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霞草  作者: 椋原紺
2/12

 真歩がマリアと出会ったのは小学四年生の春だった。真歩は当時、女の子と集まってお淑やかにお喋りしているよりも、男子に入り交じって外でサッカーなりドッジボールなりをするのが好物のお転婆娘だった。そのせいか、同じクラスの女子とは少し壁があるように思え、女子だけで集まったりするときに、変な違和感を感じずには居られなかった。男に生まれてきたら良かったのに、時々真歩は天に向かって文句を垂れるのだった。

 真歩のクラスに転校生がやってきたのは、その時分だ。イギリス人の父親と日本人の母親を持つハーフの少女で、イギリスから日本へやってきたのだった。

 自己紹介の時から、クラスの皆は度肝を抜かれた。まず、金髪だ。それに青い目。顔立ちは日本人に近かったが、同じ小学生とは思えないくらい大人びた印象があった。綺麗で華やかで。彼女が異質な存在である事は、ぱっと見ただけでもはっきりしていた。

「英国から来ました横尾マリアって言います。みんな、よろしくお願いしますね!」

 なのに、のっけから流暢な日本語を話すものだから、クラス中がまた度肝を抜かれた。瞬く間にマリアは人気者になった。芸能界にいてもおかしくないようなルックスに加え、人懐っこくて飛び抜けて明るい性格が好評だったのだろう。マリアの周りには常に人だかりができていて、違うクラス、違う学年の生徒でさえも皆、マリアの事を知っていた。

 当然と言うべきか、真歩は当時、マリアの事を気に入らない娘だと思っていた。元来から女子に抵抗があったからというのも一理なのだが、他に大きな要因があった。

 マリアは男女先輩後輩問わず人気があった。とりわけ、同じクラスの男子達はマリアの虜であった。小学四年生という時期は、少しずつ男女の相違が表れ始める頃合いであり、男子達は恋に似た感情を寄せたのだろう。ある者は給食のデザートをマリアに譲ったり、ある者は頼まれてもいないのにマリアの掃除当番を代わってやったり。皆、躍起になってマリアの視線を射止めようとした。余談になるが、マリアは色事にひどく鈍感であり、彼らの努力はことごとく灰になっていった。




 これだけなら何も関係のない話なのだが、真歩にとって都合の悪かったのは、男子達がマリアを際立たせるために、女子でありながら男子に身近な存在だった真歩を引き合いに出すという事だった。

「お前に比べて、横尾は女の子っぽくて可愛らしいよな」

「真歩ってがさつなんだよね。もっとこうお淑やかにできないの、横尾さんみたいに」

 男子と一緒にいる時、似たような言葉を何度かけられたことか、真歩は数える気にもなれない。「うっさい。ほっとけ!」と事あるごとに強気で押し返すのだが、内心気にかかってはいた。自分も年頃の女の子だ。気のない男子であろうとも、女らしくないと批判されるのは、やはり心地の良いものではない。

 次第に真歩は、以前のように男子に混ざって遊ぶことがつまらなくなっていった。休み時間、男子から声を掛けられても何かと理由をつけて避けるようになっていった。図書室で時間を潰すことが多くなり、机に頬杖をついてガラス窓の外を無邪気に駆け回る生徒達を見ては、ため息をついた。

 何で自分はこんなことをしているのだろう。大して興味のない本を読むのにに飽きて机に突っ伏し、真歩はいつも考えていた。やるせない、もやもやとした気持ち。早く投げ捨てて、楽になる術を探していた。その矛先が、横尾マリアだった。

 そもそも、あいつが来たから面倒な事になったんだ。挙げ句の果て、あんなやつ死んでしまえば良いとまで思っていた。そう思えば、心の中がすっと楽になった。

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