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進級し、真歩はマリアと同じクラスになった。中学では初めてだったので、二人と手を合わせて喜び合った。何より真歩にとって嬉しかったのが、修学旅行で同じ班になれた事だった。
ゴールデンウィーク前の三日間。二泊三日で、場所は京都だった。計画自体は二年生から立て始めていたが、最終的な班割は三年生のクラスで決めることになっていたのだ。
真歩の班は五人だった。真歩とマリア、真歩と同じ剣道部の活発系女子が二人、マリアと三年間クラスが同じだった大人しい娘。全員面識があり、真歩とマリアの共通の友達でもあった。ちなみに、マリアのスター性は中学生になってからさらに磨きが掛かり、誰でも気軽に話せる存在だったため、熾烈な争奪戦も考えられた。しかし、マリアは最初から決めていたようで、他の班からの誘いを丁重に断ってこの班を選んだのだった。
修学旅行の初日は清水寺や金閣寺などの、古風な京都を散策する予定だった。この日はクラス全体での活動が中心で、班行動になったのはホテルに到着してからだった。
「マリア、空いたよ」
真歩はシャワー室から出てきて、居間に顔を出した。タオルを首元に掛け、髪はまだ少し濡れているようで、照明に照らされ黒々と光っていた。
居間では他の四人がトランプを楽しんでいた。布団が床一面にしかれてあり、四人は皆、それぞれの布団に寝転がり、頭を付き合わせる形でポーカーをしているようだった。
「おう、わかった」
一人、金髪の頭が顔を上げ、起き上がった。「じゃあ、後は真歩に頑張ってもらおっと」
「頑張るって何を」
真歩がタオルで髪を乾かしながら言うと、他の三人がこちらを見た。手前の山本、左側の真田は真歩と同じ剣道部だった。山本は長い髪の毛が特徴的で、真田は身長の高さが目立つ。右側手前にいて、先ほどまでマリアの隣にいたのは斎藤だった。彼女は二人に比べ、体が一回り小さく、眼鏡の奥から可愛らしい瞳をきょろきょろと覗かせていた。
「マリア、今ボロ負けだから」
山本がにやにやしながら言うと、真田も「負けたらジュースおごり」と、続けて笑った。
「はぁ。やらなきゃダメ?」
「頼んだ!」
マリアは申し訳なさそうに手を合わせながら、真歩の横を通り過ぎてシャワー室へと消えていった。真歩はその背中を横目に見ながら、「ハンデつけてよハンデ」と提案した。
「私だけ二回チェンジあり」
「えー卑怯でしょそれは」
山本と真田が文句を連ねる中、斎藤だけは静かに笑っていた。その笑顔は慎み深い印象と共に、意識がここではない遥か彼方に飛んでいるような感じを真歩に与えた。