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「さて、ゼフィウスとリオン以外は知ってると思うが……そろそろ『調査会』の時期がやって来る」

「『調査会』?」


 朝のほーむるーむとやらの時間に、カインは俺たちに向けてそう言った。

 聞きなれない単語に首を傾げていると、ミリアが教えてくれる。


「『調査会』っていうのは【討滅院】の上層部がやって来て、この【ラグナロク】を含めた全国の討滅者育成学園の中から優秀な子が卒業を待たずに討滅者になれる数少ない機会なのよ。だからこそ、生徒の多くはこの『調査会』で選ばれようと頑張るワケ」

「なるほど……」


 討滅者になるには色々な試験があるようだし、その場で選ばれればその試験が免除になるのだろう。

 俺がミリアから説明を受けている間にもカインの話は続き、その『調査会』に向けての話へと移った。


「毎年『調査会』における内容……つまり、お前さんたちのどこを見ているかってのは公表されていない。だからこそ、戦闘面だけでなく知識面もしっかり蓄えなければ対応できないかもしれない。それでだ……」


 カインは俺たちを見渡すとニヤリと笑った。


「毎年恒例だが、『調査会』に向けての野外学習を実施する」

「野外学習?」

「うわぁ……そういえばそんなのもあったわね……」


 再び聞きなれない言葉に疑問符を浮かべている横で、ミリアは心底面倒くさそうな表情を浮かべていた。


「野外学習の内容はこの国周辺にある無人島を使ってサバイバル生活をすることだ。そこには当然魔物もいるし、食料などは自分で調達しなければならない。ここで魔物との戦闘技術を磨き、野草などの知識をしっかり学んでもらうからそのつもりでな」


「ふむ……よく分からぬが、無人島でしばらく生活するのだな」

「わあ! なんだか面白そうだね!」

「……何も知らないアンタたちのその反応が羨ましいわ……」

「む? どういう意味だ?」


 後ろのリオン程はしゃいでいるつもりはないが、確かに俺も楽しみな気持ちはある。

 だからこそ、ミリアがここまでげっそりする意味が分からなかった。


「そして今回の野外学習だが……四人グループを作ってもらい、その四人で協力して野外学習を乗り切ってもらう。だから今日の授業はそのグループを決めたら野外学習の準備のための時間にするため、買い物に行くのも許可する。つまり、放課となるわけだ」

