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――――【天界】。
それは何者にも侵されることない絶対的かつ神聖なる領域。
そこに住まうは、人間と敵対している【天使】たち。
彼らは、とある目的の為に行動を始めていた――――。
「――――我らが悲願まで、あと少しだ」
黄金に輝く円卓の周りを神々しい光たちが囲っており、その一つが厳かに告げた。
「我らが創造主の完全復活のため、力を集めるのだ」
「力……すなわち、我々とは違う地上の出来損ないどもの絶望なり」
「殺せ。ヤツらの繁栄はあり得ぬ」
「忌々しき【偽神】どもの創造物など、破壊しつくすのだ」
「我らに反逆する【討滅者】どもを殲滅せよ」
それぞれが破壊を、絶望を叫ぶ。
「――――我らが悲願は、すぐそこに――――」
◆◇◆
「――――というワケで、今日からこのクラスで一緒に学んでいくことになるゼフィウスだ。ゼフィウス、自己紹介を」
「うむ」
俺は今、グレイドに告げられたクラスにいた。
この学び舎の筆記用具やら教科書やらを受け取った後、まあ手続きは向こうが終えていたため俺は自己紹介をするところから始まっている。
ちなみに担任の教師は若い男性であり、身だしなみもしっかりとしている。ふむ、信頼できそうな人物だな。
それはともかく、生徒たちの前に出たのはいいが、皆呆けた表情で俺を見つめていた。何かおかしいだろうか?
気にしても仕方がないため、俺は普通に自己紹介を始める。
「ゼフィウス・デュー・ローゼン。ゼフィウスと呼ばれることが多いが、好きに呼ぶがいい。無知なところが多々あるが、よろしく頼むぞ」
当たり障りのない自己紹介を終えたのだが、生徒たちからの反応はない。
唯一普通なのは同じクラスのミリアだけであり、ミリアは何やら呆れた様子でため息をついていた。
生徒たちの様子を不思議に思っていると、先生は俺に声をかける。
「ところでゼフィウス。お前、妙に多くのアクセサリーを身に着けてるが……それらは【真理武装】なのか?」
「む? 何かまずいか?」
「まずいというか……特に校則はないが、我々【討滅者】は激しい戦闘が多い。だからあまりアクセサリーの類は推奨されていないのだ」
「ふむ……一理あるな」
とはいえ、俺の身につけている耳飾りや首飾りはそれぞれ特殊な効果を持っている。
まあ俺自身の戦闘に差支えはないが、やめるように指示されれば外すとしよう。
「ならば外した方がいいか?」
「いや? お前が邪魔じゃなければ俺は着けてても一向にかまわん。これからの学園生活では模擬戦も行うし、その中で邪魔だと感じれば外せばいいだけだ。それに場合によってはアクセサリータイプの【真理武装】もあるし、そういう意味ではそれを装着したままの戦闘も一つの訓練ではあるな」
「なるほど、了解した」
取りあえず大丈夫そうなので、俺はこのままでいることにする。
そんなやり取りを終えると、先生が手を叩き生徒たちを正気に返した。
「ほら、呆けるのも分かるが、ゼフィウスが困るだろう。それにせっかくだ、質問とかあればホームルームはその時間にあててやるから、どんどん聞いてみな」
その一言に生徒たちは次々と声をあげた。
あまりにも多くの生徒が質問してきたため、俺は困惑してしまう。
その様子を見て、先生は苦笑いしながら助けてくれた。
「いっぺんに質問してもゼフィウスが困るだろう? 先生があてるから手を挙げなさい」
先生の言葉を受け、今度は手がたくさん挙がった。
そして、先生にあてられた生徒は意気揚々と俺に質問をする。
「えっと……趣味は!?」
「これと言ってないが……強いて言うならば食事だな」
「しょ、食事?」
うむ、美味なるものを食すのは至福のときだからな。
「はい! 彼女はいますか!?」
「おらぬ」
その一言でなぜかクラス中の女子生徒から悲鳴のような声が上がった。ううむ……この時代では想い人がいないのはおかしいのだろうか?
そう思っていると、なぜかミリアは呆れたような……「ああ、またやらかしたな」といったような視線を送って来た。解せぬ。
「僕に女性を紹介してくださいッ!」
「己の力で頑張るがよい」
とある男子生徒の質問……と言うより、要求を断るとその生徒は見るからにショックを受けた様子で椅子に座った。
ふむ……そこまで悲しまれると、いたたまれない。
このような感じで質問の一つ一つを俺なりに答えていると、時間が来たようで先生が止めた。
「はい、それじゃあここまでだ。みんなももっと聞きたいことがあれば休み時間にでも聞きなさい。ゼフィウスの席だが……窓際の一番後ろが空いてるから、そこに」
「了解した」
荷物を持って動こうとすると、先生は何かを思い出した様子で俺に続けて言う。
「おっと……自己紹介がまだだったな。俺はこの1年A組を担当してるカインだ。これからよろしくな」
「うむ、こちらこそよろしく頼む」
改めて教師であるカインとあいさつを済ませた俺は、指示された窓際の一番後ろの席に座った。
「改めてだけど、よろしくね」
「ああ」
俺の隣はミリアであり、ミリアは笑顔でそう告げた。
そんな会話をしていると、俺の前に座っていた男子生徒がこちらを振り向き話しかけてきた。
「よぉ! 俺っちはエドガー。こうして席も近いことだし、よろしくな!」
「うむ」
話しかけてきたエドガーという男子生徒は、前髪が左右対称の明るい茶髪の青年だった。
顔だちはセオルドとは違い、どこか柔らかい雰囲気がある。
エドガーは挨拶を済ませると俺とミリアを交互に見て、疑問を口にした。
「そういや、ミリアさんを知ってるようだったけど……もしかして、彼女!?」
「違うわよ、バカ。それにゼフィウスもさっきいないって言ってたでしょ?」
エドガーの言葉にミリアがすかさずツッコむ。
「あ、そうだった。ごめんごめん! でもじゃあ……どうして知ってるの?」
「うむ、縁あって俺はミリアとその兄であるセオルドに世話になったのだ」
「まあ詳しい説明は面倒だからしないけど、そんな感じよ」
「やべぇ、何も伝わらねぇ……」
ミリアと俺の説明に、エドガーは苦笑いしながらそういった。
「こら、そこ! もう授業は始まってるぞ!」
「あ、すみません!」
エドガーたちと会話をしていると、俺たちはカインに注意されてしまった。面目ない。
とはいえ、これからは俺も同じようにこの【ラグナロク】で学んでいく生徒なわけだ。時間はある。
ミリアやエドガーに助けられながら教科書とやらを開き、俺は初めての学園生活を始めることになるのだった。