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「――――ここが、【ラグナロク】のある街だっけ?」

「はい」


 純白の二翼を持つ、人間離れした美貌の男が上空に佇んでいた。

 その背後には、男と同じ二翼の羽を持つ【天使】たちが大勢控えている。

 だが、男の身に纏うオーラが、他の【天使】たちと格が違うことを物語っていた。


「確か東の方にも何人か向かってるんだよね?」

「はい。ですが、向こうは陽動でこちらが本命でございます」

「分かってるさ。上はまだ忙しくて動けないから、【能天使パワー】の僕が出てきたんだしね」

「感謝いたします」


 男の言葉に【天使】は恭しく頭を下げた。


「今回は人間どもを欺いて、【討滅者】とかいう不敬者どもの卵を生み出す場所がある街を狙って攻撃するんだよね?」

「その通りでございます。現在、陽動の効果でこの街から多くの【討滅者】が移動していますので……」

「こんなまどろっこしいことしなくても、正面から殺してやればいいじゃん。人間なんて所詮有象無象だろう?」

「そうでございますが、ヤツらの持つ武器は中々侮れません。それに弱者の集まる場所を狙えばより多くの負の感情が集められ、我らが主たちの復活にも近づくというものです」

「ふぅん……人間の武器如きにやられる可能性があるって言われるのは殺してやりたくなるほど心外だけど……まあ主たちの復活に近づくならいいや」


 それだけ言うと、まるで礼服のようなモノに身を包んでいる男は、白色の手袋で包まれた両手を合わせせ、眼下の街を冷たく見下ろす。


「汚い場所だ。人間どもの薄汚い欲望と腐った息、醜悪な肉体がひしめいてる――――それじゃあ、掃除を始めよう」


 男がそう言った瞬間、合わせていた手を開いた。

 するとその間に純白の光の玉が浮かび上がる。


「『聖白せいびゃくの雨』」


 その瞬間光の玉は天高く浮かび上がり、無数に枝分かれして街行く人々へと容赦なく降り注いだ。

 光に貫かれた人々はその身を焦がし、消えることのない炎に焼かれ死ぬ者や、まるで槍に貫かれたかの如く腹に穴が開き死ぬ者など、惨劇を巻き起こした。

 しかし、男はどこか不機嫌そうに言う。


「……フン。我ながらなんてちっぽけな力だ……気に入らない。力を解放する事が出来ないっていうのはとても不愉快だ。我々を生み出した崇高な主たちとは違うけど、仮にも原初の神として存在していた偽神の創った星ってことか」

