14
――――途切れそうな意識と霞む視界の中で、お兄ちゃんが必死に助けようとしているのが見えた。
ああ……私、ここで死ぬんだ……。
お父さんたちと同じで、天使に殺されるんだ。
だって、体がグチャグチャで、もう少しも動かせない。
いっぱい殴られたり踏まれたりしたけど、もう痛覚は麻痺してて痛さも分からない。
たぶん、今の私の顔は酷いことになってるんだろう。
でもそんなことはどうでもいい。
そんなことよりも私の頭の中にはたくさんの心配事が浮かんでいた。
一般人たちは無事に逃げられるかな?
お兄ちゃんだけでも……助からないかな?
そう言えば……ゼフィウスのヤツは大丈夫かしら?
知り合ってそんなに時間は経ってないけど、アイツ……世間知らずだものね。
色々助けてやりたかったけど、もうそれも無理そう。
せっかくゼフィウスから鎚術を教えてもらう約束してたのにな。
もっと強くなって、たくさんの人を助けられるようになりたかったのに。
いろんな願いや我儘、思い出が一気にあふれ出てくる。
……私ってずいぶんと欲張りだったのね。
死ぬ間際だというのに、そのことがおかしくて少し笑う。
だからこそ、思わずこんなことも願ってしまうのだろう。
もっと……もっと……――――。
「ぃ……き……たかっ……た……………な……」
「その願い、叶えよう」
不意に誰かに抱き上げられた。
それはまるで壊れ物でも触るかのように、優しく、慈愛に満ちている。
ぼやけてほとんど見えない視界の中、綺麗な夜空を思わせる瞳が、優しく私を見つめていた。
突然聞こえた声も、その漆黒の瞳も、私は知っている。
何で?
どうしてここに?
色々と聞きたいことが頭に浮かぶも、もう私は意識を保つのも限界で――――。
私の視界は彼――――ゼフィウスの瞳と同じ漆黒に飲まれた。
◆◇◆
「……」
俺――――ゼフィウスは腕の中で消えそうなほどか弱い息をするミリアを見つめる。
お腹には大きな穴が開き、全身の骨は折れ、内臓は潰れ、顔もボロボロだった。
それでも人々のために戦い、傷ついたミリアを美しく思った俺は、彼女の額に優しくキスをした。
すると苦悶の表情を浮かべていたミリアの顔が、安らかになる。
「ゆっくり休むといい。後は俺が片付けよう」
ミリアをその場に優しく横たえると、俺は自身の右耳につけたピアスの青い雫を指で弾いた。
その瞬間、澄んだ音が街全体に響き渡った。
音は遠く離れた場所で戦い続ける討滅者たちの下にも届く。
そして音が消えた後、ミリアやセオルドの体の傷が癒えていった。
「バカな!? どうなっている!?」
俺の存在を警戒し続けていた天使の一人が、驚愕の表情で俺を見る。
それもそうだろう。
なぜなら、先ほどまで死にかけていたセオルドとミリアの体が綺麗な状態で眠っているのだ。
【癒しの雫】――――俺がもともと持っていた【真理武装】の一つであり、音が聞こえる範囲の死者以外の存在の傷を完全に癒すといった効果を持っていた。
だが、連続での使用は出来ず、再使用には一週間かかるうえに、死者を蘇らせるような効果はない。
ミリアと同じように完全に傷の癒えたセオルドの元まで歩き、優しく抱き起そうとした瞬間目の前に光の槍を突き付けられた。
その光の槍の主に目を向けると、金髪の男が激しく睨みつけている。
「貴様……何者だ! それに誰の許しを得てそのゴミに触れている!」
「……」
「答えろ!」
いつでも飛びかかれるような状態に移行した金髪の男。
「――――贖罪する気はあるか?」
「は?」
俺の言葉に金髪の男は間抜けな表情を浮かべる。
「貴様……何と言った? この【大天使長】である我に、贖罪だと!? ハハハハハハ!」
何が面白いのか、金髪の男は高笑いを始めた。
「バカか!? そんなことするわけないだろう!? ゴミ同然の人間を殺して何が悪い!? そうだ、今すぐお前も――――」
「――――ならば俺の前に立つ資格はない。死ね」
その一言。
