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第十四話:魔法の怖さ

第十四話

 俺がこっちの世界にやってきてそれなりの時間が経った。具体的には一カ月ぐらい? 五月過ぎぐらいだから……いつきたのか覚えてないや。

「おはよー、冬治君」

「ああ、おはよう」

「おはよう」

 クラスは決まっているわけではない為、親友やナツキのいるクラスへ登校している。机も先生が魔法で……ではなく、普通に準備してくれたし。

「冬治、おはよう」

「おはようナツキ」

 ナツキの席の隣に俺の机があり、最初はどよめきが起こっていたが……今ではそれもなくなった。

 魔法が使えない、残念な冬治さんというのが今の俺の立場だ。

「今日もセーフっ」

 遅刻ギリギリの時間になり、親友が入ってくる。

「残り三十秒か……ぎりぎりだな」

「まぁな。魔法を使えばもうちょいタイムを短く出来そうだけど」

「すげぇな、魔法」

 俺は遅刻したことないが、遅刻常習犯だったあっちの友達には喉から手が出るほど欲しがる能力だろう。

「たとえばどんな魔法を使うんだ?」

「んー……先生を遅刻させる?」

「先生に遅延の魔法は効かないんじゃないの。普通に考えて防御されるでしょ」

 どうでもよさげなナツキの言葉に俺も頷く。魔法学園の教師が生徒の魔法に対してあっさり決まるとは思えない。

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。どっかの誰かさんみたいに時間を戻せと?」

 そのどっかの誰かは……何故だか、ナツキを見ていた。

「え、ナツキってそんな魔法使えるのかよ。すげぇな」

「そんなわけないって! 使えるのは……」

 そこまで言って、言葉を飲み込んだ。

「時を戻すなんて使える人間、いないんじゃないの。もうちょっと現実的な方向を考えたほうがいい」

「先生も駄目、時を戻らせる方法も駄目……後は何が残っているって言うんだ」

 この世の終わりがやってきた、そんな表情で膝から崩れ落ちてしまう。

「自分が速く動けるように魔法をかければいいじゃないか」

「なるほど。効果対象も自分だからちょろいな。あれ? 体感速度もついでにあげちまえば……一日が早く終わるんじゃね?」

 親友は子どものような無邪気な顔をして杖を取りだした。

 そして、次に汚い字で紙に魔法陣を書きこんでいる。

「何で紙に魔法陣を書いてるんだ? 呪文唱えればすぐ発動するんじゃないのか?」

 防衛魔法なんざ、ポンポン出してるからな。あれだけのスピードで撃たれたら避けられない。

「自分に暗示をかけるため、それと魔法を発動させやすくするの」

 ああでもない、こうでもないと十分程度して完成したらしい。

「えーと……呪文にすると『偉大なる魔力よ、我に圧倒的な加速を与えよ』……よし、集中っ」

 杖を取り出し、構えると魔力を集め始める。クラスメート達も一体どんな魔法を使うのか気にしているらしい。

 若干痛い気がする呪文も魔法の世界なら何ら問題はないらしい。

「なぁ、魔法なんて別に珍しくないんだろ? 何でこんなにクラスメートが集まってるんだ?」

 親友から離れているので、失敗する方にかけているのかもしれないな。

「このクラスは防衛魔法が得意な生徒が多いけど、その他はからっきしって言うのが多いから。興味もつのが多いの」

 ああ、だから……血気盛んな連中が多いのね。曲がり角で俺が出てくると時折、防衛魔法をぶつけてくる奴がいるからな。全てナツキが防いでくれているから何とかなっているものの、もし当たったらどうなると思っているのだろうか。

