ー前編ー
「悪いが君とは生きないことにした」
その日、婚約者である彼リーゼロットは、リリラという私は知らない女性を連れて現れた。
「君との婚約は破棄とする」
そんな彼が告げてきたのは関係の終わり。
二人の関係性を一瞬にして叩き壊してしまうもの。
「あのぉ……あなたが、リーゼロットさまの?」
「はい、婚約者です」
するとリリラはふっと笑みをこぼす。
「ふぅん。やっぱりダッサぁい。リーゼロットさまから聞いていた通り、ダサさの極みみたいな人。……ふふふっ、残念でしたぁ」
そんな失礼な言葉を投げつけてきて。
「リーゼロットさまに相応しいのはぁ、やっぱり、あたしみたいなとっても素敵な女の子よね。あなたみたいなパッとしない人、リーゼロットさまには相応しくない……っていうかぁ、まぁ、結婚とかあり得ないですよねぇ」
さらに挑発的な言葉を幾つも並べてきた。
「ねえ、本気なの? リーゼロット」
「もちろん」
「本当に婚約破棄するのね」
「ああ」
「でも……いいのかしら。そうなったら、周りに色々迷惑がかかるわよ。これまでお世話になってきた方々とかにも」
そこへ口を挟んできたのはリリラ。
「いいんですよ! あとはあたしに任せてくださいっ。あなたはもう要らない人ですから……うふふ、大人しく泣いていればいいんですよ」
またまた感じの悪いことを言ってくる。
「ね、リーゼロットっ」
「ああそうだな。リリラほどの魅力があれば何だってできる。わざわざ婚約破棄するほど愛してしまった、という僕の気持ちだって、きっと皆理解してくれるはずだ」
「やったぁ、嬉しい嬉しい嬉しいっ」
「リリラ、君は何も気にしなくていい。そうやって笑っていてくれればそれでいいんだ。それだけでいい」
「ありがとうリーゼロット! 優しくて、だーいすきっ」
こうして私は彼に突然切り捨てられてしまった――のだが。
「うわあああああああ!!」
「きゃあああああああ!!」
リーゼロットとリリラが帰ろうと私の家から出た瞬間、まさかの出来事が。
「うわ! うわわ! うわあ! や、やめ! やめ! やめろ! やめてくれえええええええ!」
「もおおおおおお! 何なのよこれ! あっちいって! あっちいって! 寄ってこないでって言ってるでしょおおおおお!」
というのも、二人は蜂の群れに襲われてしまったのだ。
「さ、刺すな! 来るな! 向こうへ行けっ、うわ! うわ! わ、わ、わわわ! うわあ!」
「来ないで! 来ないでよぉ!」
「おい! リリラ! 盾になれ! 僕を護るんだ!」
「は、はあ!? 何よそれ……あたしを盾にするつもり!? 嘘でしょ、あり得ない……あり得なすぎる!」
しかも途中で仲間割れ。
どうやら互いに本性を隠しきれなかったようだ。
「あんたこそ! 男なら前に出なさいよっ。こういう時こそ護りなさい! そういうものだし、そうであるべきでしょ!? 愛してるんなら!」
「馬鹿なことを言うなっ。無理だっ。……って、う、うわ! わ! おわわわわ! うわあ!」
この辺りで蜂を見かけることはあまりない。なので私も驚いた。そんなことが急に起こるものなのか、と。滅多にないことだからこそ驚きがあったし、慣れていないだけにどう対処するべきかも判断できなくて。危険性がある以上この身一つで助けに行くわけにもいかないので様子だけ見守っておくことにした。
「どうして! どうして助けてくれないのっ、愛しているのに助けないなんて! お、お、おかし、い……じゃない、きゃあ! いや! やあああああ!」
……彼らは蜂の攻撃により落命してしまった。
日頃の行いが悪かったからか。あるいは偶然か。そこは分からないけれど、蜂の群れに襲われた彼らを助けようとする者はいなかった。彼らを見捨てたのは私だけではなかった。その時、誰もが、危機的状況にある彼らを無視していた。




