第六話:一生を捧げる誓い
月明かりさえ届かない夜の温室でリュカは黙々と作業に没頭する。
リュカは日々リアナの車椅子を押し、彼女に自ら歩ける自由を与えてあげたいと強く願い、作業していたのだ。
リュカは震える手で「それ」を抱える。
それは、彼が幾晩も寝ずに削り出した、神木の端材を用いた精巧な「義足」だった。人間の骨格を模し、魔力を通す銀の筋が彫り込まれたそれは、工芸品としては完璧だが、無機質な木の塊に過ぎない。
リュカは国華である「螺鈿牡丹」の接ぎ木された結合部を、注意深く観察した。
「細胞レベルで結合されている。……おそらくエルザ様には特別な力があるのだ。その力を使えば、リアナ様にこの義足を繋げるはずだ」
翌日、リュカはエルザを訪ね、その場に跪いた。
「エルザ様……お願いです。あなたのあの国華を繋いだ力を使って、この義足をリアナ様に繋いでいただけないでしょうか」
脳裏に浮かぶのは、理をねじ曲げる「接ぎ木」の光景。植物の命を融解させ、無理やり一体化させたあの異能こそが、今のリアナを救う唯一の希望だと確信していた。リュカは愛する人の笑顔のために、その推論に魂を売る決意をしたのだ。
エルザは、少し黙ってから静かに答えた。
「いいわよ。でも私にそんな力あるかしら? あの接ぎ木だって、リュカの技術じゃないのかしら?」
「いえ、あれは完全にエルザ様のお力です、受けていただきありがとうございます、断られるのではと心配していました。」
「もともとお姉様が左脚を失ったの私のせいだからね」
エルザの中に後ろめたさがあったのか、リュカの予想に反して彼女はあっさりと承諾し、言葉を続けた。
「そうね…もし足が治ったなら、リュカがお姉様の専属従僕をやる必要はなくなるわね。だったらその後は、私の『専属騎士』として、四六時中、私のそばにいなさい」
リュカは一瞬、息を呑んだ。だが、リアナが再び大地を踏みしめる姿を思い描き、迷いを捨てた。
「……誓います。私は、この国の『女王』となるお方に、一生の忠義を捧げると約束しましょう」
その言葉は、二人の間で全く別の意味として受け取られた。
リュカは「リアナ様が女王になるから、結局彼女を支えられる」と信じ、エルザは「私を女王にし、私に一生仕えると言ったのだわ」と狂喜した。
ほどなくして温室にリアナが呼ばれ、儀式はその場で行われた。
エルザがリアナの生身の傷口と、木の義足を重ね合わせる。彼女の内に眠る「結合」の能力が発動した瞬間、温室にリアナの絶叫が響き渡った。肉と木が細胞レベルで混じり合い、神経が無理やり繋ぎ合わされていく。それは治療というより、エルザの意志という「枷」をリアナの身体に埋め込むような、歪な接合だった。
翌朝、城内は天地がひっくり返るような騒ぎとなった。王女リアナが、自らの足で立ち上がったのだ。
この「奇跡」を目の当たりにしたエドワード大公は、感極まった面持ちで宣言した。
「これほどの奇跡が起きたのは、王家の血が、そして神が、アストレア王国の復権を願っている証だ! 伝統に則り、直ちに『王位継承の儀』を執り行おうではないか!」




