第九話:襲い来る影
第九話
転校してきて一週間、俺は櫻井ハルカがどう言った人間なのか理解しつつある。
自他共に認める召喚系魔法のエキスパート……他の魔法も平均的にこなすらしい。その割にはドラゴンと相対したとき、役に立たなか……まぁ、俺も役立たずだったか。
優秀な魔法使いは何でもできるかと思えば、そうでもないそうだ。要は得手不得手あるわけで、世界に通用する名前を持っているんだと。
いくらどんなにすごかろうと、召喚した奴を戻せないんなら凄くないのではないか? それならもっと、俺みたいな存在が多いのではないか。俺はそう思えてならなかった。
その点を親友に確認したところ『召喚魔法は基本的に滞在時間の制限付きでないと召喚できない』とのことだった。
つまり、俺は制限付きで召喚されていないのだ。普段、そんなことは絶対にしない……らしい。
「どう、私ってば凄いでしょ?」
そんなオーラが腐るほど湧きでていた。腐っちまえ。
召喚された俺の評価というと、珍獣扱いされている気がする。
「うっわー、あれがあの冬治君なんだ」
「すっごい凡人」
「バンピー感半端ないね」
しょうがないじゃない、バンピーだもの。
俺に何を期待しているんだと叫びたかった。適当な男子生徒を捕まえて聞いてみると目を合わせようとせず『ぼ、ぼくはお金なんて持っていません。勘弁してください』と言って逃げていった。
ハルカから離れて校舎裏に行こうものなら柄の悪い連中がぎょっとして、逃げていく。かといって、隙を見せようものなら物陰から魔法が飛んでくる……こっちの俺、どういう奴だったんだよ。
そう言う事もあって、ハルカから離れるのは出来るだけ避けておいた方がいいと感じてしまった。
あまり良い人間ではないと言うのを悟ったのはそれから三日たったある日……ハルカと一緒に帰っていた時の事だ。
「今日、何を食べよっか?」
「何でもいいぜ」
「それが一番困る」
晩飯の献立について話していると三つの影が……比喩じゃないぞ。女生徒っぽい恰好の影が俺達に近づいてきたのだ。
「何だ、ありゃ」
「魔法だよ。はぁ、勘違いしている人がいるんだよ」
「勘違いだぁ?」
珍しいものをみている感覚もすぐさま吹き飛んだ。何故なら、影の手に握られているのはどれも物騒な物(文化包丁、カッターナイフ、魔断斬光剣ディライト)だったからだ。
「そう、こっちの世界に居た冬治君は魔法使いとして優秀だったけれど人としてはクズだったからね」
襲われた事、他にもあるでしょうと言わんばかりの顔である。
「評価で言うとどのくらい?」
「隙があったら襲いたい、ぐらいの評価かな」
「ひどいこと、してきたんだろうな」」
「女子からは襲われても仕方ない存在だからね。ポイ捨ての冬治って通り名あったし。魔法でも何でも使ってその気にして、ぽい、だもん」
「ああ、そりゃ襲われて当然だな」
クズすぎて笑っちまう。しかし、女の子をたぶらかしていたのか……魔法って超便利だな。
「そう、だからこうやって勘違いして襲ってくる子がいるんだよ」
「勘違いねぇ……俺とハルカがつきあっていると勘違いしているのか?」
「そんなところ。ちょっとした脅しのつもりなんだろうけどね。脅しじゃ済まされないレベルだよ」
そらそうだろうよ。最後の一匹どう見ても現代科学とは真逆を行くファンタジーな鎧まで着込んでるもん。
「それで、この状況どうすりゃいいんだ」
「落ち付いてるね。あっちでも襲われ慣れていたの?」
「まさか。あるわけねぇよ。みての通り俺はバンピー一直線だ」
まぁ、それなりにあった。それでも、俺は自分の事を一般人だと思いたい。
「私が何とかするから……離れないでね」
大丈夫なのかよ、ハルカの奴、防衛魔法って下手くそなんじゃねぇのか?
平均的に出来ると言っていたが、平均的がどのくらいかは知らない。
しかし、今はハルカの事を信用するしかない。
「まかせて、冬治さんを召喚したのは私だもん……絶対に、守って見せるよ」
垂れ目を若干、鋭くさせて俺に笑って見せた。その表情は信用するに値する、いい表情をしていた……気がする。
「ああ、信用してる」
「うん、見てて。すぐに終わらせて見せるから」
襲いかかる影達に対し、桜の花びらのような魔力を凝縮させ、放った。
「行けっ、岩になれっ」
瞬間的に魔力は膨張し、岩を作って影を押しつぶしたのだ。
「うーむ、ドラゴンと戦った時に使ってくれればよかったのに」
こんな岩石ぶつけられればあのドラゴンもただでは済まされなかったはずだ。
「爬虫類、駄目だもん」
押しつぶされた影は瞬く間に消えていき、残ったのはRPG風の影だけだった。
影は五十メートルほど離れ、剣を振りあげ地面に突き刺した。衝撃波が発生し、こちらへ飛んでくる。
「見てて、説明するから」
「何をだ」
「魔法の事! いい、冬治さん? 魔法を顕現させたい気持ちが一番大切っ」
そして、その衝撃波へ向けてハルカも魔法を飛ばした。影へ向かって飛んだ魔力は衝撃波を一瞬にして桜の花びらへと変貌させる。
「魔力に使われちゃ駄目。魔法は、こっちが使わないと駄目。今からあの影を召喚する」
「え? 増やすって意味か?」
敵を増やしてどうするんだろう。
「名前に囚われちゃ、駄目だよっ」
残った影へ更に右手を振り落とす。
するとそれだけで影が姿を消すのだった。
「今のは何なんだ? 召喚するとかいいながら、消えたぞ」
何が起きたのかさっぱり分からなかった。
「今のが私の十八番、召喚魔法」
「召喚? だから、消えただろ。どこ行った」
何かものすごく大きいものが出てきて勝手に倒してくれわけでもないようだ。
「この世の終わりに召喚したの」
にこっと笑うハルカにどう返せばいいのか分からない。この世の終わりってどこだよ。
「ともかく、これで安全なのか?」
「ま、今回はね。冬治さんには敵が多いからね。ほいほいと知らない人……特に女の人には気をつけておいた方がいいから」
「……俺の所為じゃない気がするんだけど」
この世界の俺が悪いんだろうに。
「そうだけどね。神様はいつだってみてるんだよ……たまに、間違えたりするんだろうけどさ」
ハルカはそう言って先に歩き始める。やれやれ、これじゃあ一人でおちおちうろつく事も出来ないのか。
「はぁー……前途多難だ。元の世界に戻れるのか、俺」
夕焼けを眺めて、たそがれる俺の腕をハルカが引いた。
「大丈夫だよ。私が絶対に戻して見せるからさ」
「……そうかい、ありがとよ」
「えへへ、どういたしまして」
召喚したのはお前だろう、その言葉を飲み込んで右腕をハルカの自由にさせておいた。




