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「ここが音楽室で、あっちが美術室。んで、ここを抜けると体育館だ」

「ふむ……」


 俺はセオルドにこの学び舎【ラグナロク】を案内してもらっていた。


「うし、特別教室は案内し終わったな。後は俺たちが普段勉強してる教室なんだが……」

「あ、お兄ちゃん!」

「ん? おお、ミリアか」


 セオルドを兄と呼び、近づいてきたのはどことなくセオルドに似た少女だった。

 少女は俺の方を見て驚くと、セオルドに説明を求める。


「お、お兄ちゃん! 彼って……」

「ああ、あの時助けたヤツだよ。目が覚めたんでこうして学園を案内してんだ。あ、もちろん学園長から許可は貰ってるからな?」


 セオルドは少女の肩に手を置くと、軽い紹介をしてくれる。


「コイツは俺の妹でミリアってんだ。こう見えて『ブルー・プレート』なんだぜ?」

「こう見えては余計よ! ……えっと、セオルドの妹、ミリアです」

「ゼフィウス・デュー・ローゼンだ。好きに呼ぶがいい。……ところでグレイドの所でも出ていたが、【プレート】とはなんだ?」

「え?」


 俺の質問にミリアは目を丸くして驚くと、セオルドは苦笑いしながら説明した。


「ははは……悪いな、何故だかゼフィウスには常識がねぇんだ。だから、俺たちが当たり前に知ってるようなことでも知らないんだよ」

「常識がないというのは不本意だが、現状認めざるを得ない」

「どんな生活してたら常識がないのよ……」


 ミリアは呆れたようにため息を吐くと、俺の質問に答えてくれた。


「それで、【プレート】が分からないって言ったっけ?」

「ああ」

「簡単に説明すると、【プレート】って言うのは【討滅者】資格と等級……強さを示すものよ。等級ごとに色が決まってて、最高位が『ブラック・プレート』でその下に『ゴールド』、『シルバー』、『ブロンズ』、『ブルー』、『レッド』、そして『ホワイト』が存在するわ。この学園の子たちは『ホワイト』の資格を得るために日々勉強してるってワケ」

「なるほど」


 つまり、グレイドは【討滅者】とやらの中でも最上位の存在らしい。

 セオルドはブロンズと言っていたし、ちょうど真ん中か。妹のミリアはそれの一つ下。


「……ん? そう言えば、この学び舎はその【討滅者】とやらを育成するための場所なのでは? 二人はもう既に【討滅者】としての資格を持っているということか?」

「……ええ。私たちは昔から【天使】と戦い続けてきたからね」


 そう言うミリアの表情はどこか暗かった。

 すると同じようにどこか表情を暗くしていたセオルドが空気を変える。


「まあいいじゃねぇか! 取りあえず、ゼフィウス。どうだ? この【ラグナロク】の施設はある程度分かったか?」

「ああ。感謝する。それでこの後はどうするのだ?」

「んー……案内に結構時間がかかったし、このまま学園長の所に戻ろうか」

「了解した」


 今度はミリアも加わった三人で、再び学園長室を訪れる。

 セオルドがノックすると、グレイドの声が聞こえてきた。


「入りなさい」

「失礼します」


 入室するとそこにはヴィオラの姿がないため、本来の職務へと戻ったようだ。確かに時間がかかったのでな。当然だ。


「どうかね? ゼフィウス君。この学園はお気に召したかね?」

「うむ。見慣れないモノばかりであり、すべてが新鮮だった。何よりも驚いたのが……」

「驚いたのが?」

「ハンバーグ」

「施設じゃねぇの!? つか、どんだけ気に入ったんだ!」


 うむ、アレは実に美味であった。

 ハンバーグを代表として挙げたが、それ以外の……例えば『エビフライ』や『から揚げ』などにも俺は感動した。

 あの食事を思い出し感動に浸っている中、ミリアが驚きと呆れを含んだ様子で口にした。


「……本当に謎だらけなんだけど、とりあえず学園長相手にあそこまで偉そうに話せるのはすごいと思うわ……」

「……相手は『ブラック・プレート』だって言うのにな。肝が据わりすぎだろ」

「臆する必要がないゆえな」


 敵ではないのだから。

 俺たちの様子をにこやかに見つめていたグレイドは、思い出したように言った。


「おっと、そうそう。ゼフィウス君には先ほども言ったが、この学園に通ってもらう。そこまではいいね?」

「うむ」

「一つ質問なのだが、【真理武装】を扱ったことは?」

「【真理武装】?」


 そう言えば、俺が目覚めたときセオルドが同じ単語を口にしていたが……。

 そんなことを思い出していると、セオルドも同じ場面を思い出していたようで、教えてくれた。


「ほら、ゼフィウスが着てた鎧あるだろ? あれ、【真理武装】じゃねぇのか?」

「ふむ……残念だが、俺の鎧はその【真理武装】などと呼ばれるものではない」

「え、違うのかよ!? ハッ!? ま、まさか……【神核武装】か!?」

「なんだ? それは」


 次々と飛び出る知らない単語に、俺は首を捻るばかり。

 俺の持つ鎧などは『俺の一部』であるし、今この場には出していないが他のモノもそのような名称で呼ばれることはなかった。

 俺の反応を見てグレイドは一つ頷いた。


「詳しいことは分からないが、どうやら【真理武装】を使ったことはないようだね」

「それを使ったことがなければいけないのか?」

「いや、そんなことはない。ここは【討滅者】を育成する学園だ。君のようにこの学園で初めて【真理武装】を手にする者も当然いるさ。安心しなさい」

「そうか」


 よく分からないが、大丈夫らしい。


「それはともかく、使ったことがないのは問題ないが、この学園にいるからには必ず一つは必要になるだろう。――――というワケで、幸い明日と明後日は休日だ。セオルド君とミリア君に頼みたいのだが、この休日にゼフィウス君を【初心の迷宮】に連れて行ってくれないか?」

「【初心の迷宮】?」

「知らない? 世界中に存在するダンジョンの一つで、ここ【ラグナロク】が正式に管理してる初心者向けのダンジョンよ」

「その通り。そこに赴き、君の【真理武装】を一つ手に入れてきなさい。系統は問わないから。いいね?」

『はい!』

「? うむ。話についていけてないが、了承した」

「分からないのに了承するなよ!? いや、どのみち行くことになるんだからいいんだけどよ!」


 俺の反応にセオルドが思わずツッコんでいると、ミリアは俺の体を眺めた後、真剣な表情でグレイドに告げた。


「学園長。【真理武装】もそうですが、彼の服装をどうにかした方がいいのではないですか? 似合ってはいますが、その……かなり浮くので」

『あ……』

「?」


 俺一人首を捻っていると、グレイドは苦笑いしながら俺に声をかけた。


「ゼフィウス君。やはり先に服を買って来なさい。制服などの学業に必要なモノはこちらで用意するから、日常品を買うといいだろう。すまないがそちらもセオルド君たちに任せてもいいかね?」

「え? あ、はい! ……コイツを一人にするほうがなんか心配なんで」

「私も大丈夫です」

「ありがとう。というワケで、後でセオルド君たちにお金を渡しておこう。服以外にも日常品を買うといい。何がいるのか分からなければ、セオルド君たちに訊けば教えてくれるだろう」

「うむ、手間をかけるな」

「本当にな!」

「……私たち、とんでもない人物拾ってきたんじゃない?」


 こうして俺は、明日を二人と共に過ごすことになるのだった。

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