第十二話:よく燃えます
第十二話
この世界で俺がやるべきことは一つだ。
「そう、元の世界に戻る事」
この世界での俺は魔法を使っていた。そして、超優秀だったらしい。
俺であって俺ではないその人物の足跡をたどれば、何かしらヒントを手に入れる事のではないか?
何せ、その超優秀だった俺は今では行方不明……噂では異次元に消えたらしい。
だったら、その異次元に関する資料なんかもあるんじゃないだろうか。
「ふむ……まずは基礎からあたってみるか。なぁに、時間はたくさんある」
この世界での俺は言わばお客様みたいなものだ。基本的に自由である。
自由と言って、好き勝手やっていいわけではない。問題を起こした場合はハルカが問題を取る必要が出てくる。つまり、ハルカに恨みがあれば問題行動をばんばんやっていい。
ハルカのためを思うのなら、常識の範囲内で自由に行動していいと言う事である。
「あ、来たんですね」
「まぁな。ここなら資料も沢山あると思ってさ」
向かうべき場所は当然一つ。俺が研究室として使用していた教室だ。この場所には様々な文章が置いてあるので何かしら役に立つものも手に入るだろう。
エッチな本も置いてあるしな。うむ、しかも高度な魔法がかけられていて他人には真面目くさった本に見えるらしいから堂々と読めるわけだ。
「どうかしましたか?」
「……いんや、どうもしてない」
残念ながら、此処に来るたびにマシロがいるので拝んだことはない。女の子がいる部屋で、読む程、度胸があるわけでもないが……。
「マシロは何を読んでるんだ?」
「日記」
「日記? 誰のだ」
「この部屋の主のです」
「ふーん……」
その日記を読んでしまえば、この世界の冬治が最終的に何をしていたのかわかるのではないだろうか。
ついでに、魔法の極みなんて物も書いてあるかもしれない。
何と言う簡単な終わりだろう。今回、こんな簡単におわっちゃっていいんだろうか? 俺は嬉々としてその日記へ近づいた。
「それ、俺にも見せてくれよ」
「駄目! 読んじゃ、駄目です!」
そういってマシロの右手が爆ぜた。
日記は一瞬にして消し炭になって床に落ちる前に消えてしまった。
あ、あぶねぇ! もうちょっと先に手を伸ばしてたら俺の手も……。
「いきなり発火なんてびっくりしたぜ、おい。俺も燃やす気かよ」
「ごめんなさい、でも、内容が過激だったので」
なんだそれ、一体どんな内容が書かれていたと言うのだろう。
ついでに言うなら、さっきの爆発の方が過激だったわいっ。
日記はなくなったが、読み終えたと思われる人物は残っている。
「なぁ、ヒントくれ、ヒント」
「ヒント? うーん……ノーヒントです」
余程の事が書かれていたらしい。魔法を習得した暁には燃えてしまったこの世界の冬治の日記を再現してみたい。
そんな俺の考えを読んだのか、マシロは困った顔になった。
「魔法にも出来ない事、ありますから」
「え、そうなのか? じゃあ、さっきの日記を再現って出来なかったり……」
「中身を見た人間だったら出来るかも」
マシロはみたから日記を再現する事が可能なのだろう。生憎、燃やした張本人がマシロなのでもうどうしようもなさそうだが。
ここは大人しくしておくしかなさそうだな。
ま、すぐさま終わりって言うのも面白くない。もうちょっと、この世界を楽しんでから帰る事にしよう……あのえっちな本を覗きたい気持ちもあるし。
気持ちを切り替え、魔法の勉強をすることにした。あっちの世界での勉強はやらされている感があったが、こちらの勉強は俺が元の世界に戻れるのかどうか、関わってくる事だろう。
「日記は諦めたからさ、初心者が魔法を使える……もしくは魔法を理解する本はどれがいいのかわかるか?」
「うん、そのぐらいなら……」
比較的本棚の上の所を指差し、俺は脚立を探す。しかし、マシロは浮き上がってとってしまった。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ……ありがとう。今、浮いたよな?」
「魔法使いだから」
「そうか」
どうとでもなさそうな顔でそう言われるとこちらも冷静な対応を取るしかないぜ。うーん、俺もいつかふわふわ浮けるような魔法使いになれるのだろうか。
手渡された本を開くと其処には本当に基本的な事が書かれていた。
つまり、この世界での魔法という言葉の意味だ。
「……魔法とは、ごく一般的にあり触れている現象。使えない人は使えないし、使える人は使える。魔力を身体に集結させ、身体の末端から魔力を放出、魔法を作りあげる。魔法をより多く使えば身体が魔力で満たされて行き、強力な魔法が使えるが、人間ではなく精霊になってしまう。魔力の塊となった精霊最終的には身体を維持できず、魔力となって散る……か」
今、魔法方面で調べられていることはこの精霊化現象の対策のようだ。
関連事項として精霊の欄やトランスという魔法の事もあった。
「魔力を多分に含む生命体。魔力を吸って生きている為、身体的なエネルギー補給は一切必要が無い。ただ、近くで魔法を使用されて行くごとに身体の魔力が引き抜かれて行く為、魔力を取りこめない場所にいると生命維持が難しくなる。魔力を吸って生きている為、肉体組織のほとんどが無くなった後魔力の塊となり、消えてしまう存在」
そういえばマシロは精霊だとかなんとか言っていた気もする。
本人に聞くのは憚られるので本を開いてみた。
「杖を使う事で魔力の進行を遅らせたりできる……か」
童話の魔法使いなんかが良く杖を持っているけれど、それとこれとはわけが違うはずだ。
「為になる事は書かれています? わからないところがあったら、大抵の事は教えられると思います」
自信満々に笑う少女に、俺は苦笑しかできない。
「あ、うーん……大丈夫。何がわからないのかそこがわからないから」
この少女はいつか魔力の塊となって、消えてしまうのだろう。
穏やかに笑っている少女の存在がこの世から消えるなんて全く想像できないねぇ。
「一つ聞いていいか?」
「うん、何?」
「この世界の冬治と、マシロは一体どんな関係だったんだ?」
俺の質問に、マシロは首を振った。今一つ、わかっていない感じの表情をしていた。
「前にも言ったけれど、わたしは実験対象です」
かたくなにそう言う姿は何かを隠している事は間違いない。ただ、彼女に直接聞いたところで教えてくれる事もなさそうだな。同じ言葉が返ってくるだけだろう。
「そうかい」
「ごめんなさい」
「謝る必要はないよ」
調べている本は確かに、魔法について多く集められている。この中には精霊化についてよく述べられている物が多い。
この世界の冬治はマシロの事を助けようとしていたのではないだろうか。
だから、異世界……魔力のない比較的平和な世界へ行ったのかもしれないぞ。うん、そうだ。魔力が無ければこれ以上現象が進行するはずもないしな。
そこまえ考えたところで予鈴がなった。俺はマシロと別れて教室へ向かうのだった。
「ちょっと、マシロの……精霊化の事を調べてみるかな」
元の世界に戻るなんてすぐにできるさ。ハルカみたいな魔法使いを探して飛ばしてもらえばいいんだからな。