「ごめん、つい」

「その顔を見たらさ、つい、ね」

「恨みがあるんならあの糞男に言ってよ!」

 よほど、こっちの世界の冬治に恨みがあると見える。

 俺がぼけっと考え事をしていると若干離れた場所にいる親友から声が飛んできた。

「っしゃ、こりゃ来たぜぇ!」

 親友の足場に茶色の魔法陣が形成されて行く。読めそうで読めない字が円を作成し、外側を分厚い円が囲っている。

 魔力の発生で、風が吹いていた。よく見る暴力的な魔法とは違う感じだった。

「偉大なる魔力よ……我に圧倒的な加速を与えよ!」

 親友の中へ入り込んでいた魔力が解放され、何かしらの魔法が発動した。

 空気が親友を中心に収束していき、魔力が身体からにじみ出ている。

 それはわかったのだが、どんな効果はさっぱりだ。

「……で、どうなんだ?」

「体感的に速くなる、そういう効果よね」

 俺とナツキが親友を見ると残像を残して首を縦に動かした。

 クラスメートからおおーっと歓声が沸いた。

「……! ……? ……!」

 そして、何か喋り始めたのは確かではある。確かではあるが……何を言っているのかさっぱりわからなかった。

 速いのだ。まるで、ハエが飛んでいるようなうるささだけが耳に残る。

「何だかうるさいね」

「ああ、喋るのも超速いんだな」

「体感的にはどうなったんだろうか」

 何やらイライラした様子を見せ始める親友……俺はチョークを渡して黒板を指差した。

「こいつさ、多分……俺達がゆっくりに見えてるんじゃないかな」

「え、そうなの? 体感的に速くなっているのならわかるんじゃない?」

 親友は黒板にみみずがのたくったような字で何かを書き始める。

「おおー、速いな」

 書かれた文字は『何だろう、凄く時間がゆっくりになってる。誰か魔法解除して』だった。

「あ、馬鹿……魔法に制限かけてないんだ」

「制限?」

「うん、魔法は制限時間かけておかないと体力か、魔力が尽きるまで持続するから。召喚魔法なら冬治みたいに戻れなくなっちゃう」

 それって危険な事じゃないのか。この世界、過度に魔力を吸うと精霊になって消えちゃうんだろうに。

「おーい、誰か助けてやって」

 遠巻きに見ていたクラスメートは俺の言葉にお互い顔を見合わせるだけだった。

「え、何で誰も魔法を解除してやらないんだ」

「さっきも言った通り、防衛魔法は得意だけど他は……」

 駄目じゃん。

「……俺らが出来るのはあいつをバタンキューさせるぐらいだな」

「おい、そんな火の球当てたら危険だろ」

「遠慮するなって!」

 そういって火の球をぶっ放したが……それは避けられ、黒板にぶつかって消えた。

「うん、速いな」

「すげぇな」

「じゃあ、場に影響をもたらす魔法を……」

「いや、今度は全員が喰らうだろ」

「だねぇ。だったら、冬治君が止めて見せたらいいんじゃない?」

 筋肉隆々としたカップルがそんな事を言いだした。

「あのなぁ、こっちの世界の冬治と違って俺は魔法が使えないんだよ。知ってるだろ」

「うん、知ってるけどさ。もしかしたら使えるかもよ」

 ふむ、魔法ね。

「冬治、頑張って」

「おう」

 向日葵ナツキの言葉にちょっとだけ、期待しながら呪文を考える。

 俺は親友に近づいて肩を掴む。

「魔法よ、止まれ!」

 辺りが静寂に包まれる。

 見守るクラスメートの方へ、目を向けるとさすがにそれはないわー……そんな雰囲気がありありとしていたのだった。

「これで止まれば問題ないよなぁ……」

「……お、ちゃんと言っている言葉がわかる!」

 動きを止めた親友がこちらを見ていた。そして、動きも普通に戻っている。

「んだよ、魔法使えるんじゃねぇか」

 肩を叩かれ、俺は目を白黒させていた。

「はぁ? んなわけないだろう。偶然だろ」

「いやいや、止まってるじゃん」

 何故だか知らんが、クラスメート達は防衛魔法を展開していた。

「ちょ、ちょっとあんたたち、何してるのよ!」

「いや、だってさ」

「魔法が使えるんならねぇ」

「腹いせに……顔も一緒だし、名前も一緒だし? みたいな?」

 俺の前にナツキが立って、これまた防衛魔法を展開する。

 盾系の魔法かと思えばそんなことはない。薙げば、クラスを崩壊させる様な炎の柱が準備されていた。うん、クラスメートに対して、遠慮という物が無かった。

 連中もその炎の柱を見てビビったのか、手を止めた。

「いや、だってねぇ、さっきも言った通りだけどさ」

「顔とか似てるからたまにはいいかなぁと」

「それに、冬治なら怪我しないって」

「馬鹿、こっちの世界の俺はそうかもしれないが、俺は魔法が使えないんだって!」

 ナツキの影に隠れて俺はクラスメートに反論する。格好悪いけれど、魔法が使えないんだ。しょうがない。

「あのね、あいつがここまで友達思いなわけないでしょ。あんたらと同じ方法で止めていたと思うわ」

 そう言うとクラスメート達は防衛魔法の展開をやめた。

「そうだな」

「うん、そうだったね」

「あ、そろそろ予鈴が鳴るなぁ」

 そんな感じでクラスメートが散っていった。俺は危険な魔法集団を蹴散らせたナツキの言葉に絶句するしかない。

「助かったよ、冬治」

 俺の肩をたたく親友に俺はため息をついた。

「本当、こっちの世界の俺は……ろくなやつじゃなかったんだな」

「……まーな」

 親友も苦々しげに頷いていた。

 こっちの世界の冬治は今頃何をしているのだろう。俺はふとそんな事を考えた。


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