俺がその一言を口にした瞬間、金髪の男は自分の持つ光の槍で自身の首を突き刺した。
「かへ?」
「な――――」
金髪の男の行動にその後ろで控えていた白銀の髪の男――――コイツが【能天使】だろう――――と金髪の男自身が驚愕の表情を浮かべた。
「へ!? へあ!? な、なんへ……!? い、いた、いあ。いたいいいいいいいいいい」
狂ったように泣き叫び、必死に槍を抜こうとするが、金髪の男の体は自分の意思に反してどんどん傷口を広げていく。
「なんへなんへなんへ!? い、いあだ! れ、れふとさま! た、たすけへぇぇええええ」
「――――しぶとい。何時まで醜態をさらすのだ?」
セオルドを抱えながら無感情に金髪の男を見つめると、顔面を涙や鼻水でグチャグチャにしながら自分の首を掻っ切った。
おびただしい量の血が辺り一面に噴き出すが、俺やミリアたちには一滴も届かない。
すでに金髪の男から興味が失せていた俺は、ヤツの断末魔諸々を無視してミリアの隣にセオルドをそっと寝かせる。
そして残る能天使に向きなおった。
「……ほう?」
俺は微かに感心する。
なぜなら、俺が能天使に向き直った時点でヤツは自身の【神核】を完全に守っていたからだ。
「賢いな。今の一連の行動だけで【神核】を守るに至ったか」
「貴様……この崇高なる天使たちの【神核】に直接影響を与えるなんて……一体何をした!?」
【神核】――――それは神々や天使などの【天界族】が有するモノであり、いわゆる心臓……否、魂みたいなものだった。
心臓の位置にあるのだが体内に直接存在はせず、特殊な方法でしか触れることは出来ない。
そして天使や神々はその【神核】を破壊されてしまえば復活することは不可能だった。
「まあいい……何をしたか知らないが、これで僕には同じ方法は使えないぞ。それで? これでも僕にさっきの大天使長と同じで贖罪を求めるかい?」
「ああ」
「嫌だね、ばーか。あははははははははは!」
「……」
目の前の能天使は俺が【神核】に影響を与える術を持っていると知り、自身の持つ神力や魔力で【神核】をコーティングして影響できぬようにしている。
そして能天使も贖罪をする気はないようだ。
まあ分かりきっていたことだが、俺はそれを聞かねばならぬ。
なぜならそういう存在だからだ。
「貴様だろ? 僕の【神聖結界】を壊した不届き者は」
「そうだが?」
「――――殺す」
能天使は空中に大量の光の槍を浮かべると、連続で俺に放ってきた。
一撃一撃が地面に大きく穴をあけるような威力で、たとえ上位の討滅者と言えども無傷ではいられないだろう。
「ハハハハハハハハハ! 避けられないよねぇ!? 僕を前に偉そうな態度をとるからそうなるんだ! あははははは!」
「――――現実も見れぬ貴様の目は本当に機能しているのか?」
「ハハハハハ……ハハハ……は?」
無傷で立つ俺を見て、能天使は固まる。
「そんな……どうして……確実に当たったんじゃ……?」
「稚拙極まりないな。これで上位者をよく名乗れるものだ」
「貴様ああああああああああああああ!」
俺の言葉に能天使は激昂した。
そして両手に光の槍を握り、背後に同じように光の槍を大量に浮かべて迫って来た。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええええええええええ!」
「ふむ……現実を見れぬ目と同じことしか語れぬ口。欠陥だらけだな」
「黙れええええええええええええええええええええ!」
大量の光の槍も、能天使の直接攻撃も、俺は右手に握る【折れぬ剣】ですべて捌いた。
もちろん、ミリアやセオルド、そして俺も無傷である。
「どうしてどうしてどうしてどうして!? 何で当たらねぇんだよおおおおおお!」
「自分が弱者だということすら認識できぬ脳……このような出来損ないしか創れぬ神など失笑だ」
「ああああああああああああ!」
もはや言語すら忘れたのか、叫び狂ったように激しい攻撃を仕掛けてくる。
