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 【獣の迷宮】に入ってからそこそこ時間が経った。

 ミリアたちは道中襲い来る魔物を相手に目を見張る勢いで連携を深め、着実にレベルアップしていっていた。

 ……この世界の人間がどこまで知っているのかは分からないが、迷宮だけにとどまらず、魔物や天使を倒せばその生物の生命力や魂を吸収することができる。

 これは無意識に全人類が行っていることで、倒せば倒すほど生命力や魂の力が蓄積され、強靭な肉体へと変わっていくのだ。

 とはいえ、普段の殺し合いではない普通の訓練も重要で、基礎となる体ができあがっていなければ肉体の強化も大したことなくなってしまう。

 まあ、目に見えて強化されてると実感するには、すさまじい訓練と壮絶な戦闘を積み重ねるしかないのだがな。

 それはともかく、今もまた俺たちは魔物との戦闘に突入していた。


「ブルッ!」


 【キラー・ブル】と呼ばれ巨大な角と強靭な足を持つ牛型の魔物が、勢いよく突っ込んでくる。

 それも一体だけでなく、二体もこの狭い迷宮の通路で突っ込んでくるのだ。避ける隙間がほとんどない。


「来るわよ! 受け止めたらあとはお願い!」

「任せろ!」

「援護するね!」


 リオンはすぐに弓を構えると、【命気】によって生み出された白色の矢を放つ。

 するとキラー・ブルは視線を鋭くし、その矢を器用に避けた。


「来るッ!」


 だが、リオンのおかげで一体は動きが一瞬止まり、俺はその隙をついて止まった一体の下へ移動した。

 そしてミリアは大鎚を構え、なんとキラー・ブルの攻撃を真正面から受け止めたのだった。


「ぐぅ!?」

「おいおい、マジかよ!?」

「す、すごい……」

「お、驚いてないで……攻撃……しなさいよ……!」


 地面を削りながら少しずつ後退していくミリアがそういうと、エドガーはハッとした顔になり、急いでキラー・ブルに槍を突き出した。


「コイツはどうだ!」

「ブルゥ!」


 しかし、キラー・ブルはその一撃を瞬時に察知すると、ミリアから一気に離れ、巨大な角で打ち合う。


「うはっ! マジか!?」

「油断するんじゃないわよ! キラー・ブルのランクはD。この迷宮の中ではかなり強いわよ!」

「じゃあこれはどうかな? 【炎玉(えんぎょく)】!」


 キラー・ブルと数合打ち合い、隙を見て離脱するエドガーに続き、リオンが右手を突き出し、そこから掌サイズの炎の玉が出現し、勢いよくキラー・ブル目掛けて射出された。

 リオンの放った技は武器によるものではなく【命気術】と呼ばれるもので、突然出現した炎にキラー・ブルは驚いていた。


「ブルルッ!?」


 炎の玉を顔面で受けたキラー・ブルだったが、命気術への耐性が高いのか、顔を大きく振るうだけで大きなダメージを与えることが出来なかった。

 だが――――。


「その隙、逃さないわよ……!」


 ミリアはキラー・ブルの懐に飛び込むと、今できる中で一番小さく振りかぶり、その腹を大鎚で真下から叩き上げた。


「【破天(はてん)】!」

「ブルルラァァアア!?」


 すさまじい衝撃がキラー・ブルの体を突き抜ける。

 キラー・ブルは涎と血液を口からまき散らし、数歩よろめくとその場に倒れ、光の粒子となった。


「うむ……まだまだ振りかぶりが大きいとはいえ、順調にヴァルフォードの技を吸収しつつあるな」

「そ、そお? ……ってもう一体は!?」

「ああ、それならばすでに倒してある。安心するがいい」

「アンタ、マジで何者なのよ!?」

「おいおい……俺っちたちが苦労してた魔物を一人で倒すって……」

「あはは……ゼフィウスは変わってるねぇ」


 俺はリオンの方に視線を向けると、リオンは一瞬体を硬直させ、少し緊張した様子で口を開いた。


「な、何かな……?」

「先ほどの命気術を見たが……中々の腕だな」

「あ……そ、そうかな?」

「そうだぜ! リオンの攻撃、すごかったな! 何もないところから炎が出て……」

「そうね。さっきのは相手が悪かったからダメージが小さかったようだけど、それでもリオンの命気術のおかげで隙ができたわ。それに最初の弓で二体を少しだけ引き離すことも出来たし……」

