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「ここが【初心の迷宮】だぜ」

「ふむ……」


 俺はセオルドとミリアの二人と共に【ラグナロク】の敷地内にある【初心の迷宮】とやらを訪れていた。

 昨日は二人と街に出て様々な買い物をしたのだが、今日はこのダンジョンに行くのだ。

 今日はダンジョンに挑むため、服は制服を着ている。何でもこの制服、動きやすさと防御力の両立を追求した特殊素材でできているそうだ。凄まじい発展だな。俺の時代では考えられない。

 【初心の迷宮】と呼ばれるダンジョンの壁や入り口は特殊な鉱石でできている。


「さて……入る前に【真理武装】と【初心の迷宮】について説明しておこうか」

「よろしく頼む」


 素直にお願いすると、セオルドは一つ頷いて説明を始めた。


「まず【初心の迷宮】だが、その名の通り初心者向けのダンジョンだな。どこが初心者向けかっつーと、ダンジョン内で出現する魔物が弱い。あ、魔物ってのも軽く説明すると、普通の動物とは異なる凶暴な生き物って感じだな」

「うむ」

「んで、例え弱いと言っても魔物と戦えば怪我をすることもあるし、最悪死んじまうこともある。【討滅者】を育成するための学園で、【討滅者】になる前に魔物で死んじまったらまったく笑えねぇ。だが、この【初心の迷宮】は迷宮内で致命傷を負うと強制的にダンジョンの外へ転移させられるんだ。しかもダンジョンの外にはこうして治療所もあるから死ぬ事はねぇ」


 セオルドの言う通り、【初心の迷宮】の近くにはここ【ラグナロク】で保険医をしているというヴィオラと似たような白衣姿の人間が数人確認できた。


「なるほど……」

「だが、いい事ばかりってわけでもないんだ。最初にも言ったが、ここは初心者のための場所であって、魔物を倒しても【真理武装】は弱いモノしか手に入らねぇんだ。それに確実に手に入るわけでもねぇしな」

「む? その【真理武装】とやらは魔物から手に入れるのか?」


 思わずそう訊いてしまうと、今度はミリアが説明を引き継ぐ。


「そうよ。【真理武装】っていうのはダンジョン内で魔物を倒したり、はたまた宝箱から手に入れたりする武具の総称よ」

「宝箱……」

「ええ。詳しい理由はまだ解明されてないんだけど、一定周期で宝箱の中身は更新されてて、運よく宝箱を見つけたら中に強力な【真理武装】が入ってることもあるわ。もちろん、それを利用した罠もあるから宝箱を見つけたからって無暗に開けず、慎重にならなきゃダメよ」

「ふむ……」


 ダンジョン、か……懐かしいものだ。

 しかし、よくよく話を聞いていると【真理武装】とやらは俺の持っている多くの武具と同じモノのようだ。

 ただ、俺の時代では【真理武装】などと呼ばれることはなかったため、てっきり持っていないと思っていたのだが……。

 まあこうして説明をしてくれているのだ。黙って聞いていよう。それに、もしかしたら俺の持つ武具とは微妙に違うかもしれんしな。


「それで、【初心の迷宮】で手に入る【真理武装】なんだけど、主にG~D級のモノが手に入るわ」

「G? E? 何だ、それは」

「あ、そこの説明もいるのか……えっと、【真理武装】にはランクがあって、一番下がGでF、E、D、C、B、A、Sといった感じで上がっていくの。S級の【真理武装】なんてそれこそ【ブラック・プレート】の人たちくらいしか持ってないような超強力な武具で、ここ【初心の迷宮】じゃだいたい最低ランクのG級が手に入るわ」

「ほう……」

「でもG級だからって侮っちゃダメよ? 例えば……これ!」

「む?」


 そう言ってミリアが見せたのは、何の変哲もない茶色の肩掛けバッグ。


「これ、見た目は普通だけど実はG級の【真理武装】で、名前は『亜空間バッグ』って言うの」

「『亜空間バッグ』?」

「そう。効果は単純でこのバッグの中に20キロまで収納できて、しかも20キロ収納してたとしても重さはこのバッグの重さだけ! もちろんもっとランクが高い【真理武装】の中には限界無しの『無限バッグ』ってのもあるみたいだけど、G級でもこういった便利なアイテムは手に入るのよ」

「確かに便利そうだな」


 しかもG級と言うことは、誰もが手軽に手にできるというわけだ。かなり魅力的だろう。


「他にも、【真理武装】の名称なんかを調べる『鑑定ルーペ』もG級だな」

「それも便利だな」


 セオルドが見せてくれた、バッグと同じように何の変哲もないルーペだが、効果は非常にいいようだ。


「つーわけで、確かに強力な武具は手に入らねぇが、便利なモノは手に入るのさ」

「それに、G級の『亜空間バッグ』なんかは需要が高いし、もしいらないならこの学園で売ることもできるから気軽に金策もできるわ」

「G級様様だな」


 何だ、G級。非常にいいじゃないか。むしろ人間たちへの貢献度ならばS級だろう。


「とまあ……そこそこ説明したけど、ある程度分かったか?」

「ああ。感謝する」

「うし。じゃあ、さっそく迷宮に入っていくか!」

「今回はゼフィウスの【真理武装】を手に入れるのが目標で、他にも学園長に軽くダンジョンというモノを体験させてくれって頼まれたから、何回かはゼフィウス自身に戦ってもらうわね」