だが、どれも俺には届かない。
右から斬りかかってくれば、【折れぬ剣】で受け流し、受け流している間に宙に浮く光の槍と左からの攻撃を行われるが体を軽く捻れば当たらない。
どれだけ攻撃しても意味がないと分かった能天使は、一度距離をとると激しく悪態を吐いた。
「クソクソクソクソおおおおおおお! お前なんか……お前なんか……! 本気の僕ならこんな失態を晒すこともなかったのに……!」
「ほう? 本気ならば俺に勝てるというのか?」
「当たり前だ!」
能天使は激しい憎悪の籠った視線を俺に向ける。
いやはや……ずいぶんと子供っぽい能天使だ。
人間に比べれば長い時を生きているのだろうが、俺から見れば若い。
だから俺を見ても何も言わないのだろう。
もし二万年前のあの戦いを知ってる天使だったら、俺を見て正気ではいられないだろうからな。
「よかろう。ならば本気を出させてやる。そして――――俺の力の一端も見せてやろう」
「何!?」
俺はゆっくりと右腕をあげた。
すると俺の右手の中指に嵌められた指輪の赤い宝石が妖しく光る。
そして俺の背後の空間に縦一直線の亀裂が生まれた。
その亀裂は次第に広がり、中から眩い光が溢れ出す。
「なっ、何だ!? 何が起きている!?」
あまりの眩しさに能天使は腕で目を覆うと、やがて光は収まった。
「貴様、何を――――」
能天使はそこまで言いかけて、周囲の景色に言葉をなくした。
俺と能天使は一直線の大理石で作られた床の上に立っている。
だがその左右の壁が普通ではなかった。
奥までズラリと並ぶ重厚な扉の数々。
その一つ一つが幾重もの鎖と鍵で厳重に閉ざされていた。
「なんなんだ……この空間は何なんだ!?」
「みっともなく喚き散らすな。今貴様を処断する武器を用意してやろう」
「なにぃ!? この僕を処断するだと!?」
「開錠――――貴様を裁くのはこの武器だ」
周囲を警戒しながら俺の言葉に激しく反応する能天使をよそに、俺は右腕を横に掲げた。
すると右横に存在する一つの扉の幾重にも絡み合った鎖と鍵が砕け散った。
そしてその中から一振りの剣が出現し、俺の右手に収まる。
「それが……この僕を殺す武器だって……?」
俺の行動を警戒していた能天使は、出現した剣を見て肩を震わせた。
「ふふふ……あははははははは! バカなのか!? テメェは! そんなボロボロの錆びたモノで僕を殺すだって!? ずいぶんと舐められたもんだなぁ!?」
そう、俺の手に握られていたのは【折れぬ剣】のようなちゃんとしたものではなかった。
完全に風化しており、剣身のみならず柄までもが赤銅色になっている。
しかもその剣身は錆びているだけでなく、あちこちが大きくひび割れていて今にも崩れそうだった。
さらに言えば、この手にいしているモノを『剣』だと呼んでいるが、形がかろうじて『剣』に見えるだけであって、他の者が見れば『剣』とは中々言えぬだろう。
だが、これが俺の望んで取り出したモノで間違いなかった。
「まあ貴様の武器なんざ興味はない。それで? 僕に本気を出させるんじゃないのか?」
本当ならばそのような義理はない。
だが、今回ばかりは俺の力の確認の意味もある。
それはこれから先の俺の行動に大きく影響を及ぼす恐れがあった。
……もし予想通りならば……また再び眠ることになるかもしれぬからな。
俺は左手で指を鳴らすと、今度は別の扉が先ほどと同じように解放される。
すると今度は中から黄金に輝く一つの天秤が出現した。
「な、なんだ? そ、その天秤は……」
能天使は天秤の放つ気配に目を大きく開いている。
それもそうだろう。
なぜならこの天秤には、とある神の【神核】が使われているからな。
「【公平無私の天秤】」
その天秤の名を口にした瞬間、俺たちの立っている周りの景色が変わった。
先ほどまで壁一面を埋め尽くす扉があった場所から、今は何もない真っ白な空間がそこに広がっている。
