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次の朝、ホテルでのバイキング形式の朝食を済ませると、班行動へと移った。トロッコに揺られ山頂まで着くと、真歩の班は嵐山を散策した。その道中、お土産を買おうという話になった。
「私たちは剣道部のお土産選んでるから、二人は適当に時間潰しておいて」
「りょーかい」
修学旅行二日目なのに、マリアはまだまだ余力たっぷりの笑顔を見せていた。対照的に、斎藤は浮かない顔つきをしている。それもそうだ。マリアに告白しようと意気込んでいたのだが、彼女は学校中の人気者である。班やクラスお構いなく、マリアは声を掛けられてひっぱりだこであった。二人になる時間もなかったのだろう、と真歩は推測していた。
斎藤にウインクを送ると、想いをくみ取ったのだろうか、「あっち、見ませんか?」とマリアの手を引いて、二人は隣の土産コーナーへと消えていった。
「おーい。土産買わないの?」
放っておいたら永遠にその場から動かないのではないかと心配になるくらい、真歩は二人の後ろ姿を追っていた。痺れを切らした山本と真田が声を掛け、ようやっと真歩は意識を取り戻したようだった。
「ううん、何でもない」
これで良かったのだ。そう自分に言い聞かせるのだが、胸の奥がキリキリ痛んで仕方がない。やがて胸の奥が渦巻いて、ぐるぐると目が回ってきた。具合が悪いからと二人から離れ、土産売り場の外れにあるベンチに腰掛けた。
梅雨入り前の季節。目の前の花壇には、白い霞草が一面に咲いていた。風が一度吹けば、綿毛のようにふわふわと揺れる。しかし、道行く人々は誰もその光景に目もくれず、淡々と通り過ぎていく。その中に、マリアと斎藤が笑い合って手を繋ぎ、人の波にまた消えていくのを見た気がした。
つらら。涙が瞼から頬を伝った感触。真歩はじっと霞草を見ながら、声を押し殺して泣いた。