「……この星でなければ、主たちも存分に力を振るうことができるのですが……」

「できていれば今ごろこの星は存在していないさ。まあ力を抑制されてるとはいえ、人間ども相手には十分だろう?」

「はい、そうでございます」


 突然の襲撃に逃げ惑い、叫ぶ人間を見下ろしながら男は冷酷に笑った。


「さあ――――主へ捧げよう。人間どもの命を――――!」


◆◇◆


「ミリア、どうだ?」

「どうって言われても……もともと万が一のための巡回でしょ? 何かあっても困るわよ」

「それもそうだな」


 この休日、ミリアとセオルドは以前ゼフィウスと買い物で訪れたショッピングモール周辺を巡回していた。

 巡回と言っても一般の人間が普通に買い物などで休日を楽しんでいる中、【天使】の出現は感じられない。

 しばらくの間見回りをした後、近くの喫茶店で二人は休憩をした。


「そもそも【天使】相手に巡回って無駄だと思うんだけど」

「間違いないな。魔物なら出現場所は森とかだし、そこを重点的に見て回ればいいが……【天使】は神出鬼没。それこそこの街中に突然現れることもあるからなぁ」

「腐っても【天使】だもの。それくらいは平然とやってのけるでしょう?」

「まあな。でもマジですることねぇなぁ……いや、平和なのが一番なんだが……」


 セオルドは歩き行く人々を眺め、そうこぼした。


「……父さんたちが死んで、もう十年か……」

「……そうね。父さんも母さんも、こんな日常が続くように戦ってた……」


 不意に寂し気な表情でミリアも人々を眺める。

 その先には、手をつないで歩く親子の姿があった。


「……もし、父さんたちが生きてたら……私たちもあんな風に過ごせたのかな……?」

「……」


 ミリアの問いにセオルドは黙っている。

 お互いに沈黙が訪れ、何をするわけでもなく人々を眺めていたとき――――突然人々を白い光が貫いた。


「なっ!?」


 光の雨は止まらず、どんどん街の人々を貫いていき、地面が真っ赤に染まっていく。

 それと同時に激しい破壊音と振動がセオルドたちを襲った。


「な……何が起きてやがる!?」

「お兄ちゃん、アレ……!」

「ああ!?」


 ミリアが指さす上空に視線を向けると――――。


「……おい、マジかよ……」


 そこには、【天使】の軍勢が悠然と佇んでいたのだった。


◆◇◆


「はぁ……」


 俺――――ゼフィウス・デュー・ローゼンは一冊の本を読み終えるとため息を吐いた。

 この休日、俺は決めていた通り学び舎の図書室を訪れ、色々と調べていたのだ。

 調べる内容としてはまず俺が眠りに就いてどれほどの時間が経ったのか。

 それと眠っていた間に何が起こったのかを重点的に調べていった。

 そして一冊の歴史書を見つけ、読んだのだが……。


「……まさか、俺が眠りに就いて二万年の時が流れているとはな……」


 数百……長くとも数千年程度だと考えていた俺だが、ふたを開けてみれば二万年もの長いとかそんな次元ではない眠りに就いていたようだ。


「どうりでルクドールの技が神代のモノなどと言われたわけか……文字通りあの時代は神々がまだ地上で力を振るっていたからな。神の時代と言っても間違いではない」


 さらに調べてみると、どうやら俺と神々の決戦――――つまり、俺が眠りに就くことになった戦いだが、それが起こって以降は特別大きな戦いは起きていないようだ。

 それに俺と神々の戦いも詳しいことは何も分かっておらず、取りあえず大きな戦いがあったということだけ記されていた。


「ふむ……まああの時は出し惜しみしなかったからな。二万年眠っていてもおかしくはないか……」


 だが、二万年の眠りを代償として仮初の平穏は手に入れられたようだ。

 歴史書でも俺の戦い以降は全人類を巻き込むような大きな戦争も起こっていないようだしな。


「……とはいえ、やはり『大王』は逝ったか……」


 俺と同じ時代に『創られた・・・・』ため、不老だったが……。


「……まさか一つの神話体系の主神どもと相討ちとはな……」


 本を読む限り、俺の友の一人であった『大王』は俺が眠りに就いてから一つの神話体系と全面戦争をして、相討ちになったようだ。

 神々も一筋縄ではない。

 ……すべての始まりである『彼女』から派生し、今となってはこの世界だけでも数えきれない神話体系が生まれている。

 それも空の彼方……宇宙にまで認識を持っていけば、神々の数はほぼ無限と言ってもいいだろう。

 事実、俺はそれらを相手にしたが完全に滅ぼすことは出来なかった。

 そして俺が眠っている間に新たな神々も生まれただろう。

 それらが善い神であれば何の問題もないのだがな。


「取りあえず、どんな流れがあったのかはある程度把握は出来た。後は地理とこの時代にあと何人の友が残っているかだが――――」


 新たな本に手をのばそうとした瞬間だった。


「……【天使】か」


 俺の認識できる範囲で【天使】の出現を察知した。

 しかも、軍勢を引き連れてやって来たらしい。


「……この気配は……【能天使パワー】クラスだな」


 他にも【天使長】クラスの気配も感じるが、一際大きい気配を放つのは【能天使】だけだ。


「む……そう言えば、セオルドが巡回をすると言っていたが……」


 しかも、実力者は皆出払っているという話だったはず。

 よく集中すると天使どもは人間を襲っているようで、次々と小さくも尊い命が散って逝くのを感じた。


「……」


 俺は無言で立ち上がると、そのまま学園の外に出る。


「……あの方角か」


 そして天使たちの気配が集まる方向に、俺は駆け出すのだった。

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