「この空間ではお互いの状態を平等にする事が出来る。今回はお互いに本気が出せる状態を平等にした。つまり、貴様の望む本気とやらが出せるぞ?」
俺の言葉に激昂しかける能天使だったが、実際にその身で感じたのだろう。
先ほどまで抑制されていた力が解放できることに能天使は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「あははははははははは! 本当だ、本当に本気になれるじゃないか!」
「……」
「バカだなぁ、貴様は! あのままならまだ勝機があったものを……それを自ら捨てるとは! いいか、僕たち天使は主である神々の力を頂戴している! その力は一つの宇宙を生み出し、自在に消せるほどだ。しかもこの状態の僕たちは肉体から解放され、【死】という概念を受け付けない。もう貴様はどう足掻いても勝ち目はないんだよ!」
「だから何だ?」
「理解できないのか? なら分かりやすく教えてやろう。今の僕はあのクソゴミ以下の人間と同じ脆弱な肉体じゃないんだよ! それに不老不死だ! そして一つの宇宙を創造し、破壊することもできる! そんな存在に、どうやって人間が勝てるって言うんだ!? ええ!?」
「なるほど……この俺を知らないということは、やはり貴様は最近生み出された天使らしいな」
「あ? 何だと?」
「気にするな。こちらの話だ。さて、状況が整ったところで一つ訊こう。何故今ごろになって人間を襲った? 二万年前の戦いで神々は疲弊し、深い眠りに就いたはずだ」
もう一つの結論が出てはいるが、最終確認の意味も込めて俺は能天使に訊く。
すると能天使は心底バカにした様子で答えた。
「ああ? この状況で質問だと? ……まあいい。どうせ殺すんだから、最後に教えてやるよ。今の僕は機嫌がいいからねぇ。いいか? 復活したからだよ。僕らの創造主たる神々が、眠りから覚めたんだよ! でも以前のように力を振るえるほど回復していなかった。だから主たちは僕らに命じたのさ。人間ども生命力を奪い、負の感情を集めろと! 主たちの力にするためにね!」
「そうか」
俺が目覚めたからにはヤツらも起きているだろうと思っていたが、どうやらその予想は当たっていたようだ。
それに、まだ力が完全に回復していない点についても……いや、俺の方は今から確かめるのか。
そのために【世界庫】を開き、この剣を取り出したのだ。
「つまり貴様らは神々の命令で人間たちを襲い、神々はその生命力や負の感情を用いて完全に復活するつもりなのだな」
「そうだと言ってるだろ? さて、ご褒美の時間は終了だ。ここから先は今までの行いを後悔させるほど、徹底的に痛めつけてやるからさぁ!」
能天使はそう言い、両手を広げるとそこに一つの宇宙が創り出された。
その規模は未だに両手を広げた程度の大きさだが、そこに秘められたエネルギーはすさまじいだろう。
「さあ、隕石を相手にしたことはあるかい?」
すると能天使の生み出した宇宙から、巨大な隕石が超至近距離で射出された。
「まあ、この攻撃ですべて終わるんだろうけどねぇ?」
能天使の言う通り、普通の人間ならば何も対処できず、その身を消滅させるだろう。
なんせ巨大な隕石だ。
それが超高速で射出されるなど悪夢以外何ものでもない。
だが――――それは普通の人間が相手だった場合の話だ。
俺は無感情のまま、ただ手にした剣を振る。
射出された隕石は、俺の剣が触れたことで――――爆ぜた。
「なあ!?」
塵一つ残さず、隕石は爆ぜて消えたのだ。
とはいえ、隕石が一つ爆ぜた際の衝撃は残っており、凄まじい爆風が俺と能天使を襲う。
だが、本気になっている能天使には影響はなく、俺もまったく問題ない。
「バカな!? 隕石だぞ!? しかも至近距離で放ったんだ! それをたかが人間である貴様に――――」
「――――一つ、貴様は間違えている」
「なに!?」
「俺は『人間』ではない。『人』だ」
