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角のあるもの

 彼は己の額から生える鋭い角に触れてこう聞いた。

「あなたは異形でありますか」


 角のない私は角のある彼にどう答えれば良いのだろう。

「私は異形ではありません」と答えればよろしいのか。であるならば、角のある彼は異形であるということなのだが、なぜか私には彼の姿を恐ろしくも怪しくもおかしくも感じてはいないので、そう言うことを素直に口には出せずにいる。

では「あなたは異形ではありません」と言うのがよろしいのか。そうであるならば、紛れもない私こそが異形であるということなのだけれども納得はいかぬ。なぜならば私の妻も子供もまたは母や父や友人も私と同じ姿かたちをしているからで、我らの多くは角を持たずつるんとした額をしているばかりであって星に広く行き交う我らの多くもそういう平らな額をしている。


困り果てて黙り込む私に、角のある彼は重ねてこう聞いた。

「では、あなたとわたしは同じ生き物でありましょうか」


否とも応とも言えずに私はまた黙り込む。

彼の額こそ角が生えていはするが、角を除けば彼と私の姿は違わずに同じ位置に目鼻口があり手足は二本ずつあり指もまた五本あれば開もできるし閉じることもできた。むしろ向き合い見つめ合っていれば彼の方こそ私よりも美しく私よりも何事に対しても誠実で器用であることは間違いなかった。

よりよく言うならば同じ生き物であった際、私こそが彼よりも才能としては劣っているということであるが、しかし彼には角がある。彼を除いて私を含めた我らは生き物として角をもたない種族であるのが本来であった、しかしである、その種族の中に彼を含めてしまったらば我らの種族は角を持つもの持たぬものと分かれることになるのだろう。角を持つもの持たぬもの、頭であるなし分けることができ優劣を図ることができ正悪考えることができるようになった我らはきっと、持つもの持たざるものの優劣正悪を定めようと奮闘するであろうことは目に見える結果である。

争いを好むのであれば彼には微笑んで「君と我らは同じ同士である」と答えて握手を求めるだろうが、争いを好まぬのであれば一歩後退をして「君と我らは違うものである」と答えて彼らを蔑むだろう。

私は悩んで困ったように立ち続ける彼に自分の考えの全てを打ち明けた。


彼は同じように立ち続ける私に向かってこう言った。

「わたしをあなたと違うものだと分けたのならば、あなたがたはわたしを蔑むのですか」

硬い声音であった。


蔑むのか、これにはイエスと素直に答えることができる。

我らは星で一番えらく強く賢く正しいからである、とこれが答えの理由だ。自然と調和するものより抜け出し新たな生物として進化した我らは、自然からまた我らの手足に代わる便利な物を作り出すことができ、自然では手に入れられない食べ物を作りだし、自然とは関係ない新たな知識を作り出してきた。我らは作るものであり、作ることができない獣たちよりも遥かに優れた種であることは確実である。自然から抜け出して新たな文化と調和と社会とを作り出した我らこそが正当なる進化を遂げた正統な血族である。

まだ言えることは山ほどあるのだが、私は完結を心がけて答えた。これだけが我らの根幹に根付く優秀な血族たり得る根拠であると声高々に証明する。


疲れたように地べたに腰を下ろした彼に、私は胸の無意識のところで密かに勝ったと嘲った。

彼は大きな瞳で私を見る。彼の瞳は深く暗くあり、ときに翻って明るく輝いた。

「あなたは疲れはしませんか」


足が棒のように固くなっていることは知っていた。疲れているのだろうなとは感じているがここには腰を下ろせる場などない。

「疲れてはいるがここに椅子はない。座ることなどできないよ」

困り果てて言った私に彼は小首をかしげて「なぜ地べたに座らないのです」と聞く。

「尻が汚れてしまうだろう」「叩けば落ちますよ」「それでも嫌なものは嫌なのだ」


「ならば椅子を作ればよろしい。あなたの種族は作り出すことができるのでしょう、ならば椅子を作ればよろしい」


そんなこと、できるはずもない。私は生まれてこの方、何かを作ったこともなければ作るために必要な道具などを手に持ったこともないのである。

それを弱って彼に告げると彼はおもむろに立ち上がり背の高い大きな気の幹に足を掛けて登っていった。そして大きな葉を何枚か手にもって降りてきた彼は葉を何枚も重ねてそれなりの敷物を作り上げて私の足元に敷いた。

「これであなたも座ることができる。わたしはあなたが座るための敷物を作り上げたのだが、これでわたしとあなたは同じ立場の生き物であるということになるのだろうか」

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