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「――――お兄ちゃん!」

「分かってらぁ!」


 セオルドは自分の真理武装である二丁拳銃【デッドイーグル】を使い、襲い掛かって来る【天使】の群れと戦っていた。


「おい、【討滅院】に連絡は!? 応援は来ねぇのかよッ!」


 近くにいた仲間の討滅者にそう訊くが、その仲間も必死に天使と戦いながら答えた。


「もう何度も連絡してる! だがこの【神聖結界】のせいで通信手段が封じられてるんだ! 外への救援を呼びにも行けない!」


 仲間の討滅者が叫んだ通り、街全体を純白のベールが覆っていた。

 それは【天使】の使う結界の一種であり、物理的な行動の制限はもちろん、通信なども妨害する効果を持っていた。

 解除するには結界を張った天使を倒すか、超強力な攻撃で壊すしか方法がなく、そして今この場に【神聖結界】を破壊できるだけの力を持った実力者は存在しない。


「無駄だ! 貴様ら出来損ないは主の贄となって死ぬ運命を黙って受け入れるしかないのだ!」

「吠えてろクソ天使……!」


 セオルドは的確に天使たちの羽を狙い、機動力を削いだうえで一体ずつ確実に仕留めていった。

 だが、それでは間に合わない。

 あまりにも天使たちの数が多すぎたのだ。


「いいか、とにかく一般人を逃がせ! 何としても守るんだ!」


 必死に逃げ惑う一般人を庇いながら、討滅者たちは天使と戦い続ける。

 【神聖結界】のせいで外への逃亡は出来ないが、それでもまだ被害の少ない場所へと誘導すれば多少はマシになった。

 一方ミリアもセオルドと同じように、自身の真理武装を解放していた。


「叩き潰せ――――【グランドブレイカー】!」


 そして、ゼフィウスとの模擬戦の際に使用できなかった、真理武装の能力も開放する。


「揺らせ! 『アース・インパクト』!」


 ミリアは目の前の地面にに思いっきり巨大な鎚を叩き付けると、そこから前方に向かって亀裂が伸び、天使の群れの真下から衝撃波として噴出した。


「おい、ミリア! あんまり街をメチャクチャにするんじゃねぇよッ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? この状況で出し惜しみなんてできないわよ!」

「そりゃそうだがよ……!」


 セオルドは顔を顰めながらミリアと同じように真理武装の能力の一部を解放した。


「『デッドウィング』!」


 拳銃とは思えない連射速度で、羽のような弾丸が大量に撃ち出された。

 弾幕という圧倒的な数の暴力を前に、天使たちも次々と落ちていく。

 だが、それでも数は減らない。


「どうなってやがる……! 異変が起こってたのはガレル方面じゃねぇのか!?」


 どれだけ悪態を吐いても、天使の数は減ってくれない。

 そして負傷する討滅者の数が増えていき、確実に追い詰められていっていた。

 最初の内は遠距離から攻撃で来ていたセオルドも、今は接近を許してしまい、近接戦と遠距離戦の両方を強いられている。


「死ねぇ!」

「テメェがな!」


 凄まじい速度で迫り、光り輝く槍で顔を貫こうとしてくる天使をギリギリのところで躱すと同時にセオルドは天使のこめかみに拳銃を突き付けて頭を吹き飛ばした。

 今は何とか対応できているが、もともとセオルドたちのもとにいる討滅者の数は少なく、さらに言えば現状最高のプレートがセオルドの【ブロンズ・プレート】のみであり、ほとんどが新人と変わらない【ホワイト・プレート】ばかりだった。

 とはいえ、【天使】クラスは【ホワイト・プレート】一人で何とか対処できる強さだからこそ、何とか持ちこたえる事が出来ていたのだ。


「とにかく耐えろ! そうすりゃいずれ討滅院もこの異変に――――」

「そこまで我々が待つと思うか?」

「何!? がはっ!」

「お兄ちゃん!?」


 周囲に指示を飛ばしていたセオルドに、今までの天使たちとは雰囲気の違う存在が突然セオルドの体を蹴り抜いた。

 蹴り飛ばされたセオルドは周囲の建物を壊しながら吹っ飛ばされるも、何とか途中で体勢を整えて耐えた。


「て……テメェは……」


 天使より大きい翼と、頭上に輝く光の輪。

 純白のコートに身を包み、その両手にはそれぞれ光の短槍が握られている。

 光を反射して輝く黄金の長髪は神に仕える存在にとても映えていた。

 男性として恐ろしいほど整った無機質な顔を、その場に跪くセオルドに向ける。


「【大天使長】の一人、ラオン。運が悪かったな、人間」

「だ……大天使長……だと……」


 本来、【大天使】ならば目安として【レッド・プレート】が一人、または【ホワイト・プレート】が十人いてやっと戦う事が出来る存在だ。

 そして【ブロンズ・プレート】であるセオルドなら、何の問題もなく戦う事が出来る。それは【ブルー・プレート】のミリアも同じだった。

 だが、セオルドを冷たく見下ろすラオンと名乗った【大天使長】となると、話は変わって来るのだ。

 『長』と付くように、その天使の軍勢を率いる存在である彼らは――――格別に強い。

 今回現れたラオンはその実力だけで言えば【権天使プリンシパリティ】と【能天使パワー】の中間に位置する存在であり、目安上【ブロンズ・プレート】は【能天使】を一人で相手できることになってはいるものの、あくまで目安は目安でしかなく、凄まじい脅威だった。