「『人』だと!? いったい『人間』と何が違うと――――」
能天使はそこまで言いかけて、何かに気付いた様に驚愕の表情を浮かべた。
「待て。待て待て待て待て! き、貴様……まさか……!?」
どうやら俺のことを直接知ってるわけではないようだが、二万年前の出来事や俺の存在を聞いてはいたみたいだな。
とはいえ……。
「分かったところでもはや手遅れだがな」
「そ、そんな……あり得ない! だって、だって……」
「現実逃避をするのは勝手だが、この俺を前にそのような余裕があるのか?」
隙だらけの能天使に接近すると、俺はそのまま右腕を斬りつけた。
その瞬間、能天使の右腕が爆ぜる。
「ああああああああああああああ!? ぼっ!? ぼ、ぼぼぉ僕の、み、右腕! 右腕がああああああ!?」
「ほう? 人間以下と評したこの剣に、右腕を消されるとは……貴様の体はずいぶんと脆いようだな」
「だああああああああまあああああああああああれええええええええええええええ!」
怒り狂った能天使は、すぐさま俺から距離をとると先ほどと同じ隕石をいくつも生み出し、俺にめがけて撃ち続ける。
「消えろ! 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろおおおおおおおおおおおおお!」
「ふん」
だが、俺には何の意味もない。
迫りくる隕石を、ただ剣で斬りつけるだけ。
それだけで隕石は爆ぜ、消し飛ぶ。
「な、何なんだよ……何なんだよその剣はあああああああああ!」
俺の持つ剣は、相変わらず錆びたままで今にも崩れ、壊れそうに見える。
だが、先ほどと違うのは、ひび割れた部分が赤く脈打っているのだ。
「【創世の剣】――――世界の始まりを、見たことはあるか?」
「あああああああああああああ!」
能天使に余裕など残されていなかった。
隕石の嵐はもちろん、光の槍も無限と思えるような数を生成し、太陽や銀河、ブラックホールまでも俺に向けて解き放つ。
だが、俺の【創世の剣】の前ではすべてが無意味なのだ。
斬りつければ、爆ぜるだけ。
俺は全ての攻撃を剣で斬りつけ、爆ぜさせながら優雅に歩く。
「来るな……来るな来るな来るな来るな!」
「――――世界の産声を聞け。これが、創世の一端だ」
俺は逃げようとする能天使の腹部に、容赦なく【創世の剣】を刺した。
すると能天使の体が徐々に膨れ上がっていき、体内からは紅蓮の炎が今にも溢れ出しそうになっている。
刺されたときは不老不死であることを思い出し、少し冷静さを取り戻した能天使だったが、すぐに気づいたのだ。
――――【神核】にまで影響が及んでいることに。
それに気付いた能天使は、みっともない醜態をさらした。
「バカな……バカな!? い、嫌だ! ぼっぼぉ僕は、まっままだ死にたくない! こ、こんな……こんな死に方なんて……! 嫌だよぉ……嫌だああああああああああ!」
必死に剣を抜こうとするが、能天使は剣に触れる事が出来ない。
触った瞬間、左腕まで爆ぜたのだ。
体中がボコボコと膨れ上がり、顔にまでそれが出始め、もはや爆発寸前。
「こんな……こんなああああああああああああああああああああああああ!」
俺は指を鳴らした。
その瞬間、今にも体内から派手に爆ぜて死にそうだった能天使の体を、どこまでも深い闇が吸い込んでいった。
それは能天使の出現させたブラックホールにも見えるが、あれは本来宇宙に存在するブラックホールであり、俺が生み出したのはそれすら飲み込む非常に危険なモノ。
突然の闇に何が起きた関わらないといった表情で、能天使はそのまま飲み込まれてその存在すべてが無に還った。
闇が消えた後、【創世の剣】が地に落ちる。
俺はゆったりとした足取りでその剣を拾った。
「貴様には派手に散る資格はない」
こうして俺はその場を後にするのだった。
主人公は強大な力を持っていますが、万能ではありません。
また、その力にも制約があります。
そして使用した後の代償も……。




