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 俺は地面に落ちている剣を拾うと、振り返って背後のセオルドたちを見た。


「これでよいか?」

「意味が分からねぇよッ!」


 セオルドは全力でそう叫んだ。


「何? 何が起きたわけ!? 急にゴブリンが自殺したと思えば【真理武装】も手に入ったし……お前何なの!?」

「む? ゼフィウス・デュー――――」

「名前を訊いてるワケじゃねぇからな!? つか、なんで俺たちがこのタイミングで名前を訊くと思ったんだよっ!」


 それもそうだな。

 だが、我が身のことを説明するのはいささか難しい。

 俺の生まれを語るとなると、この時代では混乱を起こすだろう。

 後ろ盾がないというのは不便なモノだ。【大王】が生きておれば好きに動けるのだがな。


「俺は孤島でしばらく生活していた故、俺自身がどこまで異質かは把握しかねる。許せ」

「許せって言われても……」

「……お兄ちゃん、私分かったわ。ゼフィウスのことで頭を使うとそれだけバカバカしくなるって」

「ミリア!? お前は考えるの放棄するなよッ! いや、俺も考えるの止めてぇけどさ!」


 どこか遠い目をしていたミリアは、ため息を一つ吐くとセオルドに言う。


「いいじゃない。お目当ての【真理武装】は手に入ったようだし、ゼフィウスも悪い奴じゃなさそうでしょ? それにどんな力を持ってて、使ったのかは分からないけど……あんな意味の分からない力が使えるなら敵対してる時点で私たち死んでると思わない?」

「そりゃあ……まあ……」

「一つ訂正させてもらおう。俺は先ほど特に力などと呼べるものは使っておらぬぞ。ただ命令しただけだ」

「これ以上話をややこしくするんじゃねぇぇぇええええ!」


 そう言われても、俺は本当に力など使っていないのだ。


「まあ良いではないか。……それでセオルドよ。これはどのような効果を持つ【真理武装】なのだ?」

「よくはねぇんだけど……俺らの手に負える問題でもねぇか。このことは学園長に報告するぞ」

「好きにするがいい」

「もう何なの? コイツ……ったく……えーっと……」


 俺から剣を受け取り、ルーペで観察していたセオルドは残念そうな表情で俺に剣を返した。


「あー……言いにくいんだがな……コイツはハズレだな」

「ハズレ? 【真理武装】ではないのか?」

「いや、そういう意味じゃねぇ。もちろん【真理武装】だし武器でもあるんだが……効果がな……」

「ふむ……どんな効果なのだ?」


 俺がそう訊くと、セオルドはため息を吐きながら教えてくれた。


「効果は『折れない』。ただそれだけだ。名前は【折れぬ剣】。もちろんG級だ」

「そのままだな。だが、折れぬのは普通に良いモノなのではないか?」


 俺がそう訊くと、今度はミリアが首を振ってこたえる。


「いいえ、もっと上級の【真理武装】なら……『折れず、凄まじい切れ味を誇り、切れ味が落ちることはない』くらいは効果として付与されてるはずよ」

「そうだな。そこにプラスして『炎が出る』だとか『実体のない物でも斬れる』とかいろいろ追加されてくな。この【初心の迷宮】では他に【無限銃】って弾が無制限に撃てる武器があるんだが……」

「普通は遠距離で攻撃したりする方がいいの。いきなり近接戦ができるのなんて本当に戦闘センスの塊みたいな連中だけよ」

「なるほど」


 そういうことならば確かに折れぬだけの剣は弱いのだろう。遠距離攻撃の方が安全だということも納得できる。腐っても【天使】や【神】の名を冠する連中だ。人間が近接戦で対抗するには少々厳しいであろう。