「ほう……?」


 まあ一人で無人島を過ごすのは若者からすれば何かと心細いだろうしな。

 その後細かい説明が終わった後はカインの言葉通り解散となり、それぞれがグループを組むために動き始めた。


「ゼフィウス! 一緒に組もうぜ!」

「む? 俺は構わぬが……」

「やったぜ! それじゃあミリアさんもどう?」

「私? 私もいいけど……何でまた私とゼフィウスなのよ」


 俺も思っていたことをミリアが訊くと、エドガーは頭をかいた。


「いやぁ……この野外学習って戦闘もあるわけだろ? それなら強い人と組んだ方が安全だろうなぁって……」

「強い? 何を根拠にそう思ったか分からぬが……まあ組むこと自体に俺は文句はない」

「私も別にいいわよ? ……むしろゼフィウスと一緒にいないと何をするか分かったもんじゃないしね」

「ん? 何か言ったか?」

「別に?」


 俺たちがそんな会話をしていると、不意に俺の肩が叩かれた。


「ゼフィウス!」

「どうした? リオン」


 振り向くとリオンがそわそわした様子で俺たちの方を見ていた。


「あの……その……」


 しかしリオンは何故か続く言葉を口に出さない。

 ふむ……。


「リオン、お前もこのグループに入るか?」

「え!? いいの!?」

「いいもなにも、入りたかったんじゃないのか?」

「うっ……やっぱり分かった?」

「分からない方がおかしいな」


 気まずそうな表情を浮かべるリオンだが、彼女は目の前で着々とグループを作る俺たちを見て入れてほしいと思ったようだ。

 幸い俺はエドガーやミリアのおかげで苦労しなかったが、まだ編入したばかりのリオンには勇気のいることだろう。


「さて、事後承諾になってしまうが……リオンを入れてもかまわないかな?」

「オッケー、オッケー! むしろウェルカムだぜ!」

「いいんじゃない? この際アンタとリオンさんの二人を私たちが面倒みるのが一番楽だろうし。何なら私は学園長からアンタの世話を言われてるわけだし」

「世話をかけるな」


 何のためらいもなく承諾してくれた二人に礼を言うと、リオンは一瞬目を見開いた後に笑顔を浮かべた。


「ありがとう! それから二人とも僕のことはリオンって呼び捨てにしていいよ!」

「そうかい? それじゃあ俺っちもエドガーでいいぜ!」

「そうね……今から同じグループとして行動するわけだし、私もミリアでいいわ」

「ならこれでグループの完成だな」


 無事に俺たちのグループが完成すると、他の生徒たちもグループを作り上げ、何人かはもうカインに

グループの申請を行ってそのまま放課となっている。

 俺たちもカインに申請しに行くと、メンバーを見て苦笑いを浮かべた。


「ずいぶん面白いグループになったな。もうすでに討滅者のミリアに、二人も編入生がいるとは。しかもそのうちのゼフィウスはミリアを超える実力があると……エドガー。お前、ずいぶん美味しいポジションを手に入れたじゃないか。ん?」

「あ、あはははは……先生、俺っちはそんなやましい気持ちで組んだりしてないですよー」

「む? 先ほど強い人と組んだ方が安全だって言ってなかったか?」

「それはこの場で言ってほしくなかったなぁ!」

「そうか、失言だったか。許せ。先ほどの言葉を取り消そう」

「もう遅いんだよねー!」


 頭を抱えるエドガー。うむ、本当に俺の言葉は失言だったようだ。気を付けよう。とはいえウソはよくない。俺も隠し事はあるが。


「はぁ……まあいい。この野外学習は強さだけがすべてじゃないからな。そういう意味ではある意味苦労するかもしれないぞ?」

「と、いうと?」


 純粋に気になったため、そう訊くとカインは笑う。


「知識だよ。このグループは確かに戦闘面じゃ心配ないが、他のグループはかなりバランスよく組んでるぞ? それぞれの役割がしっかり分かる形だ。その点、このグループはエドガーとミリア以外はまだ明確な得意不得意が分かる二人じゃない。だからこそ、無人島に行って、サバイバルしながらゼフィウスとリオンの役割を見出していかないとな」

「……そこまで考えてなかったぜ……」

「はぁ……まあ私は学園長に言われてますし、どのみちゼフィウスとは組むつもりでしたから構いませんよ」

「俺も構わん」

「僕も! そもそも僕から組んでほしいって言いだしたことなので……」


 俺たちの言葉を受け、カインは満足そうに頷いた。


「エドガー以外はよく分かってるみたいだな。まあいい、どうせ他のグループも完成しちまったんだ、今更グループの変更はできない。エドガー、しっかりやれよ?」

「……うす……」


 こうして俺たちは無事にグループの申請をすることが出来た。

 ただそのまま今日は解散とはならずに、ミリアが一度俺たちを集める。


「せっかくだし、このまま必要なモノを買いに行きましょう。ゼフィウスなんかは何も持ってないでしょうし」

「うむ、何もないぞ」

「威張ることじゃねぇだろ……ま、いっか! ついでに買い物終わったら親睦を深める意味も込めて遊ぼうぜ?」

「遊ぶの!? いいねー、賛成!」

「よっしゃあああ! 遊びに行くぜ!」


 さっきまでのテンションはどこへ行ったのか、エドガーは嬉しそうにそういった。


「アンタ、さっき買い物が終わったらって自分で言ってたでしょうが! いい? 先に買い物だからね!?」

「「えー? 遊びたーい」」

「……私、もうすでにこのグループで後悔し始めたわ……」


 ミリアが頭を抱えてそういった。

 大丈夫だ。俺も後悔し始めている。

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