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『チッ……アイツ、失敗しやがったな……』
『まあ【能天使】なら妥当な結果じゃない?』
『いや、他の【能天使】ならもう少しうまくやっただろう』
『まあな。アイツ、まだ若くて大した力もねぇのに傲慢だったしな』
『……その【能天使】がすべての原因というわけでもないが』
『結局誰が殺したか分からないんだろ?』
『そうだ。我々にとって、少しでも障害となる者は排除する必要がある』
『慎重すぎると思うけどねぇ……どうせ相手は人間や亜人どもだろ?』
『そうだとしても、主の復活の妨げとなる存在は看過できん』
『まあまあ、いいじゃない。どうせ次の手は打ってあるんでしょ?』
『そうだ。――――出来る限り、邪魔者は排除しないとな』
◆◇◆
「さあ、復調したんだから稽古をつけてよ!」
「え、ゼフィウスが見てくれるのか!? なら俺っちも!」
無事ミリアが退院し、こうして学び舎に戻ってくるなりまっすぐ俺の下に来てそう言った。
するとミリアの言葉を聞きつけたエドガーも手を挙げる。
よく見ると他にも俺に声をかけたそうにしている生徒がいるが……さすがに全員の面倒は見れない。
「まあ落ち着け。ミリアは本当に体調が戻ったのか?」
「そうよ。もともと入院中も特に体が痛むことはなかったからすぐに退院できたわけだし……」
「そういや、この間は大変だったみたいだね。ミリアさん、大丈夫なの?」
以前の天使たちの襲撃を詳しく知らないエドガーがそう訊いた。
するとミリアは一瞬俺に視線を向けた後、苦笑いをする。
「まあ……私もお兄ちゃんも手も足も出なあかったわ」
「ええ!? ミリアさんだけでなく、セオルド先輩も!? 問題があるのってガレル方面じゃなかったのかよ……しかも二人がそんなに危険な状況だったのに、よく無事だったね?」
「まあね。運がよかったから……ねぇ? ゼフィウス?」
「……」
勘弁してくれ。
俺に視線を向けるんじゃありません。
再び向けられたミリアの視線から逃れるように顔を逸らした瞬間、俺は顔をしかめた。
「……」
「ん? どうした? ゼフィウス」
「……いや、何でもない」
なんでもないわけではないが……うむ。
俺が考え込んでしまったので不思議そうに見てくるミリアたち。
すると教室に担任のカインと――――見知らぬ女性が入室してきた。
「ほら、皆座れー」
「先生! その人誰ですか!?」
「今からそれを説明するんだろうが」
生徒の一人が教室内の気持ちを代弁するように訊くと、カインは呆れたようにそう答えた。
カインの言葉に従うように皆が着席すると、カインは改めて口を開く。
「はい、皆気になってると思うが、このクラスにまた転校生だ」
カインの言葉に、クラスは少し騒がしくなった。
「また転校生? 珍しいねぇ……」
「いや、そんなことよりも……メッチャ可愛くない?」
「うんうん! 肌メッチャ綺麗だし、お人形さんみたい……」
生徒たちの反応を見て、カインは溜息を吐いた。
「色々言いたいのは分かるが後にしろ。えっと……リオン、自己紹介を頼む」
「はい」
連れてこられた女性は、俺たちを見渡すと微笑んだ。
「今日からみんなと一緒に学ぶことになりました、リオン・クルエルです。よろしくね!」
リオンと名乗った少女は、青色のショートカットに金色の瞳を持った、中性的な容姿の持ち主だった。
リオンは人懐っこい笑みを浮かべると、何人かの生徒はその微笑みに見惚れている。
「おい、お前らしっかりしろ! いや、ゼフィウスの時も似たようなもんだったから分からんでもないが………とにかく、質問する時間を多少やるから、質問があるヤツは手を挙げろ」
俺の時と同じ対応で進めるカインの言葉に、ようやく生徒たちは正気に返ると様々な質問を投げかけた。
その様子を黙ってみていると、ミリアが不思議そうに訊いてくる。
「あら? アンタは質問とかしないの?」
「特にないのでな」
「ふーん……でもリオンさん、可愛いじゃん? 他の男子みたいにお近づきになりたいとか思わないわけ?」
「思わないな。それにミリアも可愛らしいぞ?」
「なっ!?」
それに、リオンは――――。
ミリアに告げた内容以外にも理由があるのだが、俺はそれを口に出さなかった。
少しリオンのことで考えていると、ミリアが顔を真っ赤にして固まっていることに気づく。
「ん? どうした?」
「な、何でもないわよ!」
その反応は何でもないわけないだろう。
とはいえ、聞いても答えてくれなさそうなので黙っていると、とうとうリオンへの質問時間が終了したようだ。
「はい、そこまでだ。これから授業があるんだから、続きは休み時間にしろ。……ってなわけで、リオン。悪いが、今空いてる席がないんでお前は……あれだ、あそこの男子、ゼフィウスの後ろに机と椅子を持ってくるから、そこに座ってくれ」
「む」
カインの言う通り、今空いている席はどこにもない。
そのため、新たに机と椅子を持ってくると、俺の後ろに設置した。
リオンは俺の顔を見て、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに平静な状態に戻った。
そして俺の後ろに座ると、にこやかに話しかけてくる。
「さっきも自己紹介したけど、ボクはリオン! よろしくね! えっと……」
「……ゼフィウス・デュー・ローゼンだ。好きに呼ぶがいい」
「そ、そう? じゃあゼフィウス、改めてよろしくね!」
――――こうして俺のクラスに、新たな生徒が増えたのだった。