 俺は【折れぬ剣】を握り、その場で一度軽く振るった。

 ……うむ。問題なかろう。俺の力に耐えられるならば何だってよい。


「せっかくこの場所で初めて手に入れた物だ。俺はこれを大切に使おう」

「お、おう……おい、ミリア。今ゼフィウスが剣振ったの見えたか……?」

「……全然。気付いたら振り下ろしてたわね……」

「?」


 二人が再びヒソヒソと何かを話しているが、俺には聞こえなかった。

 それよりも、こうして気軽に振るえる武器が手に入ったのは素直に嬉しい。

 個人で所有してる武器はあるが俺の体質・・や武器の特性上、おいそれと取り出せるモノは何一つ持っていないのだ。不便なことにな。

 だがこうして最下級とはいえ危険の少ない【真理武装】を手に入れられただけでもこの場に来た意味は大きいであろう。


「さて、武器を手に入れたら直接戦闘をするのだったな?」

「え? あ、ああ」

「ならば、そこにいるゴブリンとやらで見せよう」

「へ? どこにゴブリンが……って本当にいた!」


 俺は奥からやって来たゴブリンを見据えて、自然体に立つ。

 すると、俺たちの姿に気づいたゴブリンが声をあげながら突撃して来た。


「ギ! グギャギャギャ!」

「耳障りだな」


 そんなゴブリンに歩きながら近づき、俺はすれ違いざまに首を斬り飛ばす。

 首を斬られたゴブリンはそのまま光の粒子となって消え、後には一つのカバンが落ちていた。


「うむ、また【真理武装】が落ちたようだな。鑑定を頼む」

「マイペース過ぎるだろ!」


 鞄を拾い、セオルドに渡すとそう言われてしまった。そこまでマイペースだろうか。分からぬ。


「なんか分かってなさそうだし、もういいや……んで、コイツは【亜空間バッグ】だな。G級でミリアが見せたのと同じで20キロまで収納できるタイプだ」

「そうか。ならばよいモノだな」


 俺としてはありがたい。今日だけで普段で使える【真理武装】が三つも手に入ったのだ。嬉しい限りだ。


「それで、この後はどうするのだ? このまま迷宮の探索を続けるのか?」

「いや、今日はこれで帰るよ。お前さんのことを学園長に報告もせにゃいけねぇしな」


 セオルドの言葉に異存はないため、俺たちは【初心の迷宮】を後にするのだった。


◆◇◆


「ご苦労様。どうだったかな?」


 迷宮から戻った足でそのまま学園長室を訪れると、そこではグレイドが何やら書類を片付けていた。


「うむ、無事【真理武装】を手に入れたぞ」

「そうか。それで、何を手に入れたんだ?」

「【折れぬ剣】だな」

「お、【折れぬ剣】!? いいのか? それで……もう少し頑張れば【無限銃】とか手に入るかもしれんぞ?」

「問題ない」


 俺の告げた武器の名前に、グレイドは驚いた様子を見せる。

 すると、セオルドが疲れた様子で口を開いた。


「コイツ、メチャクチャなんスよ……最初のゴブリン戦では丸腰で立ち向かったかと思えば急にゴブリンが自殺するし、そのまま【真理武装】は落とすし……何なんですか?」

「ゴブリンが自殺? どういうことだ?」


 訝し気にグレイドが俺を見てきたため、何も隠すことはない俺は素直に答えた。


「命令しただけだ。その身に宿る全てを差し出せとな」

「め、命令……」

「それだけでもだいぶおかしいんですけど、その後手に入れた【折れぬ剣】を使った戦闘もぶっ飛んでました。気付けばゴブリンの首が斬り飛ばされてたんですよ。いつ剣を振ったのかまったく分かりませんでした……」


 補足するように告げたミリアの言葉に、グレイドはますます驚く。


「……話を聞いた限りではずいぶんと強いようだな」

「そうか? あの程度、造作もないが……」

「……やはり君は常識を学んだ方がいいだろう」

「「間違いない」」


 セオルドとミリアの二人からも強く言われた。解せぬ。


「まあいい。とにかく、君は無事【真理武装】を手に入れたわけだ。明日からすぐにと言いたいところだが、それではあまりにも急だろう。とはいえ、明後日にはこの学園に正式に通ってもらう。いいね?」

「構わぬ」

「クラスについてだが、今はミリア君と同じクラス……1年A組を予定している。クラスについては特に成績などは関係ないから、純粋に知り合いがいるミリア君のところにと思っているのだがどうかな?」

