プロローグ
―――――ピピピピッ――――
目覚まし時計の無機質な音が俺から幸せな時間を容赦なく奪う。せっかくの春休みなのに高校の時の癖で目覚ましをかけてしまっていたみたいだ。
俺は二度寝しようとしたが、中途半端に目が覚めてしまったので仕方なく起きることにした。
「ふぁあ~~あ」
ん?何かいつもより声が高かった気がするが・・・気のせいだろ。
眠気を飛ばしに1階の洗面所へ顔を洗いに行く。何だか立った時の視線も若干だが低くなった気がする。
それよりも眠気を覚ますことを優先し、のろのろと洗面所へ向かうと、妹の菜緒が一足早く使っていた。
俺は菜緒が使い終わるのをぼーっと待つことにした。菜緒は洗い終わるとタオルでごしごしと顔を拭き、鏡の前で何か始めた。つーかまだ終わらんのか。
その時俺が映ったのか分からないが菜緒が後ろを振り返り、俺を見た途端驚いた表情になり茫然自失としてしまった。
「? お~い菜緒?どうした?」
菜緒の目の前で手を振りながら俺が声をかけると、口をパクパクさせながら言った。
「お、お兄ちゃ・・・ん?」
「はあ?記憶喪失か何かなの・・・?」
すると菜緒が鏡を見ろというジェスチャーをしてきた。なので菜緒で隠れている鏡が見えるよう体をずらすと、長く綺麗な黒髪で背も高く、出るとこ出て締まるとこ締まってる美女が映った。
「?」
俺は両手をバタバタと動かしてみる。鏡の中の美女も倣うかのようにバタバタ動かしている。
次に変顔を決めてみた。しかもとびっきりのやつを。しかし鏡の中の美女も同じ顔をしてきた。
最後にウィンクをした。鏡の中の美女もウィンクしてくれて危うく鼻血が出そうになったが我慢した。破壊力はバツグンだった。
じっと菜緒と顔を見合わせる。そして2人同時に叫んだ!
「お母さん、お父さん!俺(お兄ちゃん)が”女の子”になってるんだけど!」
そしてそのまま顔を洗うこと以上の衝撃で目を覚ました俺は、菜緒とリビングに駆け込んだ。