「あ……ありがとう!」


 次々と投げかけられる言葉にリオンは一瞬呆けるが、すぐに頬を少し赤らめて笑みを浮かべた。


「あ、そういえば……ゼフィウス! 俺っちに技を教えてくれる約束はどうなったんだ!?」

「む? ああ……すっかり忘れていた」

「忘れてたの!?」

「あら? エドガーはまだ習ってなかったのね。私は教えてもらってるし、エドガーもてっきり……」

「ええ!? 酷い! ゼフィウス、俺っちとお前の仲はそんなもんなのか!?」

「そんなもんとはなんだ」


 俺はエドガーを宥め、ちゃんと教えることを約束することで落ち着いてもらえた。

 迂闊だった。今度は忘れぬようにしなければ。

 ボケるには早いからな。二万歳は超えているが。


「そういえば、先ほど【真理武装】を手に入れたぞ」

「本当!?」


 ミリアが声を上げて驚くように、エドガーたちも目を見開いている。


「ああ。これだが……」


 そう言いながら渡したのは、片手で扱えるような小さい鎚。

 それをミリアは受け取ると、G級の真理武装である【鑑定ルーペ】を取り出した。


「これは……F級の【二撃の小鎚】ね」

「二撃?」

「ええ。効果はこの小鎚で一度衝撃を与えた部分にまったく同じ威力の衝撃を与えることができるってものなんだけど……残念ながらゼフィウスや私たちの持つ真理武装みたいに耐久力が無限にあるわけじゃないみたい」

「なるほどな。つまり、使っていれば壊れると……」

「そういうことよ。……それに、この中でこれを使う人間もいないでしょうし、売るしかないわね」

「何? 売るのか?」


 以前訪れた【初心の迷宮】で手にした【亜空間バッグ】や【携帯武器庫】とは違い、今回はちゃんとした武器である。

 【亜空間バッグ】などは日用品のような扱いだからこそ、必要なければ売り払うのは分かるが……ミリアたちの武器を見る限り、売るよりいい使い道があるはずなのだが。

 驚く俺の様子に、逆に首を傾げたエドガーが訊いてきた。


「なあ、ゼフィウス。何をそんなに驚いてんだ? 俺っちは元々槍を使うから小鎚なんて扱えねぇし、リオンも一緒だ。ミリアも大鎚がメインだからこそ、小鎚の扱いは分からねぇと思うんだが……」

「何を言っている? お前たちの真理武装と合成すればよいではないか」

『合成!?』


 俺の言葉のどこに驚く要素があるのか、ミリアたちは絶叫に近い声を上げた。


「ちょ、ちょっと待って! 合成? 合成って何よ!?」

「いや、ただお前たちの真理武装と不要な真理武装を合成するというだけの話だが……」

「それが分からないって言ってんでしょうが!」


 何故か怒らせてしまったようだ。解せぬ。


「むぅ……ミリアとエドガーには以前、少しだけ話したではないか」

「え?」

「……あ! あの対話がどうとかって話か?」

「そう、それだ。……どうやら詳しいことがよく分かっておらぬようだし、この際説明しよう。リオンも聞いておくがいい」


 俺がそう告げると、ミリアたちは真剣な表情を浮かべ、こちらを見てくる。


「ミリアとエドガーはもちろん、リオンの真理武装もまた、真の力を発揮していない。いわゆる武器が眠ったままの状態なのだ」

「武器が……眠る?」

「そうだ。俺が対話をしろといったのは、真理武装の持つ無限の可能性を引き出すうえでの手段に過ぎない」


 少し難しい話だからか、エドガーは首をひねって必死に言葉の意味を考えながらも、無言で続きを促してきた。


「ある一定のランク……断定はできぬが、恐らくE級以上の真理武装には他の武器を合成することができる。そして合成された真理武装は力を増していき、より使用者との繋がりを強め――――進化するのだ」