「問題ない」

「そうか。ではゼフィウス君。私はセオルド君たちに用事があるが、君はもう下がってもいいよ」

「了解した。……セオルド、ミリア。今日はありがとう」


 俺は改めて今日付き合ってくれた二人に礼を言った。

 すると、二人は一瞬呆けた様子を見せるも、すぐに笑顔を浮かべた。


「気にすんなって! 明後日からは正式に同じ生徒なんだしよ。まあ俺は2年A組だから学年が違うんだが……」

「そうよ。私たちも楽しかったし、気にしないで。私とは同じクラスになるみたいだし、何か困ったことがあれば遠慮なく言ってちょうだい。……何も聞かれなくて大惨事になる方が困るから」

「ありがたい。では、失礼する」


 俺は三人にそう告げると、学園長室を後にするのだった。


◆◇◆


 ゼフィウスが去った後、グレイドは真剣な表情でセオルドたちに訊いた。


「さて……君らはゼフィウス君のことをどう思う?」

「どう……とは?」

「何でもいい。思ったままの感想を言ってくれ」


 グレイドにそう言われ、二人は少し考えるとすぐに口を開いた。


「そうですね……まず、世間知らずです。学園長も分かる通り、ゼフィウスはなぜか常識をほとんど知りません。なんていうか……凄い前の時代の人間を相手にしてるような……」

「ふむ……」

「私も兄と同じように感じます。同い年だと思うんですが、雰囲気がとてもそう思えなくて……それに、妙な力を持っているようですし」

「……確か、ゴブリンに命令して、そのゴブリンが自殺したのだったね?」

「はい」


 グレイドは椅子に深く座ると、ため息を吐いた。


「ふぅ……正直、ゴブリンクラスならば私でも手を下すことなく殺すことは出来る。だが、それは圧倒的強者の威圧を放ち、心臓を止める荒業だ。これができるのは圧倒的格上であることが条件なのだが……話を聞く限り、ゼフィウス君はそれとは違うようだ」

「そうですね……それに、その謎の力もそうですが、剣も尋常じゃないレベルで使えるようです」

「本当に剣筋がまるで見えなかったんですよ」

「ううむ……」


 グレイドは唸ると、セオルドたちに話した。


「この二日間、私はゼフィウス君に関する資料を探してみた。【ブラック・プレート】の私だからできる荒業だが、全大陸の戸籍データを見たのだ。だが、どこにもゼフィウス君の名前はなかった……」

「ということは……ゼフィウスはどこの国にも所属してないんですか?」

「そういうことになる。【天界】の尖兵と思って警戒していたのだが、彼の様子を見てるとどうも違うようだ……」


 グレイドの言葉に、セオルドたちは顔を見合わせると改めて口を開いた。


「その……ゼフィウスなんですが、悪い奴じゃないと思います」

「む? どういうことかな?」

「昨日、服を買いに街に出たんですが……そこで私、いわゆるナンパにあったんですよ。それを、ゼフィウスは助けてくれました」

「まあゼフィウスがラグナロクの制服を着てたんで、それで相手が引いたってのはありますが……なんていうか、ゼフィウスの雰囲気がすごく柔らかくて、相手も思わずその雰囲気に流されてた節はありますね」

「なるほど……ううむ、考えれば考えるほど謎が深まるな……」


 しばらく唸り続けたグレイドだが、やがて諦めたのかため息を吐いた。


「はぁ……まあ分からぬことを考えても仕方ない。今のところ、私自身も彼は危険ではないと思っている。謎は多いがね」

「それは……俺たちも同じです」

「うむ。では、二人には申し訳ないが、引き続き彼を観察してもらえないかな? 監視とまではいかなくてもいい。別に敵対行動や怪しい動きをしてるワケでもないしな」

「はい、分かりました」

「頼んだぞ」


 グレイドの言葉に返事した後、セオルドたちは学園長室を退室した。


「さて……彼は我々の味方なのか、敵なのか……」


 グレイドは小さくそう呟くのだった。

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