21
「この迷宮で連携を確認しましょう」
翌日。
前回話し合った通り、今日は皆の戦闘方法や連携を確認するために迷宮に来ていた。
挑む迷宮の場所はすでに討滅者であるミリアが決めており、そこは街の外にある森の少し進んだところにある洞窟だった。
世界中で発見されている迷宮は討滅院が管理しているらしく、目の前の迷宮の入り口には簡易的な受付と管理者が数人立っている。
本来、討滅院が管理している迷宮は討滅者にしか解放されていないため、俺やエドガーたちは入ることが出来ない。
それでもこうして迷宮に入ることが出来るのは、すでに討滅者としての資格を持っているミリアがいたからだった。
「初心者から中級者になりたての討滅者がよく利用する【獣の迷宮】。その名の通り、獣系統の魔物が多く出現するわ。迷宮も【真理武装】と同じようなランクがあるわけだけど、ここはちょうどE級ね」
「ふむ……ちなみにセオルドとミリアに連れていってもらった【初心の迷宮】はランクでいえば何になるのだ?」
「もちろん、最低ランクのG級よ。あそこは本当に初心者のための場所だから……でも、今から挑む迷宮はあそことは違って、命を落とす危険もある……それでも大丈夫?」
討滅者とは天使や神々と戦うための存在だからこそ、命を落とす危険があることは誰もが覚悟をしているだろう。
それでも今は学生であり、まだ討滅者ではないエドガーやリオンのために、ミリアはそう訊いてきた。
「当たり前だぜ! この道に進むって決めた時から、その覚悟はできてるよ」
「うん。僕も、大丈夫だよ」
リオンとエドガーは、迷いなく頷いた。
……子供であるミリアたちが命を懸ける世界。
年長者である俺からすれば、このような世界を許容していることに申し訳なさと自身への不甲斐なさを痛感する。
彼女たちからすれば、覚悟を決めて討滅者という道を選んだのだから、俺のような心配は失礼だとは思うが、それでも考えずにはいられぬのだ。
無力であることが、恨めしい。
「ん、大丈夫そうね。ゼフィウスは……聞くまでもないか」
「ああ。心配無用だ」
「よし。それじゃあ、行きましょう」
ミリアが受付で手続きを済ませると、俺たちは【獣の迷宮】へと足を踏み入れた。
迷宮内は洞窟型であることから壁や床、天井までもがゴツゴツした岩でできており、足場はあまりよくない。戦い方を考えなければ、足を痛める可能性もあるだろう。
そんな迷宮は破壊不能の効果が付与されており、壁や天井が壊れることはないため、生き埋めなどの心配はない。……後で知ったのだが、何故破壊不能の効果が付与されているのかを研究している場所もあるらしい。俺は理由を知ってはいるが……恐らく、答えに辿り着くのは難しいだろう。この答えは創世や迷宮の始まりを知るのと同じことだからな。
迷宮に入ってすぐ、いつ戦闘になってもいいように、それぞれが武器を取り出した。
俺は剣を、ミリアは大鎚を、エドガーは槍を、そして――――。
「おいで――――【煌弓】」
――――リオンは弓を。
「へぇ、リオンは弓を使うのね。真理武装は銃タイプが多いけど……」
「うん。でもこれが一番使いやすいんだ」
「あれ? でも矢が見当たらねぇぞ?」
「あ、僕の弓は僕自身の【命気】を消費して矢を生み出すから大丈夫だよ」
「命気を!? アンタ、そんなに撃ち出せるほど命気を持ってるの?」
「まあね。だから一応【命気術】も使えるよ」
【命気】とは、その生命が生み出す生命力とは別の力であり、才能がなければそれを活用することが出来ない。
というのも、命気はなくても生きていくうえで支障がなく、むしろ命気が少ない人間の方が多いだろう。
だが、この命気が多いと【命気術】と呼ばれる特殊な技術を扱うことが出来る。
それは命気を消費することでこの世界に干渉し、何もないところから火や水などを生み出すことが出来るのだ。
だが、ある一定水準を超える命気を宿していなければ戦闘で使えるレベルにはならない。
そしてリオンはそんな命気が多いからこそ、命気を消費して矢を生成する弓が使え、なおかつ命気術も使えるようだ。
「はぁ、スゲェな! 命気術って完全に才能だし、羨ましいぜ……」
「あはは……まあデメリットは他の遠距離攻撃系の真理武装と違って、命気という制限があることかな? 【無限銃】とかだと何も消費せずに無限に弾が撃てるけど、僕は命気がなくなったら攻撃できないからね。その代わり、僕が生成する矢には炎だったり水だったりと属性を付与することが出来るし、物理攻撃が効かない相手にも対応できるよ」
「それは心強いわね。命気の制限も休憩しながらなら回復するでしょうし、命気の配分さえ間違えなければ大丈夫ね」
「うん! 任せて!」
「ふむ……話しているところ悪いが、敵だぞ」
「「「!?」」」
俺がそう告げると、ミリアたちは驚きながらも一斉に道の先を警戒した。
「お、おい、ゼフィウス。俺っちには何も見えねぇんだが……」
「ん、もう来るぞ。名前は知らぬが、狼だな」
すると宣言通り、灰色の狼が一体、唾液を垂らしながらこちらに殺意をむき出しで現れた。
大きさとしては俺の膝ぐらいで、毛はかなり多い。
爪は鋭く、上の犬歯2本がかなり長く伸びており、その牙の先は返しのようになっていて刺さると抜けなさそうだ。
「マジかよ!? しかも魔物の種類まであってる!?」
「Eランクの『サーベルウルフ』よ! アイツの牙は鋭いし、一度噛まれると中々離れないから気を付けて!」
「いや、あれに噛まれるのは嫌すぎる!」
「グルゥゥアアア!」
サーベルウルフは一番先頭にいたミリアへと襲い掛かった。
だがミリアは大鎚を盾にしてその攻撃を受け止める。
「クッ!」
「おら、離れやがれ!」
攻撃を受け止められたことで隙を見せたところを、エドガーがすかさず槍を突き出した。
しかしサーベルウルフはその攻撃に自身の爪で迎え撃ち、エドガーの攻撃をそのまま左前脚の爪で受け止めると、その爪に体重を乗せ、槍を足場にする形で大きく飛び退いた。
だが、空中に逃げたことによるほんの一瞬の隙をリオンは逃さなかった。
「シッ……!」
命気によって生み出された白い光の矢を鋭い息とともに放つ。
その矢はサーベルウルフが飛び退く際の軌道を予測して放たれ、ちょうど眉間に突き刺さるように進んでいった。
サーベルウルフは足場がない空中で避けることも出来ず、そのまま眉間を撃ち抜かれる。
そしてそのまま絶命すると光の粒子となって消え、その場にはサーベルウルフの牙らしきものが落ちていた。
「ナイスよ、リオン! すごい弓の腕ね!」
「スゲェ! スゲェよ、リオンさん! あんなに的確に眉間を撃ち抜くなんて……」
「そ、そうかな? ありがとう! あと、さん付けじゃなくて、リオンでいいよ」
「確かに、これから同じ班で活動するわけだし、私のことも呼び捨てでいいわよ」
「マジで!? そんじゃあ、遠慮なく!」
俺はミリアたちの距離が縮まる様子を眺め、温かい気持ちになった。
いつの時代も、こうして人間同士の絆が深まる場面を見るのはいいものだな。
それにしても……。
「俺、何もすることがなかったな」
ネット小説大賞に応募してみることにいました。