「進化ぁ!?」


 エドガーが目を剥いて大声を上げる。

 ミリアたちも声こそ出さなかったが、とても驚いているようだ。


「そうだ、進化だ。進化した真理武装はその存在の位階を高め、強化される」


 二万年前には真理武装という呼び名もなければ武器にランクなど付いていなかったため詳しいことは分からぬが、恐らく真理武装のランクも上昇するのだろうな。


「武器ごとにどれだけ強化すればいいのか異なるうえに、最大に強化したとしてもそこに使用者との繋がりがなければ武器は応えてくれぬ。だからこそ、繋がりを深めるうえで対話をしろと告げていたのだ」

「で、でも、対話をしろって言ったって……武器がしゃべるわけじゃねぇんだろ?」

「しゃべる武器もあるがな」

「あるのかよ!?」


 数は少ないとはいえ、存在はしている。

 ミリアの兄であるセオルドも……いや、この場で言っても仕方ないな。本人がいないのだし。


「対話といっても、難しく考える必要はない。ただ、武器に感謝の念を抱き、言葉をかけてやればよいのだ。どんな思いでそれぞれがその真理武装を使っているのかは知らぬが……それらは、お前たちの命を守ってくれているのだからな」

「「「…………」」」


 俺の言葉に何か感じることがあったのか、それぞれが手にしている真理武装に目を向けた。


「そうだな……実際に合成を見せておくとしよう。ミリア、大鎚を横にして支えてくれ」

「こ、こう?」


 横になったミリアの真理武装に、先ほど手に入れた【二撃の小鎚】を重ねて置き――――。


「合成」


 そう、呟くだけだった。

 すると【二撃の小鎚】はまるで溶け込むようにミリアの真理武装の中に入っていき、最後に淡い光を放つと完全に消えていった。


「これで終わりだ」

「簡単すぎじゃない!?」

「だからこそ、お前たちが合成を知らないことに驚いたのだ。見たところ一度も強化された様子のない真理武装を手にしていながら、いらぬからとすぐに売り払おうとするし……片手間でできるのにしないから、おかしいとは思ったのだ」

「俺っちたちからすれば、そんなことを知ってるゼフィウスの方がおかしいよ!」

「うん……ゼフィウスがどう思ってるのか知らないけど、真理武装に合成をするなんて知ってる人、いるのかな……?」


 リオンまでもがそういうため、俺は開いた口が塞がらなかった。

 おかしい……二万年前では当たり前のことだったのだが……。

 まさか、【大王】が死んだことによる影響だろうか?

 ヤツは王であり戦士でもあったからこそ、真理武装の扱いなどは熟知しており、先ほどの合成などは伝承しているはずなのだ。

 だが、その【大王】がいないとなると、他にあの時代を知る者といえば【エルフ王】や【魔王】、【獣王】といった面々になるのだが……彼らは種族の性格上、中々他種族と交流をせぬからな。人間の間だけ知識が止まっていてもおかしくはないか。

 それにこの場にいるミリアたちが知らなかっただけで、討滅者の実力者の中には知っている者もいるだろう。人間は欲深い。種の繁栄より、個人の名誉や名声を求め、知識や実力を秘匿することが多いからな。それを悪だとは言わぬが、種が滅べば名誉も名声もないのだがな。

 思わずため息をついていると、俺はミリアの真理武装が少し光っていることに気づいた。


「おお、ミリアよ。運がいいな。どうやらミリアの真理武装は新たな力を手にしたようだ」

「へ?」

「【鑑定ルーペ】で確認してみるがいい」


 俺に促され、ミリアは恐る恐る内容を確認すると……。


「ウソッ!? 私の真理武装に【二撃の小鎚】の能力が追加されてるんだけど!?」

「「ええええええええ!?」」


 驚く三人に俺は追加の情報を与える。


「ちなみに、合成する際は同じ武器の系統の方が、今のように新たな力に目覚めたり、大きく強化されたりする可能性が高い。覚えておきなさい」


 驚きのあまり、言葉が出ない三人をよそに俺は目を細め、道の奥を睨む。

 ……妙な気配が漂っているな。一体、何がいるのやら……。

 それはともかく――――。


「さて、そろそろいいか? 俺は腹が減った」


 その瞬間、俺の腹から盛大な音が鳴った。うむ、恥ずかしい。

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