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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「君のため」だと言っていたのに、俺は知らない女のベッドにいた

作者: Tahu aci
掲載日:2026/02/14

僕の名前はリョータ。

今は二十三歳だ。

恋人の名前はミスハ。

僕たちは幼い頃からずっと孤児院で育った。

生まれたときから、誰にも必要とされなかった。

親は僕たちを置いて行った。



そのまま、戻る場所もなく、頼る場所もない。

だから、僕たちはお互いしかいなかった。

たとえ世界が冷たくても、二人でなら生きていける――

そんな気持ちを、僕はずっと持っていた。

ミスハは小さい頃から、ずっと「大学に行きたい」と言っていた。

白い卒業式の服。



トーガを着て、晴れやかな笑顔で立つ自分。

それが彼女の夢だった。

僕の夢は、そんな彼女を見守ることだけだった。

「いつか、君を卒業させたい」

その思いだけで、僕は自分の人生を犠牲にすることを決めた。

だから、僕は大学を辞めた。

僕の夢を諦める代わりに、彼女の夢を買うために働くことにした。



今、僕は東京の片隅にある小さなコンビニで働いている。

レジに立って、笑顔を浮かべる毎日。

客の顔を見て、笑って、商品のバーコードを読み取る。

それだけで、僕の心は満たされる――はずだった。

しかし、僕の体は疲れていた。

毎日夜遅くまで立ちっぱなし。

足が痛い。

目がかすむ。

それでも、僕は笑顔を続けた。

「これが、彼女の未来に繋がるなら――」

そう思いながら。



夜の帰り道

その夜、僕はいつものように店を出た。

東京の郊外は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

街灯の黄色い光が濡れた道路に反射して、まるで世界が少しだけ優しく見えた。

でも、静けさの中には不穏な空気が混じっている。

夜の街は、昼の顔と違う。

人の心も、夜になると別の形になる。

少し先に、数人が集まって騒いでいる。

ビールの缶。

笑い声。

酔った声。

僕は気にせず、通り過ぎた。



その先の路地へ入ると、さらに静かになった。

人影が少ない。

風が冷たい。

足音だけが響く。

交差点の先で、ひとりの女性が立っていた。

その姿は、夜の闇に溶けそうだった。

年齢は二十八くらいか。

髪は乱れて、肩が少し震えている。

顔は赤く、涙が頬を伝っている。

「くそ…」

彼女は小さく呟いた。

「こんなはずじゃなかったのに…」

その声は、路地に消えそうだった。

でも、僕の耳にはしっかり届いた。

僕はただ通り過ぎようとした。

ただ家に帰りたかった。



ミスハが待っている。

彼女の笑顔が見たい。

でも、彼女の姿が僕の心を止めた。

「助ける必要なんてない。

 でも、無視できない」

僕はそう思いながら、足を止めた。

彼女との出会い

彼女に近づくと、彼女は僕を見上げた。

目は赤い。

でも、そこには何かを求める光があった。

「待って…」

彼女が僕の足首に抱きついた。

「どこ行くの?

 一緒に飲んで。

 少しだけでいいから…」

その瞬間、僕の体が硬直した。

彼女は酔っている。

でも、その抱擁には力があった。

「ごめん、でも僕は帰らないと…」

僕は言った。



でも彼女は、強く抱きついて離さない。

「お願い…

 私の家まで来て…」

彼女の声は震えていた。

そして、その声が僕の中の何かを揺さぶった。

「…家?」

僕は言いながら、腕を振りほどこうとした。

でも、彼女の力は強い。

僕は自分の意思とは関係なく、彼女の家へと引っ張られていった。


彼女の家

彼女の家は、思ったより綺麗だった。

デスクにはペンタブレット。

壁には絵の紙。

棚には漫画雑誌。

部屋は整っている。

でも、どこか寂しい。

「ここ…」

彼女が言った。


「見て…私の夢。

 誰にも理解されないけど…」

彼女は部屋を見せるように歩いた。

僕は、彼女が“漫画家”だと気づいた。

その瞬間、僕の中に奇妙な感情が湧いた。

「…すごい」

僕は思わず言ってしまった。

彼女は、少し笑った。

でも、その笑顔はどこか壊れかけていた。

「ありがとう。

 でも、私は失敗ばかり…

 もう誰にも認められない」

彼女は涙をこらえた。

僕はそのとき、彼女がただの酔った女性ではないことを感じた。

彼女の心は、何年も前から壊れかけていた。

彼女の求めるもの

「あなたは、どうして私に優しいの?」

彼女が聞いた。

「僕は…」

言葉が出ない。

僕は、彼女を助けるためにここに来たのではない。

ただ、帰り道で出会っただけだ。



でも、彼女の悲しみは、僕の心の奥に刺さった。

「僕は…

 君を知らない」

僕は言った。

「でも、君が苦しんでるのはわかる」

彼女は少し驚いた顔をした。

そして、ふっと笑った。

「知らないのに…?