「承知した」

「まあ気楽にいこうぜ? だいたいの魔物は俺たちが相手にしてやるし、その過程で戦い方も見せてやるからよ。ゼフィウスは【真理武装】が出現することだけ願ってりゃいいよ」

「うむ」


 セオルドの頼もしい言葉を受け、俺は一つ頷いた。

 そしてセオルドを先頭に俺たちは迷宮に足を踏み入れる。

 ……本当に懐かしいな、この感じは。

 俺が睡眠に入る前などはダンジョンなど向かうこともなくなっていたからな。

 少しだけ感傷に浸っていると、不思議そうにミリアが訊いてくる。


「ん? どうかした?」

「……いや、何でもない」

「……おっ、ゼフィウス。見てみな」

「む」


 セオルドに促され前方に視線を向けると、緑色の肌をした小人がボロボロのナイフを持ってうろついていた。


「あれは【ゴブリン】だな。この迷宮じゃアイツが主に出てくるぜ」

「そのゴブリンが出てくるのも、初心者向けの理由の一つでもあるわ」

「そうなのか?」

「俺たち【討滅者】が相手をするのは主に【天使】や【神】どもだ。アイツらの体構造はかなり人間に近い。もちろん俺たち人間にはない器官や部位はあるが、ほとんどは人間と同じなのさ。だから、人型でかつ弱いゴブリンが出てくるここは初心者向けなんだよ」

「なるほど……」


 俺が納得して頷いていると、セオルドは右腕に嵌められた銀色のブレスレットに触れた。


「取りあえず倒して見せるから、倒した魔物がどうなるか見てな」


 セオルドが触れたブレスレットが光ると、両手に黒を基調とした二丁の拳銃が握られていた。


「それは……」

「ん? ああ、コイツは俺のD級【真理武装】だ。俺なんかにはもったいないがな」


 そういうとセオルドは両手の銃を構え、ためらいなく引き金を引いた。


「ギィ!? ギ、ギギ……」


 鋭い発砲音の後、ゴブリンは手にしていたナイフを落とし、数歩よろめくと光の粒子となって消えていった。


「とまあ……倒し方は参考にならないだろうが、こんな感じでダンジョン内で倒した魔物は光の粒子になって消えるんだ。……おっ! 【真理武装】を落としてるぜ」

「運がいいわね。魔物を倒したからって絶対に手に入るわけじゃないし」

「だな。じゃ、何が手に入ったか確認しようぜ」


 ゴブリンが消えた場所まで移動すると、そこにはミリアやセオルドの腕につけられている腕輪が残っていた。


「あー……これは当たりっちゃ当たりだが、先に武器になるもんが欲しかったなぁ……」

「ん? そうなのか?」

「ああ。これは『携帯武器庫』だな」

「『携帯武器庫』?」

「そうだ。これには手に入れた【真理武装】を登録できて、登録された【真理武装】を一瞬で手元に召喚したり収納したりできるから上位のプレート持ちも愛用してるんだぜ?」

「ふむ……」

「本当は武器をちゃっちゃと手に入れて、ゼフィウスには実戦を経験してもらいたかったんだが……まあ仕方ねぇ。これが当たりなのは間違いないからな。ほれ」

「む? 何だ?」


 突然、セオルドは手に入れたばかりの腕輪を俺に突き出してきた。


「何って……やるよ」

「よいのか? セオルドが手に入れた物だろう?」

「いいんだよ。そもそも、ここにはゼフィウスの【真理武装】を手に入れに来たんだ。俺たちはこの通りもう持ってるし、売ってもいいんだがそこまで金にも困ってないしな」

「ん……ならば有り難く頂戴しよう」

「おう」


 腕輪を受け取ると、セオルドは気持ちのいい笑顔を浮かべた。


「でも武器を手に入れないと、本当にゼフィウスの実戦が出来ないわ」

「そうだなぁ……とはいっても願って簡単に出てくるもんでもないし……」


 俺が腕輪を着けている間に二人が困った様子で相談していると、先ほどと同じように再びゴブリンが現れた。


「お? ちょうどよくまた出てきたな。悪いが、武器が手に入るまではゼフィウスは待っててくれよ」

「いや、その必要はない」

「え?」


 俺はセオルドとミリアの間を通り、ゴブリンの前に静かに立った。

 すると俺の存在に気付いたゴブリンが顔に愉悦の笑みを浮かべて突撃してくる。


「ギ! ギギィッ!」

「ちょっ……ゼフィウス!?」

「案ずるな、すぐ終わる」


 助けようとしてくれたミリアを手で制し、俺は迫りくるゴブリンを冷静に見つめる。

 そして――――。


「――――ゴブリンよ」

「ギ? ……ギギ!?」


 ゴブリンの名を一言口にする。

 その瞬間、ゴブリンは動きを止めた。


「え?」


 背後でセオルドたちの驚く気配が伝わってくるが、俺は気にせずゴブリンを見下ろしながら言葉を紡いだ。


「その命を、その身に宿る全てを――――捧げよ」

「ギ――――」


 ゴブリンは何かに恐れおののく様子を見せると、手にしていたナイフで自身の首を切り裂いた。


「ギッ!」

「「っ!?」」

「……」


 ゴブリンはその場にうずくまると、先ほどと同じく光の粒子となって消えていく。

 その場に残ったのは、鈍い光を放つ何の変哲もない一振りの剣だった。

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