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「ん……」


 ここは……?

 俺は目を覚ますと、目の前には見たことのない真っ白の天井が。

 頭が未だにボーっとする中、微かに薬品の臭いがする。

 ……どこかの施設か?

 そんなことを考えていると、近づいてくる人の気配を感じた。


「ん? おっ! 目が覚めたようだな!」


 俺の顔を覗き込むようにして見てきたのは、逆立たせた赤髪と意志の強そうな金目が特徴の精悍な顔立ちの青年だった。


「いやぁ、急に倒れるから焦ったぜ!」

「倒れた……?」


 そう言えば、俺は『力』を使って――――。

 そこまで考えた瞬間、俺のお腹が大きく鳴った。

 あまりにも大きなその音に、青年は呆れた。


「おいおい……起きて早々に腹が鳴るとか……」

「ううむ……」


 そう言われても、腹が減っているのだ。仕方がない。

 とはいえ、いささか品がないのも事実。世知辛いモノだ。


「そうだ。先生が来る前に聞いちまうが、お前さんは誰だ?」

「名か? 名はゼフィウス・デュー・ローゼンだ」

「……何かスゲェ仰々しい名前だな。俺はセオルド。よろしくな! ……それでその鎧は何なんだ? 倒れた時に脱がせようかと思ったんだが、全然脱がせられなくてよ……コスプレじゃねぇのか? それ」

「何か問題が?」

「いや、見てて苦しくねぇのかなぁと。もっと楽な格好をしたらどうだ?」


 コスプレとやらは分からないが、確かに戦闘時でもない今は鎧を着ている意味がない。

 セオルドという青年の言葉に納得した俺はすぐに鎧を解除するように念じると、鎧は光の粒子となって消えていった。


「これでいいか?」

「……さっきから驚きっぱなしだが、本当にコスプレじゃなくて【真理武装】だったんだな、それ」

「?」


 先ほどから聞き慣れない単語をいくつも聞くが……俺は『あの戦い』から何年眠っていたのだ?

 目が覚めたからには回復したと思ったのだが、少々力を使っただけで腹が減る。うむ……。

 そんなことを考えていると、なぜかセオルドは額を抑えた。


「確かに鎧を脱げと入ったが、脱いでも結果的に楽そうな格好じゃねぇじゃねぇか……いや、似合ってるぞ? 恐ろしいまでに似合ってるんだが……いつの時代の人間なんだよ……」

「?」


 これまた変なことを言う。

 俺の格好は白のドレスシャツに黒のベスト。その上に黒に金の刺繍が施されたフロックコートといった俺としては普段通りの格好だった。


「おい、マジかよ……本当に何者なんだ? お前は……」


 頭を抱えるセオルドを眺めていると、新たな人の気配を感じた。

 その気配の主は真っ直ぐに俺たちの下へやって来る。


「こんにちは。彼は目は覚ました?」

「あ、先生!」


 やって来たのは白衣を羽織り、俺からすれば珍しい眼鏡をかけた女性だった。

 セオルドよりも年上のようで、紫の髪を一つにまとめており、同じ紫色の瞳は優し気だ。


「あら、目が覚めたみたいね。私はここ――――討滅者育成学園【ラグナロク】の保険医をしてるヴィオラよ。調子はどうかしら?」

「討滅者? ラグナロク?」


 なんだそれは。聞いたこともない。

 疑問符が俺の頭で飛び交う中、セオルドがヴィオラと言う女性に説明している。


「先生! コイツ変なんスよ! あ、名前はゼフィウスっていうらしいんスけど、見ての通り服装とか……とにかく色々非常識なんスよ!」

「そうみたいねぇ」


 知らぬ間に非常識認定された。解せぬ。


「えっと、ゼフィウス君。質問いいかしら?」

「何でも聞くがいい」

「……」


 俺が静かにそう告げると、二人はなんだかほぅと小さな溜息を吐いた。


「ん? どうした?」

「……いえ、ちょっとあなたの声がね」

「声?」


 ……そう言えば昔から声やら何やらで相手が固まることが多かった気がする。どうでもいいが。


「んん! 話を戻すわね。それで私が聞きたいことなんだけど……【討滅者】という言葉に聞き覚えはない?」

「ない」

「それじゃあここがどこの国か分かるかしら?」

「分からない」

「アナタはどこから来たの?」

「意識したことがないゆえ、どこかと聞かれると非常に困る。強いて言うなら海や山などの自然に囲まれた場所だ」

「ええっと……それじゃあ最後ね。――――【天界族ヘブンズ】を知ってる?」

「ああ」


 俺は頷くと同時に、脳裏にかつて戦った神々や天使どもの姿が浮かんだ。

 俺が正直に答えると、ヴィオラは少し警戒した様子を見せながらさらに訊いてくる。


「アナタにとって、天界族はどういう認識?」

「倒すべき相手であり、人類の敵だな」


 そう、ヤツらは人類の味方などではない。

 人類を己が快楽の為に遊びで殺すような連中なのだ。

 故に、人類は神々と決別した。

 俺の答えを聞いたヴィオラは、どこか安堵した様子を見せた。


「ふぅ……ごめんなさいね。アナタの情報があまりにもなさ過ぎて……少し警戒してたわ」

「無理もなかろう」

「……さっきから聞いてるけどよ、ゼフィウスのしゃべり方メッチャじじくせぇな……」

「昔からこれなのでな。気にしないでくれ」


 セオルドとしゃべっていると、ヴィオラはいつの間にか妙な薄い板状のモノを使って作業をしていた。


「……やっぱり、ゼフィウス君の戸籍はないみたいね。捨て子の孤児なのかとも思ったけど、それにしては身なりが整いすぎてるし……本当に何者なのよ」


 俺を困ったように見つめるヴィオラ。


「先生、ゼフィウスは結局どうなるんだ?」

「そうねぇ……取りあえず学園長に聞いてみないことにはどうしようもないわね。というワケで、アナタにはこの後も少し付き合ってもらいたいんだけど、いいかしら?」

「問題ない」


 ヴィオラの言葉に頷いた瞬間、俺の腹がまた鳴った。それも、先ほどより大きく。


「……」

「……」

「……ご飯、食べてからにする?」


 俺は無言で頷くのだった。

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