわけでもないだろう。気長に待って、駄目なら駄目……他の生き方もあるから是非そちらの方を優先していただきたい。

「よろしく、お願いしますね?」

「……ああ、よろしく」

 差し出された右手を握り、俺は何だか悪魔と契約しているようだと思えてきた。


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