「どうやら人間の中ではそこそこやるようだが……所詮はその程度。消えろ」

「ッ!」


 次の瞬間、一瞬にして生み出された光の槍がセオルドめがけて射出された。

 その攻撃をセオルドは転がりながら避けると、すぐにラオンに接近する。


「突然現れて好き勝手言うんじゃねぇよ……!」


 セオルドは【デッドイーグル】による射撃を行うが、すべてラオンは防ぎきる。


「温い。そのような攻撃で我を殺せると思うな」

「んなこと知ってらぁ!」


 銃撃を行いながらも距離を詰めていたセオルドは、先ほどのお返しと言わんばかりにラオンめがけて右足蹴りを放った。

 だがラオンは焦る様子もなく淡々と片手の短槍でその蹴りを防ぐと、もう一方の短槍でセオルドを突き殺そうとする。


「クソッたれ!」


 セオルドはギリギリで反応してその短槍を避けると、そのまま激しい近接戦を繰り広げた。

 両手に拳銃を握ったまま蹴りなどの徒手空拳を用いてラオンを攻め立てるも、ラオンはそれらすべてを淡々と捌き続ける。

 だが、セオルドもただやられるのではなく、時折超接近状態からの射撃で攻める手をさらに加速させた。


「オラオラオラオラオラあああああ!」

「フン……出来損ないの人間らしい品のない攻撃だな。手数を増やすとは、こうするのだ」

「なっ!?」


 突如セオルドとラオンの周囲を取り囲むように光の槍が無数に出現した。

 そしてそれらは連続でセオルドめがけて放たれる。


「チッ!」


 光の槍は的確にセオルドのみを狙うため、ラオン自身に影響はない。

 結果的にセオルドはラオンの攻撃を捌きながら、次々と放たれる光の槍も相手にしなければならず、その身に多くの傷が増えていった。


「っらああああああ! 『デッドウィング』!」


 セオルドは両手を広げ、【デッドイーグル】の能力の一つである『デッドウィング』を発動させながらその場で高速回転し始めた。

 鋭い羽のような銃弾は、ラオンの放つ光の槍を撃ち落としていく。

 だが、セオルドの『デッドウィング』は長時間使い続ける事が出来ない。

 霊体だろうが容赦なく切り裂く羽の弾丸を拳銃の連射速度を超える速さで撃ち続けるため、銃身が持たないのだ。

 今もセオルドの両手の中で【デッドイーグル】が煙を噴出させながらギリギリ保てている状態だった。

 しかし、近距離でのこの行動にさすがのラオンも防ぎきることは出来ず、何か所か体を切り裂かれ血が滲んでいた。

 その事実にラオンは激昂した。


「人間如きが……この我に傷をつけたなああああああああ!」


 圧倒的な力の奔流が周囲を襲い、周りの建物を吹っ飛ばした。

 セオルドもラオンの激昂により体勢を崩してしまった。


「しまっ――――」

「死ねええええええっ!」


 閃光のような一撃がセオルドめがけて放たれるも、間一髪でミリアが割り込み防ぐことに成功した。


「ぐっ!」

「ミリア!?」

「私はいいから、お兄ちゃんは早く体勢を立て直して!」

「あ、ああ!」


 ミリアの出現により、攻撃を防がれたラオンはますます怒りのボルテージが上がっていく。


「許せぬ……許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ……! この我の攻撃を邪魔するなど万死に値する!」

「うるさいわね! アンタたちは私たちを襲ってるんだし万死もクソもないじゃない!」

「黙れええええええええ!」


 怒涛の連撃にミリアは【グランドブレイカー】で防ぎ続けるも、圧倒的な力と技量を持つラオンに追い詰められていく。


「くぅぅ……!」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇええええ!」

「――――ミリア!」

「ッ! お兄ちゃん!」


 何とか体勢を立て直したセオルドが声をかけ、兄妹だからこそできる完璧なタイミングで二人が位置を変え、再びセオルドがラオンの相手をしようとしたそのときだった。


「――――目障りだね」

「え――――かはっ……」

「ミリアああああああああああああああああああああああ!」


 ミリアの腹を、一本の光の槍が貫いた。

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