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「ふむ、取りあえず満足だ」

「……俺、リアルで皿が積み重なっていくところ初めて見たぜ……って、まだ食えるのか!?」


 俺は現在、セオルドとヴィオラに連れられ、建物内を歩いていた。

 ここは何でも【ラグナロク】というこの施設は、天使や神々を相手にする【討滅者】とやらを育成する学び舎らしい。

 学び舎を卒業した者は、各国に存在する【討滅院】とやらに所属するそうだ。

 そんなことよりも俺は先ほど食べた『ハンバーグ』とやらが美味しく、未だに口の中で味が残っている。

 肉でありながらふわっとした触感と、肉汁とソースが絡み合うのはもう何とも言えぬ美味だった。

 この学び舎もそうだが、食事面でも俺の知らない間にずいぶんと世界は変わったみたいだ。


「ね、ねぇ……」

「セオルド君の隣、あの人誰かしら……?」

「カッコイイ……」


 学び舎の長い廊下を歩いていると、セオルドと同じ種類の服を着た女子生徒たちがこちらを見て何やら話していた。


「? 先ほどから視線を多く感じるのだが、俺の格好はおかしいだろうか?」

「……おかしくねぇから安心しろ。むしろ似合いすぎてるくらいだ。悪いことは言われてねぇよ」

「そうか」


 別に悪いことを言われていようが気にはならないのだがな。

 しばらくの間多くの視線にされされながら歩いていると、とある部屋の前で立ち止まった。


「ここが学園長室よ。……学園長、少しいいでしょうか」

「入りなさい」

「失礼します」


 ヴィオラが軽く説明し、扉をノックすると部屋の中から渋い声が聞こえてきた。

 ヴィオラたちに続いて中に入ると、白髪を後ろに流した壮年の男性が机で何やら作業をしていた。

 一区切りついたのか、視線を上げ、男性は俺たちを優しい瞳で見つめる。


「彼がその問題の子かな?」

「はい……いろいろと質問しましたが、常識が通じないこと以外はこれといった問題はないかと」

「常識が通じないのが一番困るんだがね」


 男性は愉快そうに笑うと、視線を俺に移した。


「私は学園長のグレイドだ。君の名前は?」

「ゼフィウス・デュー・ローゼン。長いであろうから、ゼフィウスで構わん」

「そうか。ではゼフィウス君――――君は一体何者なのかね?」


 突然、グレイドと名乗った男性の雰囲気が変わった。

 先ほどまで優し気なモノだったのが、今はずいぶんと圧迫的である。


「うむ……何者かと聞かれると非常に困るのだが……取りあえず俺は『人』だ。そこに違いはない」


 少し悩むも答えはこれ以外特にない。自身が何者か分かっている人間などそういないであろう。

 俺が臆した様子も見せず、アッサリと返答したことでグレイドは目を丸くした。


「君は……」

「む?」

「……いや、ずいぶんと肝が据わっていると思ってね」

「ううむ……生まれつきだからな。何とも言えぬ」


 生まれつき感情の起伏というモノは少ないのだ。それでも先ほどの『ハンバーグ』は驚いたが。

 すると、グレイドは圧迫的な雰囲気から再び柔らかく優しい雰囲気へと戻った。


「そうかそうか。すまないね、試すような真似をして」

「? 俺は試されていたのか?」

「……いや、君が気にしていないようならそれでいい。さて、ヴィオラ君。彼の処遇についてだったね?」

「え? あ、はい!」


 隣でグレイドの気に当てられていたヴィオラは声をかけられたことで正気に戻る。

 そんなヴィオラに苦笑いしながら、グレイドは告げた。


「彼の処遇だが……私が預かろう」

「あ、はい。…………はい!?」

「む?」

「え? え? 何が起こってんだ? なあ?」


 今までの成り行きを理解できていないセオルドは当然として、俺もグレイドの言葉の意味が分からなかった。


「何、簡単なことだよ。ヴィオラ君、ゼフィウス君のことはデータになかったのだよね?」

「は、はい。この【グランディオ王国】だけでなく、世界中のデータベースで検索をかけたのですが、どこの国の戸籍にも彼の名前は存在しませんでした」

「ということはだ。彼は孤児同然。私が預かっても問題なかろう?」

「え、ええ。それはそうですが……って、だからどうして学園長が!?」

「ふむ……グレイドよ。ヴィオラの様子を見ていると、お前のもとにいるのは何か問題があるのか?」


 俺はグレイドに聞いたつもりだったのだが、俺の質問にはヴィオラが答えてくれた。


「大きな問題ってわけじゃないけど、学園長は【討滅者】の等級の中でも最高位である『ブラック・プレート』なの。そんな学園長の実質養子になるってことは、それだけで【討滅者】としての期待がかかるわ」

「ほう、そうか」

「……とても反応が薄いわね。って、常識が通じないんだからいくら言っても分からないのか……」


 何やら思い出した様子のヴィオラは、頭を抱えるとため息を吐いた。


「ちなみに俺は『ブロンズ・プレート』だぜ!」


 するとセオルドは俺に胸元につけられた銅色のプレートを見せてきた。プレートには、名前が刻み込まれている。


「うむ、すごいのかすごくないのか分からんが、すごいと言っておこう」

「今分からないって言ったのに!?」

「ははははは! いいだろう? 私が彼を引き取っても。彼が【討滅者】になるかどうかは別にして、私が預かればこの学園に通わせることだってできるんだ。悪くない話だろう」

「……そうですね。ただ、ゼフィウス君の方はどうなのでしょう?」

「どうするかね?」


 黙って成り行きを見守っていると、最終決定権は俺にゆだねられたようだ。

 ふむ……。


「では、グレイドの世話になるとしよう。正直、右も左も分からぬのだ」

「よし、決まりだな。セオルド君! ゼフィウス君にこの学園を案内してきてあげてくれないか?」

「お安い御用っスよ」

「では頼んだよ。ゼフィウス君。案内が終わったら、再びここに戻ってくるように」

「了解した」

「ほら、行こうぜ!」


 グレイドの言葉に頷くと、セオルドは俺の腕を引いて行くのだった。


◆◇◆


「……学園長、本当の目的は何でしょう?」


 ゼフィウスが去った後、学園長室に残ったヴィオラはそう尋ねた。


「会話の様子を見るに問題ないだろうが、一応監視という目的もある。私の威圧にあそこまで無反応だったのは気になるしな」

「ですが、セオルド君が気付かなかったように、彼も学園長の威圧に気付かなかったのでは? 実力差がありすぎると逆に分からない場合もあるでしょうし……」

「それはない。彼は私の威圧を真正面から平然と受け止めたうえで、あの態度だったのだ。……【天界族】や【悪魔】たちの仲間ではないようだが、やはり慎重に行くべきだろう。ヴィオラ君も頭の片隅に置いておいてくれ」

「……分かりました」


 ヴィオラは一礼すると、学園長室から退室するのだった。

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