第十三話:調査を兼ねたなんとやら
第十三話
ハルカの家にお世話になっている俺は、この世界にも四季がある事を知った。
「あちー……まだ五月なのに」
俺がまだ愛くるしい洟垂れ小僧の時はもう少し涼しかったと思うんだがね。これも地球温暖化の進行の所為かねぇ……こっちの世界もそう言うところはリンクしているのか。
近くに置いてあった朝刊を手にとって広げる。
「うっわ、気付いたけど首相まで同じじゃねぇか」
新聞の政治欄には元居た世界と同じ政治家が載っていたりする。やれやれ、本当に魔法が在るだけの世界なのか?
「冬治さん、暇?」
洗い物を終えたハルカがエプロンで手を拭きながら寄ってくる。マシロは向かいのソファーで眠っていて、のどかな休日を感じさせてくれていた。
薄着のためか、寝返りを打つたびに太股やら谷間やらが気になって仕方がない。こういうのんびりした雰囲気も悪くないな。
「冬治さん?」
「え、ああ、超忙しい」
俺とマシロを隔てるハルカをかすかによけながら、視線を向ける。
「えー、暇でしょ? 忙しい人は超忙しいなんて言わないもん」
もん、じゃねぇよ。歳考えろよ……もんって言っていいのは小学生までだぞ。
そんな事言ったら魔法が飛んできそうなので黙っておく。
「で、何だよ」
「手伝ってほしい事があって」
「勉強か?」
魔法以外なら元受験生だけあって結構大丈夫だ。この前あった形だけの編入試験でも結構いい点数がとれたしな。
一部を除いて、内容はほとんど同じだ。武将が魔法使って天下統一狙ってるとかその程度の違いだ。
「勉強なら歓迎だが……違うのか?」
「うん、調査」
「調査?」
旦那になる人の最低限調査? 年収は一千万円欲しいとか身長は百八十超えじゃないと嫌だとか?
「夢を見るのは勝手だがね、現実を見せられた時……」
失望しちゃうもんだよ。
諭そうとしたら、間の抜けた表情になっていた。
「何の話してるの? 魔力の調査だよ」
「……ああ、そう」
魔力の調査ってどんな事をするのだろう。
魔法の事に関して色々と調べたり授業を受けたので理解はしてきた。しかし、こうやって直に魔法関係に触れたことはなかったかな。
準備と言っても連れだって外へ出るだけ。みょうちくりんな機械を持つわけでもなく、特別な服に着替えるわけでもない。ハルカはシャツにジーパン、俺も似たような格好だ。
「わーい、デートだ」
冗談っぽい言葉に俺は苦笑する。
「調査じゃなかったのか」
「男女二人が外へ出ればそれはデート」
「なるほど、デートね」
俺たち二人が向かった場所は俺が召喚された場所。
少しばかり、感慨深い。
「空き地デートか。やっすいもんだな」
それでもまぁ、俺とハルカが出会った場所だ。何だかんだ言って、ハルカにはお世話になっている。
でも、素直に感謝なんて出来ない。からかい口調でハルカに視線を向けると真面目くさった表情がそこにあった。
「何言ってるの? これはデートじゃなくて、調査だよ」
なんだかものすごーく、残念な気分になった。
「鼻の下、伸ばしてないで手伝ってよ!」
「伸ばしてねぇよ……いてっ。叩くなよ」
「伸ばしてよ!」
「わけわからねぇよ……」
この程度で怒る程、俺の心は小さくないぜ。
「手伝うといっても、何をすればいいんだ」
「とりえあず、そこ、邪魔」
「へいへい」
杖をかざしてうろつくハルカの邪魔にならないよう、隅っこで固まっておくことにした。
「ん?」
隅っこに俺と共にこの世界にやってきたトイレが置かれてあった。この世界に共にやってきた相棒は何やら異質な感じを受ける。
あの時のあたしとは違うのよ! そんな拒絶感があった。
まぁ、印象が変わろうとトイレはトイレだ。和式にかぶせて洋式になっているような感じだ。
「ハルカの家に持って行くわけにもなぁ……」
そういって何とはなしにそれへ触れると魔力のように淡く光って粒子となった。
「え? 消えた……のか」
精霊化して消えてしまったのか?