 それでも、優しいんだ」

彼女は僕に近づいてきた。

距離が近い。

息がかかる。

酒の匂い。

僕は逃げたい。

でも、逃げられない。

「お願い…」

彼女は言った。

「今日は、誰にも会いたくないの」

彼女の目が、僕を見つめる。

その目には、何かがあった。



「…君が欲しい」

その言葉が、僕の耳に刺さった。

その夜の記憶

僕は覚えている。

一瞬だけ。

彼女の唇が、僕の唇に触れた。

温かい。

でも、同時に冷たい。

「待って…」

僕は思った。

「これは違う。

 僕にはミスハがいる」

でも、彼女は止めなかった。

むしろ、僕を引き寄せた。

その瞬間、僕の中で何かが壊れた。

僕は、自分が“人間”であることを忘れた。



ただ、目の前の女性の感情に流されていった。

酒のせいか。

疲れのせいか。

それとも、孤独のせいか。

どれかは分からない。

でも、確かなのは――

僕は彼女に触れてしまった。

そして、彼女も僕に触れた。

その後の記憶は、ぼんやりしている。

断片だけが浮かぶ。



暗い部屋。

揺れる灯り。

彼女の息。

僕の体の重さ。

そして、最後に見た彼女の顔――

満足そうな、でも哀しい笑顔。

朝の目覚め

朝。

僕は目を覚ました。

天井が白い。

匂いが違う。



そして、隣にいる女性の体。

「…嘘だろ」

僕は心の中で叫んだ。

全身が寒い。

頭が痛い。

昨日の記憶が、全部消えたような感覚。

「何が起きた?」

僕は自分に問いかけた。

でも答えはない。

僕は服がないことに気づいた。

彼女も、服がない。

「…これは…」

僕はパニックになった。

これは、明らかにヤバい。



もし、彼女が今目を覚まして、僕を責めたら――

もし、ミスハがこのことを知ったら――

僕の人生は終わる。

僕は必死に服を探し、身につけた。

そして、そっと部屋を出た。

廊下。

階段。

外。

朝の冷たい空気が、僕の顔を刺す。

「逃げなきゃ」

帰宅

僕は朝早く、ミスハの家に戻った。

部屋のドアを開けると、彼女が眠っている。

その姿を見ると、胸が痛む。

彼女の寝顔は、何も知らない。

「僕は…」

僕は言葉が出ない。

「何をしたんだろう」

僕はトイレに隠れて、何度も考えた。



でも、何も思い出せない。

頭の中にあるのは、ただ一つの感情だけだった。

「罪悪感」

ミスハとの会話

ミスハは朝、僕に問い詰めた。

「昨日、どこに行ったの?」

「電話を何度もかけたのに」

僕は嘘をついた。

「残業だった」

彼女は納得していない。

でも、僕はその嘘を続けた。



その時、僕のポケットの中の携帯が鳴った。

ミスハの携帯だ。

それは僕の番号からだった。

「…どうして?」

ミスハが言った。

僕の心臓が止まった。

僕は必死に止めようとしたが、遅かった。

彼女は電話を取り、受話器を耳に当てた。

「もしもし…」

そして、聞こえたのは見覚えのある声だった。

「ミスハ、リョータの携帯が店に置き忘れられていたよ」

僕は息を止めた。

「…」

ミスハは僕を見た。

「リョータ、携帯が店にあったって」

僕は笑った。

無理に、笑った。

「うん、忘れてたんだ。はは…」

でも、笑顔の裏で、僕の心は崩れていた。

そして、彼女が店に来た

その日の夜、店で働いていると、彼女が来た。

昨日の女性が、普通に、商品を買いに来た。

「…あの、こんにちは」

彼女は言った。

僕の頭が真っ白になった。



彼女の顔は、昨夜と同じ。

でも、今日は酔っていない。

目が冴えている。

「私たち、会ったことありますよね?」

彼女が言った。

僕は言葉を失った。


「…え?」

彼女は少し笑った。

その笑顔が、冷たい。

「あなた、覚えてないんですか?」

彼女が言った。

その言葉は、まるで刃物のように胸に刺さった。

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