トイレがあった場所へ行っても、微かな魔力を感じるだけ。見ていて答えがわかるならいいが、見ていても雑草が生えているだけで、あとは蟻くらいしかいない。
困ったこと、わからない事があったときは誰かにすぐ聞いておいた方がいいと先生が言っていた。
知るは一時の恥、知らぬは一生の華……違うか。
「おーい、ハルカ」
「……ぶっすぅー」
何で無視してるんだろうか……。何か、俺、悪い事言ったっけ。
「可愛い魔法使いさん」
「何?」
自分で言っておいて何だけどさ……いや、いいけどさ。一応、可愛いからさ。
「なぁ、この世界に俺を召喚した事を覚えてるか」
そう言うとハルカの顔が赤くなった。赤くなるような事があったかね。
「トイレあったろ」
「あ、うん。それがどうかしたの?」
「さっき、そこに置いてあったんだけど触ったら消えたんだ。ハルカやみんなが魔法使うとき、魔力が粒子となる……あんな感じで消えた」
俺の言葉にすぐさま眉根を寄せてしまう。
「……やっぱり、相当まずい事になったのかな」
「まずい事?」
ハルカはしばらく悩んでいた。どうやら、俺に話すべきかどうか決めかねているらしい。
「……ま、まだ決まったわけじゃないからいいかな。ねぇ、冬治さん、これからデートしよう」
息巻いているハルカに俺は首をかしげた。
「いきなりどうしたんだよ」
「これもちょっとしたデートだよね」
「え、デートなのか? デートってのは二人で出歩くのがデートじゃないのか」
「男女二人で出歩くのが全部デートだとか思ってない?」
思ってねーよ。
その後、俺とハルカは喫茶店で一休みすることにした。先ほどの消えたトイレの事を促すわけにもいかないので話は身近な事になる。
しかし、思えばいつだってハルカの方から話しかけてきてくれる。
「この世界には慣れた?」
「まぁな。ハルカやみんなが優しくしてるし……やっぱり、住む場所があるのが、一番安心できるかな」
これが野宿やホテル住まいだったら今頃ふてくされているだろう。アットホームな感じがいいのである。
風呂上がりなんて、ハルカにマシロは薄着だからな。うん、目のやり場に困るけれど俺の事を一つ屋根の下の住人だと認めてくれている証だ。
そんな二人の為、鼻の下を伸ばさないよう気をつけている。
「でもさ、いいのかよ。二人も女の子がいるのに俺みたいな男が……」
「いいの。気にしないで」
「ご両親は気にしてないのか」
「それは……冬治さんが気にする事じゃないから安心していいよ」
そういうと少しさびしそうな顔をされた。どことなく、話題として間違ったものを出してしまったな。
「えっと、聞いちゃまずかったか」
「両親は外国で滅多に帰って来ないからさ」
「あ、そうなのか……だから俺を家に置けるんだな」
「二人じゃ狭い家だから三人でちょうどいい」
運ばれてきたコーヒーと紅茶をお互い飲みながら話題を探す。
「なぁ、両親はどんな仕事を」
「それより、冬治さんはあっちの世界で何してたの?」
変に大きな声だった。
両親の話はしないほうがよさそうだな。今後気をついておいた方がいいな。
「あっちでやっていたことか」
「魔法なんてないんでしょ?」
「まぁな。だからと言って特別なことはないからなぁ……」
少しばかり、ハルカは考え込むような仕草を見せる。
「あっちの世界にはあって、こっちの世界には無い物があるかもよ?」
「ああ、なるほど」
こっちの世界には魔法がある。つまり、何かないものがあるかもしれないな。
「なぁ、狼男とか吸血鬼とか……信じるか? あと、幽霊とか妖怪も」
「……はぁ? あっちの世界ってそんなのがいるの? 初めて聞いたんだけど」
まぁ、やっぱりそうだよな。証拠も何もないこの状態で、相手を信用させられる自信はない。それに俺だって、今一つ信用していない。
「気にしないでくれ。ところで、この世界にドラゴンはいるだろ」
「まぁ、ね。ちゃんとした奴はどうだろう」
「ちゃんとした奴?」
「うん、トランスって魔法があってね……」
それ以降はハルカの魔法授業となった。教えるのが下手だと言っていた割にわかりやすかった。
俺にとってはものすごく面白いものだったが、喫茶店の中には『喫茶店まで来て授業とかマジ勘弁』と言って逃げ出す者もいたりする。
魔法で囲いを作り、自分達の世界へ逃避しているカップルもいた。
こっちの世界だと魔法は普通に日常として溶け込んでいるものなんだな。




